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もう帰っては来ない
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しおりを挟むその日、僕は居残りをさせられていた。
「これが終わるまでは帰れないからな! 」
そうは言われたが、まさか本当に終わるまで帰らせないとは思っていなかった
僕はとうとう沸点を越えたのだと仕方なく従った。どうやら僕は見誤ったよう
だった。
上手い事やって来たつもりではあったが、こういう失敗もあるものだ。
こういう時は素直に従っておいた方がいい事ぐらいはしっているのだ。
まあ、それぐらい分かっていないと馬鹿を見るのである。
だから夕暮れに一人、とぼとぼと歩く帰り道。
こんな日もあると自分に言い聞かせて歩きながら、
ツイていない日だなと思った。
だから彼女を見かけた時は心躍った。
それだけの事でこんなにも気持ちが変化する、これはもう恋だった。
僕は彼女の事が好きだった。
お淑やかで、清楚で、品がある彼女が僕には特別に見えた。
他の女なんて比べ物になりはしないと本気で思っていたんだ。
だから彼女の横にいる人を見て足が止まった。
どうして彼女の横にお前が居る?
それがすぐに理解出来なくて凝視する。
そしてそれが気に入らなかったのだろう、
「なんだテメェ」
凄まれた。
僕には目を背ける事しか出来なくて、でも何か言わないといけない気もした。
「あれ、今帰りなの? めずらしい」
「あ、嗚呼。そうなんだ。居残りさせられちゃって」
彼女に声をかけてもらい、僕はお道化てみせる。
「何だ、知り合いかよ。チッ、行くぞ」
危ない所だった。
あのままだとタダでは済まなかっただろう。
彼女に救われた。
「みんなには内緒ね」
彼女はそう言い残し、行ってしまう。
その後ろ姿を見ながら僕はもう帰って来ないのだと思った。
彼女も、彼女への都合のいい想いも全部がもう帰っては来ない。
今日はツイていない日だった。
何もかもを見間違い、馬鹿を見た。
そんな春の夕暮れだった。
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