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68:ギースベルト辺境伯
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少年が去っていってしまったので馬車から這い出て長距離の移動で疲れ切った体を思いっきり伸ばした。
「ようこそお越しくださいました。バトラル様」
低い、腰に響くような良い声が声をかけて来てようやく、俺の隣に人が立っていることに気がついた。馬車を迎え入れてくれている使用人たちとは明らかに風格が違う、存在感に溢れた男性なのに、声をかけられるまで全然気配を感じなかった。一瞬、彼がギースベルト辺境伯なのかとも思うほど、雰囲気のある男性だったが、黒い髪は後ろに撫でつけ、侍従の服を身につけているところを見ると、そうではなさそうだ。
「あなたは?」
「申し訳ございません。申し遅れました、私はギースベルト辺境伯閣下の侍従、オットマー・トロイトと申します。バトラル様がご滞在中の間、お世話をさせていただきます。ただ、私は元は軍人でございますので、至らぬ点ばかりではございますがお手柔らかにお願いいたします」
元軍人と言われれば納得の体格だ。顔には古傷が残っているし、身のこなしに隙を感じない。ただ、お手柔らかにと笑った顔は優しげだ。こういう強そうで優しげな男の吐口になるのは相当に興奮できそうだと、下半身が疼いた。
「へえ。辺境伯の軍人ということは、かなり強いんだね。体も大きいし」
「ありがたきお言葉でございます」
オットマーは照れることもなく、冷静な様子で軽く頭を下げた。またそれが様になっている。
「じゃあとりあえず、ギースベルト辺境伯爵様のところに案内してもらえる? 俺、あいさつしておかないと」
「かしこまりました。ではすぐにご案内いたします」
荷物などは先に部屋に運んでおいてくれるということで、俺はオットマーの案内でギースベルト辺境伯の執務室まで向かった。
「フランツ様、入りますよ」
「オットマー! 返事をしてから入れと言っているだろう!!」
「失礼いたしました。フランツ様、あなたの妻になられる方が到着のご挨拶に来てくださいました」
「妻になるかはまだ決まってない! というか僕に妻は必要ない!!」
オットマーがノックと同時に声をかけ、辺境伯が返事をする前に開けた扉の先には、先ほど馬車のところで会った少年が怒り顔で座っていた。執務室の一番奥の窓際の席で、そこは一般的にその部屋で一番身分の高いものが座る席だ。この辺境伯の屋敷において、もちろん、その席は辺境伯爵が座るべき場所。そこに少年が座っていた。
「ギースベルト辺境伯……?」
思わず呟いた俺の声に、少年はキッと睨みつけてきた。
「そうだ! 僕こそがギースベルト辺境伯だ!」
「そうでしたか。それは……すみません」
これはどうしたことかと息を吐いた。
ドMの俺は確かに変態ではあるが、子供に手を出すほど落ちぶれていない。
目の前のギースベルト辺境伯は12歳前後に見える。彼が夫になるとしても、これは相当に気の長い話だ。
「今、子供は相手にできないなどと思ったんじゃないだろうな!」
「え? あー、まあ。はい」
「僕は22歳だ」
「え?」
俺よりも年上だなんて冗談を、俺はどう返せば良いのだろう。と戸惑っていると、オットマーがくすりと笑った。
「フランツ様は獣人の血が入っていらっしゃるので、通常の人間とは成長のスピードが多少違うのです。帝都では珍しいかもしれませんが、ギースベルト辺境伯領には割と存在しているんですよ」
「へー、そうなんだ」
獣人が存在する世界であることを初めて知ったが、そういうことなら問題はない。問題ないと俺だけが思っていても意味はないが。
「はい。かくいう私もその一人です」
オットマーはそう言うとにこりと笑った。
22歳で12歳ほどの見た目のフランツから考えて、俺より多少年上に見えるオットマーはさらに年上であるのだろう。
「へえ。何だか不思議だけど、まぁ何でも良いや。とりあえず2ヶ月間よろしく」
「……能天気なやつだな。これだからオメガは好きじゃないんだ。僕はお前なんかと見合いはしない。2ヶ月間、せめて僕に姿を見せないようにコソコソとでもしていろ!」
「ようこそお越しくださいました。バトラル様」
低い、腰に響くような良い声が声をかけて来てようやく、俺の隣に人が立っていることに気がついた。馬車を迎え入れてくれている使用人たちとは明らかに風格が違う、存在感に溢れた男性なのに、声をかけられるまで全然気配を感じなかった。一瞬、彼がギースベルト辺境伯なのかとも思うほど、雰囲気のある男性だったが、黒い髪は後ろに撫でつけ、侍従の服を身につけているところを見ると、そうではなさそうだ。
「あなたは?」
「申し訳ございません。申し遅れました、私はギースベルト辺境伯閣下の侍従、オットマー・トロイトと申します。バトラル様がご滞在中の間、お世話をさせていただきます。ただ、私は元は軍人でございますので、至らぬ点ばかりではございますがお手柔らかにお願いいたします」
元軍人と言われれば納得の体格だ。顔には古傷が残っているし、身のこなしに隙を感じない。ただ、お手柔らかにと笑った顔は優しげだ。こういう強そうで優しげな男の吐口になるのは相当に興奮できそうだと、下半身が疼いた。
「へえ。辺境伯の軍人ということは、かなり強いんだね。体も大きいし」
「ありがたきお言葉でございます」
オットマーは照れることもなく、冷静な様子で軽く頭を下げた。またそれが様になっている。
「じゃあとりあえず、ギースベルト辺境伯爵様のところに案内してもらえる? 俺、あいさつしておかないと」
「かしこまりました。ではすぐにご案内いたします」
荷物などは先に部屋に運んでおいてくれるということで、俺はオットマーの案内でギースベルト辺境伯の執務室まで向かった。
「フランツ様、入りますよ」
「オットマー! 返事をしてから入れと言っているだろう!!」
「失礼いたしました。フランツ様、あなたの妻になられる方が到着のご挨拶に来てくださいました」
「妻になるかはまだ決まってない! というか僕に妻は必要ない!!」
オットマーがノックと同時に声をかけ、辺境伯が返事をする前に開けた扉の先には、先ほど馬車のところで会った少年が怒り顔で座っていた。執務室の一番奥の窓際の席で、そこは一般的にその部屋で一番身分の高いものが座る席だ。この辺境伯の屋敷において、もちろん、その席は辺境伯爵が座るべき場所。そこに少年が座っていた。
「ギースベルト辺境伯……?」
思わず呟いた俺の声に、少年はキッと睨みつけてきた。
「そうだ! 僕こそがギースベルト辺境伯だ!」
「そうでしたか。それは……すみません」
これはどうしたことかと息を吐いた。
ドMの俺は確かに変態ではあるが、子供に手を出すほど落ちぶれていない。
目の前のギースベルト辺境伯は12歳前後に見える。彼が夫になるとしても、これは相当に気の長い話だ。
「今、子供は相手にできないなどと思ったんじゃないだろうな!」
「え? あー、まあ。はい」
「僕は22歳だ」
「え?」
俺よりも年上だなんて冗談を、俺はどう返せば良いのだろう。と戸惑っていると、オットマーがくすりと笑った。
「フランツ様は獣人の血が入っていらっしゃるので、通常の人間とは成長のスピードが多少違うのです。帝都では珍しいかもしれませんが、ギースベルト辺境伯領には割と存在しているんですよ」
「へー、そうなんだ」
獣人が存在する世界であることを初めて知ったが、そういうことなら問題はない。問題ないと俺だけが思っていても意味はないが。
「はい。かくいう私もその一人です」
オットマーはそう言うとにこりと笑った。
22歳で12歳ほどの見た目のフランツから考えて、俺より多少年上に見えるオットマーはさらに年上であるのだろう。
「へえ。何だか不思議だけど、まぁ何でも良いや。とりあえず2ヶ月間よろしく」
「……能天気なやつだな。これだからオメガは好きじゃないんだ。僕はお前なんかと見合いはしない。2ヶ月間、せめて僕に姿を見せないようにコソコソとでもしていろ!」
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