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「十二指腸潰瘍だね」
今回は最初から神楽坂先生の口添えがあったらしく俺は先生の診断を聞くことが出来た。
先生は今は麻酔で眠っている。
「それって?」
「胃に傷が付いたり穴が開いたりする病気だよ」
「それってつまりストレスが原因のやつじゃないですか?」
「まぁ、そういった原因もあるけど、それだけじゃないよ」
「でも、俺先生にストレスかけてる」
「そんなことはないでしょう。泉は今、記憶をなくした分の仕事の穴埋めに必死なだけだよ。それを今詰めすぎたんだね」
神楽坂先生は、俺たちのことを何も知らないから、そうやって俺のことを慰めてくれるけど、俺は今や先生にストレスを与えるだけの存在だ。
先生が俺のことをまた好きになってくれるなんて夢見て、それで先生にストレスを与えてる。
この世にはいくつも選択肢があって、その一つ一つで世界は大きく変わったりするらしい。例えば、今俺の前にパンがあったとして、それを食べる世界と、食べなかった世界で分岐して世界が広がっていく。人一人でもそこには想像すらできないほどの分岐した世界が広がっている。
つまり、何が言いたいかと言うと、記憶を失う前の先生が俺を好きになってくれたとしても、記憶を失った先生が俺のことをもう一度好きになる可能性が100パーセントとは限らないと言うことだ。
現に今先生は真樹を好きになってる。
そんなの嫌だ。でも。
「俺が迫ったら、先生にストレスを与える」
じゃあ、もう俺は何もできないじゃん。
「結城君が泉にストレスを与えているわけじゃないさ」
「……ありがとう、神楽坂先生」
笑って答えると神楽坂先生は困ったような顔で俺の頭にポンと手を置いて、去っていった。
ベットの上に眠る先生の手を取り、自分の頬に持ってきてその暖かさを確認すると、不思議と涙が出てきた。
「こんなことなら、泣き落としでもなんでもして、早く番にしてもらっておけば良かった。そしたら、先生から貰った傷を慰めに先生の元から離れることも辛くなかったかも知れないのに」
眠る先生の顔は顔色が悪くて、自分の不甲斐なさが辛かった。
「先生、好きだよ。大好きだよ……ずっと。先生が、真樹ってやつと付き合いたいならそれでも良いんだ。先生が幸せだったらそれで」
先生が記憶喪失になったと分かったときに、四宮さんと千秋さんには俺たちが付き合っていたことを隠すようにお願いしにいった。
あの時はすごく大きなお屋敷でびっくりしたな。
あの2人の結婚式の時はあんなすごいところに住んでいるような人たちだって知らなかったから。そんな2人の結婚式に呼ばれるほどの友人である先生は、きっと本来なら俺には手の届かないような人だったのかも知れない。
冷静に考えたら、最初から俺は先生と釣り合わなかったんだし、それなのに先生は今まで俺にたくさんのものを与えてくれて、その思い出で満足できるはずだ。だから何も辛くないはずだ。
「先生、俺はどこに行こうかな。先生がいないならどこにいても同じだから、トラさんとこじゃなくていっそ、遠い県に行ってみようかな。ああ、それか、四宮さんたちが結婚式を挙げたあの国は、オメガも平等に扱ってくれるって。だから、日本を出てあの国に行くのもいいかも」
先生は麻酔がよく効いているからずっと規則的に寝息が聞こえてきて、先生が生きていることを実感できる。
ふいっと先生に覆いかぶさって、その唇を奪った。
当たり前だけど、記憶を失う前の先生と何も変わらない唇で、切なさが増した。
「俺たちって、どちらかが入院していることが多いね。神様が俺たちは一緒にいない方が良いって言ってるのかも。それでも俺は、今まで先生と居られて幸せだったんだよ」
名残惜しかったけど、先生から離れて荷物をまとめに先生のマンションまで向かった。
今回は最初から神楽坂先生の口添えがあったらしく俺は先生の診断を聞くことが出来た。
先生は今は麻酔で眠っている。
「それって?」
「胃に傷が付いたり穴が開いたりする病気だよ」
「それってつまりストレスが原因のやつじゃないですか?」
「まぁ、そういった原因もあるけど、それだけじゃないよ」
「でも、俺先生にストレスかけてる」
「そんなことはないでしょう。泉は今、記憶をなくした分の仕事の穴埋めに必死なだけだよ。それを今詰めすぎたんだね」
神楽坂先生は、俺たちのことを何も知らないから、そうやって俺のことを慰めてくれるけど、俺は今や先生にストレスを与えるだけの存在だ。
先生が俺のことをまた好きになってくれるなんて夢見て、それで先生にストレスを与えてる。
この世にはいくつも選択肢があって、その一つ一つで世界は大きく変わったりするらしい。例えば、今俺の前にパンがあったとして、それを食べる世界と、食べなかった世界で分岐して世界が広がっていく。人一人でもそこには想像すらできないほどの分岐した世界が広がっている。
つまり、何が言いたいかと言うと、記憶を失う前の先生が俺を好きになってくれたとしても、記憶を失った先生が俺のことをもう一度好きになる可能性が100パーセントとは限らないと言うことだ。
現に今先生は真樹を好きになってる。
そんなの嫌だ。でも。
「俺が迫ったら、先生にストレスを与える」
じゃあ、もう俺は何もできないじゃん。
「結城君が泉にストレスを与えているわけじゃないさ」
「……ありがとう、神楽坂先生」
笑って答えると神楽坂先生は困ったような顔で俺の頭にポンと手を置いて、去っていった。
ベットの上に眠る先生の手を取り、自分の頬に持ってきてその暖かさを確認すると、不思議と涙が出てきた。
「こんなことなら、泣き落としでもなんでもして、早く番にしてもらっておけば良かった。そしたら、先生から貰った傷を慰めに先生の元から離れることも辛くなかったかも知れないのに」
眠る先生の顔は顔色が悪くて、自分の不甲斐なさが辛かった。
「先生、好きだよ。大好きだよ……ずっと。先生が、真樹ってやつと付き合いたいならそれでも良いんだ。先生が幸せだったらそれで」
先生が記憶喪失になったと分かったときに、四宮さんと千秋さんには俺たちが付き合っていたことを隠すようにお願いしにいった。
あの時はすごく大きなお屋敷でびっくりしたな。
あの2人の結婚式の時はあんなすごいところに住んでいるような人たちだって知らなかったから。そんな2人の結婚式に呼ばれるほどの友人である先生は、きっと本来なら俺には手の届かないような人だったのかも知れない。
冷静に考えたら、最初から俺は先生と釣り合わなかったんだし、それなのに先生は今まで俺にたくさんのものを与えてくれて、その思い出で満足できるはずだ。だから何も辛くないはずだ。
「先生、俺はどこに行こうかな。先生がいないならどこにいても同じだから、トラさんとこじゃなくていっそ、遠い県に行ってみようかな。ああ、それか、四宮さんたちが結婚式を挙げたあの国は、オメガも平等に扱ってくれるって。だから、日本を出てあの国に行くのもいいかも」
先生は麻酔がよく効いているからずっと規則的に寝息が聞こえてきて、先生が生きていることを実感できる。
ふいっと先生に覆いかぶさって、その唇を奪った。
当たり前だけど、記憶を失う前の先生と何も変わらない唇で、切なさが増した。
「俺たちって、どちらかが入院していることが多いね。神様が俺たちは一緒にいない方が良いって言ってるのかも。それでも俺は、今まで先生と居られて幸せだったんだよ」
名残惜しかったけど、先生から離れて荷物をまとめに先生のマンションまで向かった。
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