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14 彼女
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それから桜介は目を閉じた。
もうこれ以上蓮の言葉を聞きたくなかった。
「寝た……のか? お前、なんでこんなタイミングで」
蓮が困ったように呟いた。
桜介の頭を優しく撫でて、それから桜介の腕の中から”レン”を取りベッドに寝かせてくれた。
胸がズキズキと痛み、気を抜くと嗚咽を漏らしてしまいそうだった。
それから目蓋越しでも、蓮が電気を消したのが分かり、その後すぐにベッドの横のあたりで寝息が聞こえ始めた。
しばらく寝付けなかった桜介も外が白み始めた頃には眠りについた。
翌朝、というよりも昼ごろに目を覚ますと机の上には蓮の無骨な文字で置き手紙が書いてあった。
ーー大事な話があるから、都合のいい日を教えてくれ
「都合なんていつでもつくこと知ってんでしょ」
このタイミングでの大事な話なんて一つしかない。
蓮は桜介との付き合いをこれっきりにしたいのだ。
連絡を取らず、自然消滅のような形で付き合いをやめれば簡単なのに、そういうことを蓮はしたくないのだろう。
桜介に対しても誠実に気持ちを伝えて、友人関係を終わらせようとしているのだ。
桜介はそう思った。
ならばそういう時、桜介はどのような反応を返せば良いのだろうか。
笑って「分かった」と言えばいいのだろうか。
それとも「嫌だ」と言ってもいいのだろうか。
そうしたら蓮は桜介との友人関係を続けてくれるのだろうか。
桜介の考えは少しもまとまらず、気がつけば蓮が置き手紙を残した日から1週間が経とうとしていた。その間、桜介はまた配達の仕事を他の駅周辺で行い、蓮と遭遇しないようにしていた。
「あなた、篠崎桜介さん?」
駅前のファーストフード店の前で待機していた桜介に話しかけてきたのは、あの写真に写っていた女性だった。
「そ、うですけど、あなたは?」
「安藤洋子と言います。蓮沼蓮さんとお付き合いさせていただいています」
「そうですか。それで俺に何の用件ですか」
桜介の心は嫉妬でいっぱいで、少し冷たくすら聞こえるような言い方をしてしまったが、安藤にそれを気にした様子はなかった。
「実は、彼に逆プロポーズをしようと思って。彼って奥手なとこがあるでしょう? だから年上の私が引っ張ってあげようと思ってるの」
「……はあ。それで何で俺に声を?」
「彼を呼び出してもらいたいの。ほら、私からの呼び出しじゃない方がサプライズ感あるでしょう?」
「何で俺が」
そう言った桜介に対し、安藤はニヤリと馬鹿にしたような笑い方をした。
「だって君だって、蓮さんに幸せになってほしいでしょ? 好きな人には幸せになってもらいたいものでしょ?」
「は……?」
「貴方のこと、いろいろ調べさせてもらったの。結婚するなら相手のことも周りのことも、知っておくべきでしょ?」
「意味が分からない」
桜介は吐き捨てた。
「貴方が蓮さんのことを好きでいるのは、勝手にしてもいいけどその代わり私に協力しなさいって言ってるの。蓮さんがゲイだって署内で噂を流されたくはないでしょう?」
「あんた、何言って」
この女性は自分の好きな人のそんな噂を平気で流そうと言うのか。
「あら、何もおかしなことはないでしょう? だって、そんな噂が回れば、女性の敵が減るんだもの」
ーー蓮さんはこんな人と結婚したいの?
いや、確かに蓮はそろそろ結婚したいと言っていたではないか。
蓮が結婚できるとすれば、このように女性側からグイグイくるタイプなのかもしれない。
「大丈夫。私と結婚すれば絶対に蓮さんを幸せにしてあげるから!」
安藤は自信満々と言った顔をした。
蓮を幸せに。それは確かに桜介にはできない事だった。
桜介はズキリと痛む胸を押さえ深く息を吐いた。
「サプライズって何すんの」
安藤は桜介のその言葉にパッと顔を明るくして嬉々としてサプライズの内容について話し出した。
正直、桜介はそこまで詳しく聞くつもりはなかった。
半分以上は頭に入ってこないその話を聞いた後、桜介は静かに「分かった」と言った。
それから桜介は女性に言われるがまま1週間後に日時と場所を指定し、蓮を呼び出した。
もうこれ以上蓮の言葉を聞きたくなかった。
「寝た……のか? お前、なんでこんなタイミングで」
蓮が困ったように呟いた。
桜介の頭を優しく撫でて、それから桜介の腕の中から”レン”を取りベッドに寝かせてくれた。
胸がズキズキと痛み、気を抜くと嗚咽を漏らしてしまいそうだった。
それから目蓋越しでも、蓮が電気を消したのが分かり、その後すぐにベッドの横のあたりで寝息が聞こえ始めた。
しばらく寝付けなかった桜介も外が白み始めた頃には眠りについた。
翌朝、というよりも昼ごろに目を覚ますと机の上には蓮の無骨な文字で置き手紙が書いてあった。
ーー大事な話があるから、都合のいい日を教えてくれ
「都合なんていつでもつくこと知ってんでしょ」
このタイミングでの大事な話なんて一つしかない。
蓮は桜介との付き合いをこれっきりにしたいのだ。
連絡を取らず、自然消滅のような形で付き合いをやめれば簡単なのに、そういうことを蓮はしたくないのだろう。
桜介に対しても誠実に気持ちを伝えて、友人関係を終わらせようとしているのだ。
桜介はそう思った。
ならばそういう時、桜介はどのような反応を返せば良いのだろうか。
笑って「分かった」と言えばいいのだろうか。
それとも「嫌だ」と言ってもいいのだろうか。
そうしたら蓮は桜介との友人関係を続けてくれるのだろうか。
桜介の考えは少しもまとまらず、気がつけば蓮が置き手紙を残した日から1週間が経とうとしていた。その間、桜介はまた配達の仕事を他の駅周辺で行い、蓮と遭遇しないようにしていた。
「あなた、篠崎桜介さん?」
駅前のファーストフード店の前で待機していた桜介に話しかけてきたのは、あの写真に写っていた女性だった。
「そ、うですけど、あなたは?」
「安藤洋子と言います。蓮沼蓮さんとお付き合いさせていただいています」
「そうですか。それで俺に何の用件ですか」
桜介の心は嫉妬でいっぱいで、少し冷たくすら聞こえるような言い方をしてしまったが、安藤にそれを気にした様子はなかった。
「実は、彼に逆プロポーズをしようと思って。彼って奥手なとこがあるでしょう? だから年上の私が引っ張ってあげようと思ってるの」
「……はあ。それで何で俺に声を?」
「彼を呼び出してもらいたいの。ほら、私からの呼び出しじゃない方がサプライズ感あるでしょう?」
「何で俺が」
そう言った桜介に対し、安藤はニヤリと馬鹿にしたような笑い方をした。
「だって君だって、蓮さんに幸せになってほしいでしょ? 好きな人には幸せになってもらいたいものでしょ?」
「は……?」
「貴方のこと、いろいろ調べさせてもらったの。結婚するなら相手のことも周りのことも、知っておくべきでしょ?」
「意味が分からない」
桜介は吐き捨てた。
「貴方が蓮さんのことを好きでいるのは、勝手にしてもいいけどその代わり私に協力しなさいって言ってるの。蓮さんがゲイだって署内で噂を流されたくはないでしょう?」
「あんた、何言って」
この女性は自分の好きな人のそんな噂を平気で流そうと言うのか。
「あら、何もおかしなことはないでしょう? だって、そんな噂が回れば、女性の敵が減るんだもの」
ーー蓮さんはこんな人と結婚したいの?
いや、確かに蓮はそろそろ結婚したいと言っていたではないか。
蓮が結婚できるとすれば、このように女性側からグイグイくるタイプなのかもしれない。
「大丈夫。私と結婚すれば絶対に蓮さんを幸せにしてあげるから!」
安藤は自信満々と言った顔をした。
蓮を幸せに。それは確かに桜介にはできない事だった。
桜介はズキリと痛む胸を押さえ深く息を吐いた。
「サプライズって何すんの」
安藤は桜介のその言葉にパッと顔を明るくして嬉々としてサプライズの内容について話し出した。
正直、桜介はそこまで詳しく聞くつもりはなかった。
半分以上は頭に入ってこないその話を聞いた後、桜介は静かに「分かった」と言った。
それから桜介は女性に言われるがまま1週間後に日時と場所を指定し、蓮を呼び出した。
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