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過去
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『やめて!!』
『うるせぇ! お前のせいで俺は!』
誰かが母親を殴ってる。
部屋には酒瓶が転がり、夕飯だったものが無残に床に散らばっている。
俺はいつもただただ泣くだけ。
助けることなど弱い俺にはできない。
分かっている。
これはただの過去の記憶だ。
何度も何度も夢に見る。
何もできなかった俺の過去。
俺の小さな体では母親の前に立って盾になることすらできなかった。
いつもいつも奴の前に立ち塞がっては吹っ飛ばされた。
痛みで動けなくなり、ただ母が殴られるのを見ることしかできなかった。
だからだろうか。
父がアル中で死に、いつしか俺は喧嘩に明け暮れた。
ただ大切な人を守るだけの力が欲しかった。
そのための力の付け方など、馬鹿な俺には喧嘩しか思いつかなかった。
理不尽な暴力が許せなかった。
生まれ持った力の差や見た目で態度を変える奴が許せなかった。
喧嘩に明け暮れるうち、俺は人に興味を持つこともなくなった。
好かれることも、嫌われることも、どうでもよかった。
ただ、母が俺を養父の元へ預けると決めた時は悲しいと思った。
寂しいと思った。
ピピ、ピピ、ピピ
スマホのアラームで目が覚めると俺の頬には涙が伝っていた。
もう何度も見る夢なのにいまだに起きると毎回泣いている。
いい加減ガキくさいと自分が嫌になるが、寝ている間のことはコントロールしようもないので諦めるしかない。
ただ、昨日、副会長の横で寝てしまった時は久しぶりに何の夢も見ることなくゆっくり寝られた。コーヒーの匂いと、キーボードを打つカタカタと言う音だけが響くあの空間をひどく心地の良いものに感じた。
学校に向かおうと寮の玄関を押し開けると目を充血させた会計と転入生が立っていた。
「おはようっ、どうしたの? こんなところで」
俺がそう声をかけると、2人はモジモジとしてなかなか話し出さない。
「もしかして~、付き合うことになった?」
「「っ!!?」」
驚く2人を見て、俺はさして驚きもせずに、ただ、そうなるよな。と思った。
「僕を当て馬にしたんだから、ちゃーんと仲良くやってよね!」
「……う、うん。今までごめんな」
「気にしないでいいよぉ。言ったでしょう? 僕にも得があって君に協力してただけなんだから。ちゃんと君の叔父さんにも謝った?」
「う……」
転入生はツーと目を横にそらした。
「言いづらいのも分かるけど、自分のこと心配してくれる人って僕は大事だと思うなぁ」
「う、ん」
「本当のことは話さなくてもいいよ。ただ、もう大丈夫だって伝えれば良いんじゃないかな?」
「……ぅん。ありがとうな」
「凛太郎くん、俺も。ごめんね」
「会計さまも、なんだかんだうまくいって良かったです」
そのあとはなんだかんだと他愛ない話をしながら校舎に向かった。
『うるせぇ! お前のせいで俺は!』
誰かが母親を殴ってる。
部屋には酒瓶が転がり、夕飯だったものが無残に床に散らばっている。
俺はいつもただただ泣くだけ。
助けることなど弱い俺にはできない。
分かっている。
これはただの過去の記憶だ。
何度も何度も夢に見る。
何もできなかった俺の過去。
俺の小さな体では母親の前に立って盾になることすらできなかった。
いつもいつも奴の前に立ち塞がっては吹っ飛ばされた。
痛みで動けなくなり、ただ母が殴られるのを見ることしかできなかった。
だからだろうか。
父がアル中で死に、いつしか俺は喧嘩に明け暮れた。
ただ大切な人を守るだけの力が欲しかった。
そのための力の付け方など、馬鹿な俺には喧嘩しか思いつかなかった。
理不尽な暴力が許せなかった。
生まれ持った力の差や見た目で態度を変える奴が許せなかった。
喧嘩に明け暮れるうち、俺は人に興味を持つこともなくなった。
好かれることも、嫌われることも、どうでもよかった。
ただ、母が俺を養父の元へ預けると決めた時は悲しいと思った。
寂しいと思った。
ピピ、ピピ、ピピ
スマホのアラームで目が覚めると俺の頬には涙が伝っていた。
もう何度も見る夢なのにいまだに起きると毎回泣いている。
いい加減ガキくさいと自分が嫌になるが、寝ている間のことはコントロールしようもないので諦めるしかない。
ただ、昨日、副会長の横で寝てしまった時は久しぶりに何の夢も見ることなくゆっくり寝られた。コーヒーの匂いと、キーボードを打つカタカタと言う音だけが響くあの空間をひどく心地の良いものに感じた。
学校に向かおうと寮の玄関を押し開けると目を充血させた会計と転入生が立っていた。
「おはようっ、どうしたの? こんなところで」
俺がそう声をかけると、2人はモジモジとしてなかなか話し出さない。
「もしかして~、付き合うことになった?」
「「っ!!?」」
驚く2人を見て、俺はさして驚きもせずに、ただ、そうなるよな。と思った。
「僕を当て馬にしたんだから、ちゃーんと仲良くやってよね!」
「……う、うん。今までごめんな」
「気にしないでいいよぉ。言ったでしょう? 僕にも得があって君に協力してただけなんだから。ちゃんと君の叔父さんにも謝った?」
「う……」
転入生はツーと目を横にそらした。
「言いづらいのも分かるけど、自分のこと心配してくれる人って僕は大事だと思うなぁ」
「う、ん」
「本当のことは話さなくてもいいよ。ただ、もう大丈夫だって伝えれば良いんじゃないかな?」
「……ぅん。ありがとうな」
「凛太郎くん、俺も。ごめんね」
「会計さまも、なんだかんだうまくいって良かったです」
そのあとはなんだかんだと他愛ない話をしながら校舎に向かった。
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