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ルカ・ギルバー視点:1

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俺は、ギルバー侯爵家の次男として産まれた。
アルファ家系ではあるが、特級アルファは1人もいない侯爵家で、特級アルファとして産まれた俺は、父親が兄のことを想うあまり、幼い頃から貴族の少ない軍の養成学校に入校させられた。
昔気質な家系ということもあり、父も母も長男であるジョーダンをとても大切にしており、次男のくせにジョーダンよりもアルファ性の数値が高い俺は疎まれていたのだ。

けれど、俺はたまにしか合わない兄のことを特に嫌いだとは思わなかった。
兄もまた、俺のことを特に嫌ってはいなそうだったからかもしれない。

長男のスペアとしての教育すら受けさせてはもらえなかったが、軍で荒波に揉まれ、仲間と共に切磋琢磨し、人数は少ないが人生経験として入隊させられている貴族の子息に勉強を教えてもらい、教え方がうまかったのか、勉強もメキメキとできるようになり、それなりに楽しい人生を過ごしてきたと自負している。

きっとこの先も、親や家族に対する愛を得られない変わりに、自由を満喫して生きて行き、酒場などで出会った女性と結婚するのだろう。漠然とそう考えていた。

けれど、軍から休暇を出され居心地の悪い実家に帰っている時に久しぶりに顔を合わせた両親は、迷惑なことに俺の存在をやっと思い出してしまったようだ。運が悪いことにちょうど帰省の時期と入学手続きの時期が重なっていたらしく、急ぎ、ボートルニア帝国貴族学園への入学手続きが決まった。次男とはいえ、侯爵家の息子がボートルニア帝国貴族学園へ入学しないのは、彼らにとって外聞が悪いらしい。

そうして俺は、この居心地の悪い屋敷よりも、自分の居場所と思っていた軍すらも奪われてしまった。

そんな経緯があったので、学園生活はまるでやる気を感じていなかったが、俺はそこでほとんど話したことの無い生徒に一目惚れをした。その生徒というのがバトラルだった。小さい体で、ふわふわのハニーブロンドの髪は、太陽の光が当たってキラキラと輝いていた。ヒートを起こしているわけでもなさそうだが、彼の近くを通るといつも甘い香りがした。その華奢な体をめいいっぱいに動かし、いつも全力で動いていて、ちょこまかしている様が可愛らしく健気で、陰ながら応援していた。だが彼は貴族に産まれた男性オメガだ。すでに皇太子殿下と婚約をしており、あとは公爵家の特級アルファが優先されるだろう。そして、その次が公爵家の特級ではないアルファ。その次に侯爵家が回ってくるとしても、あの両親は俺が兄を差し置いて彼の夫の1人になることを認めてはくれないだろう。

良い。それならそれで。彼が皇太子妃殿下になったなら、ひいては皇帝妃陛下だ。
軍人として、この国に仕えていれば回り回って彼の役に立つことはできるはずだ。
そう決意した俺は、彼のことを好きだとは、両親にも、使用人にも友人にも、もちろんバトラル本人にも誰にも話すこともせずただ日々を過ごした。

けれど、そんな日々は兄のやらかしによって突如終了した。

バトラルにもそれ以外にも多大な迷惑をかけ、家名に泥を塗ったのだ。
身勝手な理由でバトラルに危害を加え連れ去ろうとしたことは、例え兄1人が死んだところで許されることではない。
俺が兄に代わりギルバー侯爵を襲爵したが、それも時間の問題で、いずれ一家全員連座されることだろう。父も母も、暗い表情で部屋にこもりがちになった。

俺はいつ処刑されるかも分からない身なので、がむしゃらに働いた。
残された人生、全力を出しすぎたとしても疲れた頃には処刑だろう。

だから、出し惜しみせずに全力をだした。

時間外労働もすすんで引き受けた。

けれど、しばらくしても俺は処刑されることはなく、それどころか宰相を目指して見習いのようなことをさせられるまでになっていた。

学生の頃、ほとんど話すこともできなかったバトラルの教育係も任されて、寝る時間もさらになくなったが、バトラルと話せて、俺は最高に幸せだった。

最近はいつも隣に生意気な年下の子爵子息がいるのが、鬱陶しく思いながらも、忙殺される生活の中で、バトラルに勉強を教えている間は、唯一と言っても良いほどの癒しの時間だった。

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