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始まりは

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「ん……ふ、ぁ、ん……」

僕を抱く彼の手はいつも優しい。
だけどその瞳は僕のことなど映していない。
だから僕はいつもなるべく声を出さないように努力する。

僕の声は、彼を不快にするだろう。

僕は、あの人じゃないから……。

「ふ……ん、ん……」
「どうした、考え事か」

彼の質問にも僕は何も答えない。
だって、声を出したりして、僕の中を出入りする彼のそれが萎えたりしたら立ち直れそうもないから。

彼は何も答えない僕に舌打ちして抽挿を再開した。



僕と、咲夜様と、美香様は幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染みだった。
咲夜様と美香様は旧家の御子息と御令嬢で隣同士の家だった。
僕は咲夜様のお世話をするために咲夜様の家に引き取られた孤児たけど。
でも咲夜様も美香様も僕に対していつも優しくしてくれた。
使用人扱いじゃなくて、ただの友達みたいに接してくれてた。
多分、咲夜様は美香様のことが好きで、美香様は僕たち2人のことはただの兄弟のように思っていたんだと思う。
その関係はずっと。大学を卒業したばかりの今までずっと変わらなかった。
だけどただ漠然と僕も、咲夜様も、美香様と咲夜様のご両親も全員、思っていたはずだ。
咲夜様と美香様がいつかは結婚するのだと。

美香様だけはそうは思っていなかったらしい。

だから、それは突然だった。
美香様は大好きな人と結婚するからと置き手紙を置いて突然家を出て行ってしまった。

美香様にとって兄弟だと思っている咲夜様と結婚することは、どうしても耐えがたいことだったらしい。そして、美香様のいなくなってしまった咲夜様は落ち込んでしまった。

咲夜様の部屋は離れにあって、僕はおば様に変わって食事を届けた。

そんな日が何日も続いて、ある日僕は咲夜様に部屋に引っ張り込まれて無理やり体を開かされた。

咲夜様の熱い息が首筋にかかりぞわりとした。雑に慣らされたそこにローションを纏った咲夜様のそれが押し入ってくる感覚は説明のしようもない感覚だった。

そして残酷にも僕はその時になって気がついてしまった。

僕は咲夜様のことがずっと好きだったんだ。

気がついて、だけど咲夜様は僕のことなんて好きじゃないから咲夜様の背中に手を回したくなるのを必死に抑えて、気持ち良さはないけれど、この時間が永遠に続けばいいと思った。
咲夜様が僕のことを、たとえ美香様の代わりだとしても求めてくれるこの時間が。

それから僕は毎日抱かれた。
咲夜様の気が晴れるなら僕はそれで良かった。
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