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60:ペナルティ

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「だから、これは僕の鼻血なんだって。ルカは興奮作用のあるお茶を飲んじゃった僕の解消をしてくれてただけ」
「ベッドの上の血が、バトラルの鼻血だったとして、それで、夫である私やバイロンの許可もなしに番契約を結んでしまうのはそう簡単に許せることではないよ」

クライブは、優しい口調ながらもきっぱりとそう言った。

「お前は、自分が何をしたのか分かっているのか」

バイロンが冷たい目でルカを見下ろしそう言った。

「はい。当然許されないことをしたという自覚はありますし、覚悟もできております。極刑でもなんでも謹んでお受けいたします」

覚悟ができているからなのか、開き直っているのか、ルカは少しも動じていなかった。

「ふん。良い覚悟だな」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ルカが極刑なんておかしいでしょ。だって、ルカがいなかったら僕は今頃大変なことになってたんだよ。いわば僕の命の恩人じゃん。それに大体、ルカの行動の何が問題なの! クライブだってバイロンだって、僕を勝手に番にしたでしょ! いや、嫌だったとかそう言うんじゃなくて、ルカとやってることは同じでしょ! って言いたいんだけど」

勝手に番にしたでしょ、と言った瞬間に、クライブもバイロンも叱られた犬のようにシュンとなったので、言い訳のようなものを後から付け足した。

「だが、ギルバー侯爵家はジョーダンのこともある」
「たしかにルカはジョーダンの弟だし、現ギルバー侯爵だけど、ジョーダンとはルカは違う人間だよ」

万が一、ジョーダンがあんなことをしなければ、ルカが俺を番にしたところでなんの問題もなく、受け入れられていただろう。貴族として家単位で背負う責任があるのも分かるけど、兄弟がしたことの責任を自分も取らされるなんて嫌に決まってる。
けれど、ルカはそうは思っていないのか、俺を見て眩しそうに目を細め満足そうに小さく微笑んだ。

「バトラル様。私のようなものを庇っていただきありがとうございます。ですが、大丈夫です。バトラル様は私の番の刺を受け入れてくださった。それだけで、冥土の土産になるほどに、私にとってはとても光栄なことです。最高の思い出をいただけました」
「その口調やめてよ。もう本当のルカの話し方を知っちゃったんだから。それに、冥途の土産なんて縁起でもないこと言わないでよ! クライブもバイロンも極刑なんてそんな酷いことしない。絶対しない。ね、そうだよね!」

クライブに問いかけると、クライブは首を竦めて、仕方がないというように小さく息を吐いた。

「……まぁ、バトラルがそこまで言うなら……仕方がないね」
「クライブ!」
「でも、許可もなしに勝手なことをしたギルバー侯爵にはペナルティを負ってもらわないと他の者に示しがつかない」
「ペナルティ?」
「冷戦状態になっていた西の国と戦争が始まる。そこで指揮を取り手柄を立てれば、許可なくバトラルを番にしたことを許し、お前に望む褒美を与える」

クライブの言葉に、ルカはギラリとした目で顔を上げた。

「それは、なんでも、ですか」
「ああ。陛下には私が伝えておこう。ルカ・ギルバー侯爵が手柄を立てた暁には望むものをなんでも与える」
「分かりました。必ず、手柄を立ててまいります」

ルカは口調とは裏腹に、野性味あふれるギラついた目でそう宣言した。
戦場で指揮を取ることや、そこで手柄を立てることは、きっと平和な世界で生きてきた俺には想像もできないほどに、とても危険なことだろう。
だが、今すぐに極刑になってしまうよりは足掻く余地があるだけ良いのかもしれない。
俺を抱いたことでこんなことになってしまって申し訳ない気持ちはあれど、俺はただ見送るしか選択肢がなかった。
俺はジョーダンがあれからどうなったのかを知らないけど、ルカはきっと戦場で手柄を立てて兄であるジョーダンの減刑や執行猶予みたいなものを求めるつもりなのだろう。

「お前の母君の祖国だろう。覚悟はあるのか」

バイロンの問いかけに、ルカは息を吐き出すように笑った。

「俺は、望むものを手に入れるためなら手段を選ぶつもりはありません。それに、俺の国はボートルニア帝国ただひとつです」
「そうか」
「はい」

そうして、数日後にはルカは戦場へ旅立って行った。

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