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アピール

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結果的に言うと会長は覚えていることがあったり、忘れていることがあったり、そんな感じらしい。
そして会長が忘れてしまったものの中にたまたま俺が入っていたと言うことだった。

悲しくて寂しくて、その日は病院から帰って1人で泣いた。
でも思い出せないことがある会長のほうがきっと辛いはずだ、そう思った。

今まで会長と付き合うことになった時も、その後も、会長がずっと好きだって伝えてくれて、俺はそれが嬉しくて、時々不安になったりもしたけどその度に会長がその不安を吹き飛ばしてくれたから。

記憶がなくたって俺のこときっと好きになってくれるはず。
俺のことを思い出しても、思い出さなくても俺が会長のことを好きなことには変わりはない。

だから今度は、俺から会長に好きになってもらえるように努力しよう。

会長が学校に戻ってきて日常生活を送れるようになった頃、俺は生徒会室に向かった。

「会長」
「なんだ。親衛隊の隊長がなんのようだ」
「告白しにきました」
「告白?」
「はい。俺、会長のことが好きです。付き合ってください」
「悪いが、俺はゲイじゃない。他を当たってくれ」
「会長はきっと俺を好きになると思います」
「ならないな」
「今はそれでもいいです。とりあえず、この書類は俺が片付けるので持って帰ります」
「待て。部外者に手伝わせるわけにはいかない」
「でも、前まで俺が手伝っていた仕事ですよ」
「それを信用しろと?」

会長はやはり冷たい目で俺を見据えた。

「……です、ね。じゃあ、ここで片付けるので見張りつつ仕事してください。それなら良いですよね」
「いや、手伝いは不要だ」

俺は会長の言葉を無視して手前の椅子を引いて座ってパソコンを開いた。
いつも通りの単調な作業だけど、いつもは寮でやっていた仕事なので会長と一緒にするのは少し緊張した。
会長は俺が出て行かないことは諦めたのか、ため息を一回ついてパソコンを打ち始めた。

俺はそれからも毎日毎日会長に好きだと言い続けた。
でも会長の記憶が戻ることはなく、次第に鬱陶しがられるようになった。

「好きです。会長」

何度目の告白かわからないくらいの月日がたったある日、会長は大きなため息をついた。

「申し訳ないが、本当にやめてくれないか。君がいくら努力しようと、君がいくら俺のことが好きだろうと、俺は君を好きになることはない」

ズキ

胸が痛かった。

やっぱめんどくさいよな。
いや、うん。自分でも分かってたんだ。でも好きな人に、どう距離を詰めればいいのかがわからなくなってしまっていた。
俺のことを好きだと言った会長はいなくなってしまったのか。
その事実がやっと胸にストンと落ちた。

今の会長に男の俺がアピールするのは本当に迷惑でしかないよな。

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