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父:シャルル視点1

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シャルル・ド・バイヤール公爵(父)視点

愛する妻、オリヴィアが忘形見であるカミーユを遺し死んでから、私はカミーユの顔をまともに見ることが出来なかった。赤子のカミーユが泣いたり笑ったりするのを見ると、オリヴィアの顔がチラついて、胸が締め付けられる。このままこの子と接していれば私はこの子を恨んでしまうかもしれない。
番を失いショックを受けるのは、何もオメガだけではない。
アルファ側だって例え運命の相手のオメガではなくとも、愛する番を失えば憔悴する。
そうして私は憔悴したまま、周りに言われるがままにマリーと再婚した。

マリーにとっては、親友の子とはいえ前妻の子供は扱いづらいだろうと思っていたが、意外にもマリーはカミーユのことを気にかけているようだった。
確かに学生時代のマリーはオリヴィアにべったりで、私がオリヴィアにアピールするのを邪魔されることもあったくらい、マリーはオリヴィアを慕っていたように思う。
そして、ほとんど関わることのなかったカミーユが、アルファを怖がり私やセドリックに近づかれたくないとマリーから伝え聞いて、あろうことか私はホッとした。

関わらなくとも良い口実ができたとホッとしたのだ。
この距離が私たちにとってちょうど良い。
カミーユがアルファが怖いと思うなら尚更だ。
そう、勝手に決め付けていた。

ドニの誕生日会を家族だけで行うことになり、私は仕事を終わらせてからお菓子やおもちゃを買って屋敷に帰った。馬車を降り、屋敷に入ろうとすると横の庭に人影が見えた。

「カミーユ?」

別邸に引きこもり、顔を見せることのないカミーユが庭にいた。

「バイヤール公爵様……」

カミーユは私の顔を見て顔を引きつらせ、家名と家格で名を呼んだ。
他人を呼ぶような呼ばれ方をして全身に雷が打たれたように衝撃が走った。
当たり前だ。他人よりよっぽど関わってこなかった息子が、私をそう呼ぶのは仕方がない。
そう思ってもやはりショックだった。

ドニが帰宅した私を出迎え、会話をしても衝撃は消えない。

カミーユは私の手に持った荷物を見て、一瞬顔を歪めた。
その小さな手にギュッと握られているのは飴玉の包紙のように見える。

「……ドニ様、お誕生日おめでとうございます。ドニ様の1年が素敵な日々になることを祈っております……御前失礼いたします」
「待ちなさい、カミーユ」

それはまるで使用人のように弟であるドニに向かって敬称をつけ、祝いの言葉を述べて、逃げ帰るように去っていくカミーユを思わず呼び止めた。
けれどカミーユは振り返ることもなく去って行ってしまった。

「おとうさま?」

心配そうに私を見上げるドニに笑いかけ、飛びつかれたまま抱き上げていた体を下ろして頭を撫でる。

「……さぁ、中に入ろうか。今日はドニのお祝いだ」
「わぁい!」

無邪気に喜ぶドニを見て、胸がざわついた。

カミーユのことをもちろん嫌っているわけではない。
セドリックやドニと同じように愛している。
けれどどう接すれば良いのか分からない。

そんな頃、魔王が復活に向かっていると王城での仕事が忙しくなった。
そして仕事が忙しい中でもマリーのお腹には子供ができ、家族と過ごす時間も捻出した。

新しい家族がまた増える。
これからはもっと賑やかになる。

オリヴィアへの気持ちは8年経った今もなお、色あせることはないが、そろそろ立ち直りカミーユとの時間を取らなければいけない。

カミーユは今更だと言うだろうか。

それでも、4人目の息子が生まれて少し経ったら、怖がらせぬように少しずつ関わっていければと思っていた。
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