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初恋未遂
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しおりを挟むその日はとても暑い日だった。
茹だるような暑さに私はふらついてしまう。
「大丈夫ですか? 」
私の身体を抱きとめてくれた彼に、私は返事が出来ずにいた。
「ちょっと待ってて」
彼は私を木陰にそっと置いて行ってしまう。
朦朧とする意識の中で私は彼が駆けて来るのが分かった。
そして口に流し込まれた水は冷たくて、喉を通って行くのがよく分かる。
身体に染み渡るような感覚。
私は自分の身体が水で出来ているのだと思った。
「大丈夫ですか? 」
「はい、なんとか。助かりました」
私は彼に漸く返事をする事が出来た。
「よかった」
彼は本当に嬉しそうに、白い歯を見せながら笑った。
私はそんな彼の笑顔がとても魅力的に見えたのだ。
*****
「ねえ、これって恋よね? 私、恋をしちゃったのよね? 」
私は先日の出来事をバーバラにして、聞いた。
「違うよ? そんなの全然、恋なんかじゃないから」
バーバラは平坦に言う。
「え、嘘でしょ? だって私、すっごいドキドキしたのよ? 」
「そりゃあそうでしょ。死にかけていたんだから心臓も必死に動くわよ」
「じゃあこれは恋じゃないの? 」
「違う違う。大体アンタはもう少し慎重に行動しないと駄目よ! たまたま人が
居たから助かったけど、本当ならお陀仏よ。まったく、心臓に感謝しなさい! 」
「ありがとう、心臓」
どうやら私の勘違いだったようだ。
これは恋ではないとバーバラに教えてもらった。
全く危ないところであった。
危うく初恋だと勘違いするところだった。
私にはまだ初恋は遠い。
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