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15.カナンダス王国1
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僕は、父や兄から愛されたいと思っていた。
けれど、愛してもらえないあの場所が苦痛だった。
自分の罪が、自分の汚い血が消えることばかりを願っていた。
父や兄に会えば僕の存在を否定されそうで怖かった。
けれど今は違う。
愛されることも、愛することも知って、僕は強くなった。
別にあの2人から愛されなくても良いと思える強い心を育ててもらった。
新婚旅行はそんな少しだけ緊張した気持ちで始まった。
「果実水を飲むか? 菓子もあるぞ」
「果実水飲みたい!」
答えるとギルは嬉しそうに果実水を差し出してきた。
受け取って飲むと、甘酸っぱくて美味しい。
ギルは窓の外を見ながら「んー」っと伸びをした。
「別にカナンダスまでは魔術で行けば一瞬だが、こうして魔力車で行くと、また旅行っぽくて楽しいな」
「うん。魔力車ってすごいね。馬に引っ張ってもらわなくても走るの」
「俺が封印されている間に、技術方面から封印を解く方法を探していた技術者の副産物だな」
「へぇ」
僕は馬車に乗ったことはないけど、窓の外を流れる景色はきっと馬車よりも早いだろう。外を眺めているだけで流れていく景色や人々の生活が見えて楽しい。
途中途中でギルが魔力者ごと魔術でワープさせてカナンダス王国まで馬車で1ヶ月かかるところを、二泊三日で到着した。その間は各地でホテルに泊まって温泉や豪華な食事を味わった。
魔国からの入国など許可してもらえるとは思えないので、カナンダス王国についても、関門は通らずワープにてバイヤール公爵邸の門の中についた。
ギルが先に降りて手を差し出してくれるので、僕もその手を掴んで馬車から降りた。
「カミーユ……、おかえり」
突然声をかけてきたのは、父、バイヤール公爵だった。
9年前と何も変わらない本邸の前に、あの頃よりも老けた父と、あの頃よりも背も伸び精悍な顔つきになった兄が立っていた。
「元気そうでよかったよ。カミーユ」
兄もそう言って僕に笑いかけた。
僕は言葉に詰まった。
「長旅で疲れただろう? さぁ、中に入りなさい」
「えっと……はい」
戸惑いながら返事をして、父の後に続き本邸の中に入る。
何だか歓迎してくれているように感じるけど、どうしたんだろう。
それに、僕が来るって知ってたみたいに。
ギルの服をギュッと掴んだままの手の上に、ギルがそっと手を重ねてくれて少し落ち着いた。
応接室に案内されて促されるままにソファに座ると、すぐに侍従が紅茶を入れてくれ、目の前には菓子が乗った皿が差し出された。
「カミーユ。本当に、元気そうで安心した」
「っ」
たとえ2人がそうすることを望んでいなかったとしても、僕は自分が元気な姿を見せようとここまで来た。けれど、実際には僕が元気でいることを喜んでもらえて、屋敷にも歓迎してもらえた。
「私はカミーユにどれだけ懺悔しても足りないほどに、辛い思いをさせた。本当にすまなかった」
父が辛そうな顔でそう言う横で、兄もまた悲しそうな顔で「ごめんな。ごめん……」と繰り返した。
けれど、愛してもらえないあの場所が苦痛だった。
自分の罪が、自分の汚い血が消えることばかりを願っていた。
父や兄に会えば僕の存在を否定されそうで怖かった。
けれど今は違う。
愛されることも、愛することも知って、僕は強くなった。
別にあの2人から愛されなくても良いと思える強い心を育ててもらった。
新婚旅行はそんな少しだけ緊張した気持ちで始まった。
「果実水を飲むか? 菓子もあるぞ」
「果実水飲みたい!」
答えるとギルは嬉しそうに果実水を差し出してきた。
受け取って飲むと、甘酸っぱくて美味しい。
ギルは窓の外を見ながら「んー」っと伸びをした。
「別にカナンダスまでは魔術で行けば一瞬だが、こうして魔力車で行くと、また旅行っぽくて楽しいな」
「うん。魔力車ってすごいね。馬に引っ張ってもらわなくても走るの」
「俺が封印されている間に、技術方面から封印を解く方法を探していた技術者の副産物だな」
「へぇ」
僕は馬車に乗ったことはないけど、窓の外を流れる景色はきっと馬車よりも早いだろう。外を眺めているだけで流れていく景色や人々の生活が見えて楽しい。
途中途中でギルが魔力者ごと魔術でワープさせてカナンダス王国まで馬車で1ヶ月かかるところを、二泊三日で到着した。その間は各地でホテルに泊まって温泉や豪華な食事を味わった。
魔国からの入国など許可してもらえるとは思えないので、カナンダス王国についても、関門は通らずワープにてバイヤール公爵邸の門の中についた。
ギルが先に降りて手を差し出してくれるので、僕もその手を掴んで馬車から降りた。
「カミーユ……、おかえり」
突然声をかけてきたのは、父、バイヤール公爵だった。
9年前と何も変わらない本邸の前に、あの頃よりも老けた父と、あの頃よりも背も伸び精悍な顔つきになった兄が立っていた。
「元気そうでよかったよ。カミーユ」
兄もそう言って僕に笑いかけた。
僕は言葉に詰まった。
「長旅で疲れただろう? さぁ、中に入りなさい」
「えっと……はい」
戸惑いながら返事をして、父の後に続き本邸の中に入る。
何だか歓迎してくれているように感じるけど、どうしたんだろう。
それに、僕が来るって知ってたみたいに。
ギルの服をギュッと掴んだままの手の上に、ギルがそっと手を重ねてくれて少し落ち着いた。
応接室に案内されて促されるままにソファに座ると、すぐに侍従が紅茶を入れてくれ、目の前には菓子が乗った皿が差し出された。
「カミーユ。本当に、元気そうで安心した」
「っ」
たとえ2人がそうすることを望んでいなかったとしても、僕は自分が元気な姿を見せようとここまで来た。けれど、実際には僕が元気でいることを喜んでもらえて、屋敷にも歓迎してもらえた。
「私はカミーユにどれだけ懺悔しても足りないほどに、辛い思いをさせた。本当にすまなかった」
父が辛そうな顔でそう言う横で、兄もまた悲しそうな顔で「ごめんな。ごめん……」と繰り返した。
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