恋愛(ショート)倉庫

菫川ヒイロ

文字の大きさ
上 下
133 / 383
初恋未遂

しおりを挟む





 その日はとても暑い日だった。
 
 
 茹だるような暑さに私はふらついてしまう。
 
 
「大丈夫ですか? 」


 私の身体を抱きとめてくれた彼に、私は返事が出来ずにいた。
 
 
「ちょっと待ってて」


 彼は私を木陰にそっと置いて行ってしまう。
 朦朧とする意識の中で私は彼が駆けて来るのが分かった。
 そして口に流し込まれた水は冷たくて、喉を通って行くのがよく分かる。
 
 
 身体に染み渡るような感覚。
 私は自分の身体が水で出来ているのだと思った。
 
 
「大丈夫ですか? 」


「はい、なんとか。助かりました」


 私は彼に漸く返事をする事が出来た。
 
 
「よかった」


 彼は本当に嬉しそうに、白い歯を見せながら笑った。
 私はそんな彼の笑顔がとても魅力的に見えたのだ。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
「ねえ、これって恋よね? 私、恋をしちゃったのよね? 」


 私は先日の出来事をバーバラにして、聞いた。
 
 
「違うよ? そんなの全然、恋なんかじゃないから」


 バーバラは平坦に言う。
 
 
「え、嘘でしょ? だって私、すっごいドキドキしたのよ? 」


「そりゃあそうでしょ。死にかけていたんだから心臓も必死に動くわよ」


「じゃあこれは恋じゃないの? 」


「違う違う。大体アンタはもう少し慎重に行動しないと駄目よ! たまたま人が
 居たから助かったけど、本当ならお陀仏よ。まったく、心臓に感謝しなさい! 」
 
 
「ありがとう、心臓」


 どうやら私の勘違いだったようだ。
 これは恋ではないとバーバラに教えてもらった。
 全く危ないところであった。
 
 
 危うく初恋だと勘違いするところだった。
 
 
 私にはまだ初恋は遠い。
 
 
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

処理中です...