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10.文通

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「ええ? カミーユ様がこの城に住むことを魔王陛下が許可されてるか……ですか?」

ニコラは大袈裟じゃないかと思うほどに驚いた。
僕がうなずいて返事をすると、ニコラは困惑した顔でしばらく思案するように間が開いた。

「カミーユ様は、魔王陛下にお会いになられたことがない?」
「うん。ニコラとギルと侍女や侍従の人としか会ったことないよ。魔王陛下はどんな方なの?」

優しい方だといいと思いながら聞いてみる。
僕が居た国では魔王は極悪非道な存在で、勇者に封印されたといわれていた。
魔王がそうなら魔族も野蛮な者の集まりだって。
だけど、ニコラもギルも、他のみんなも、ちっとも野蛮なんかじゃなかった。
みんな優しい人たちだ。

「魔王陛下はとてもお優しい方ですよ。もちろん、カミーユ様がこのお城に住まれることを歓迎しています」
「そうなの?」

それなら安心だと、胸を撫で下ろす。

「はい。魔王陛下は変なところがシャイで頑固な方ですので、歓迎していることを直接伝えることができないのでしょう」
「そうなんだ。でも僕、陛下にお礼を伝えたい」
「そうですね。それなら、まずはカミーユ様の描いた絵をプレゼントされるのはどうでしょう? きっとお喜びになられますよ」
「え、でも。僕の絵じゃお礼にならないと思うけど」
「カミーユ様の絵は絶対にお礼になりますよ。きっと陛下も泣いて喜んで家宝にされることでしょう!」
「そうなのかな」

よく分からないけど、魔族の感覚というのがあるのかもしれない。
もしかしたら、お礼をする時はその人自身が描いた絵が好まれるとか。
もしそうだったら素敵だな。

うまく描けるか分からないけど、描いてみることにした。

まるで空を飛ぶ鳥の視界のような街の絵を描こう。
この国の街をまだ見たことがないから想像の街になってしまうけど。

ニコラはなぜか僕が陛下に絵を描いていることを、ギルに内緒にしてくださいとお願いしてきたので、僕はギルが仕事をしている間に、少しずつ描き進めた。でも、ギルは最近特に仕事が忙しいらしくて働いてばかりだから少し心配だ。

「できた」
「お疲れ様です!」

手を広げたくらいの大きなキャンバスに、描き上がった街の絵は、自分の中では良い出来になった。それに、城に住まわせてくれることへのお礼のお手紙をつけてニコラに渡すと、ニコラは絵をどこかにぶつけないように慎重に部屋から運び出し、魔王陛下に届けに行ってくれた。

「カミーユ!!!!」

突然、部屋の扉を蹴破らんとばかりに勢いよく入って来たのはギルだった。

「っ、びっくりした。ギル、どうしたの?」
「絵が……手紙が……」
「わぁっ!」

ギルは僕の体を抱え上げ、高い高いをするように持ち上げた。
こんなことを誰にもされたことはなかったけど、浮いてるみたいで楽しい。

「あっはは。わぁっ」

僕たちのそんな様子を、ニコラ達は微笑みながら見ていた。
ギルの僕を上げ下げする手はしばらく止まることはなく、ギルの突然の奇行の理由は分からなかったけど存分に遊んでもらった僕は大満足だった。

その上、次の日には陛下から手紙の返事が来た。

『カミーユへ
絵はとても素晴らしい出来で、このように心のこもったプレゼントをもらえて本当に嬉しい気持ちだ。嬉しすぎて暴れ出したいほどの感情に駆られるほどだった。城に住む件に関して、我々魔族一同カミーユのことを大歓迎している。カミーユにはこれからずっと城で伸び伸びと成長してほしい。 PS.カミーユのように上手く描けなかったがお返しを贈る』

魔王陛下のイメージとは大分違った印象を受ける手紙だけど、喜んでくれたことは伝わってくる。
2枚目の紙には不格好だけれどどこか可愛らしいぴーちゃんみたいな黒い鳥が描かれていた。

「かわいい」

ニコラは陛下のことを優しい方だと言っていたけど、それでもこの手紙が来るまでは本当に喜んでもらえるのか少し緊張していた。
僕の贈り物が喜んでもらえたことが嬉しくて、自然に口角が上がっていく。

「よかったですね」

ニコラも自分のことのように嬉しそう。

「うん!」

そうして、僕と魔王陛下との文通は始まった。
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