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元バトラル視点2

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明日はどうやってこの屋敷から抜け出て、どうやって生き延びようか。
8歳の体だから、見つからずに逃げて、見つからずに生活するなんて相当骨が折れるだろうけれど、なんとかこなして、なんとか平穏に過ごしたい。
小説の中の圭吾のようにとまでは言えないけど、あんな風に自由に生きていけたら幸せだろう。

ふと目が覚めると、真っ白な空間にいた。

上も下も右も左も全部真っ白で、どこまでも続いているかのような空間。
気がついたら、そこにただボーッと立っていた。

ひらり。

「ん……?」

上から降ってきた1枚の紙に気がついて、地面に舞い落ちたその紙を拾い上げると、文字が書いてあった。

『適材適所』

紙にはそう書かれていた。

「どういうこと?」

ひらり。

また紙が落ちてくる。

『私にも、どうしようもないミスをすることがある』
「?」

話の文脈など何もないように感じるこの紙は、もしかしたら僕に向けられたものではないのかもしれない。
そう思っていると、また、ひらり。と舞い落ちてきた。

『バトラル。お前の魂は、お前が望むように石田圭吾の中に。そして、石田圭吾の魂は、バトラルの体に入れよう』
「え……? でも」
『石田圭吾はそれを望んでいる。人生は試練といえど、バトラルにはちと……まぁ、私の手違いというか、それで、試練を与えすぎてしまったのだ。もう、バトラルとして生きるのは耐えられないのだろう?』

その時、真っ白な空間に、石田圭吾の姿が映し出された。小説でしか知らないが、表紙や挿絵に入っているので石田圭吾の見た目はすぐにわかった。
圭吾はどうやら、ベッドのようなものに座ってゲームをしているようだ。

『っっっ、はぁ~~。羨ましい。バトラルが羨ましすぎる』

ニヤニヤ、ソワソワとしていた石田圭吾は、釘付けになっていたゲームから手を離し、そのまま後ろに倒れる形でベットに転がった。

『ほら。石田圭吾は、バトラルになりたがっているぞ。まぁ、とりあえず話し合わせてやる。そうして、バトラルが強く望めば、2人は入れ替わることができる』

その後すぐにその真っ白い空間に、石田圭吾が現れてからやっとここが夢の世界であって夢ではないのだと気がついた。
それから、石田圭吾に全てを話し、僕は石田圭吾になることを強く願い、次に目が覚めた時には石田圭吾の体に入っていたのだ。

「おいっ。おい! 圭吾! 起きろ」
「ん……?」

文字通り叩き起こされて、目を覚ました。
目の前には知らない男性が1人。
困ったような顔をして僕を見下ろしていた。

「こんなところで、毛布も被らずに寝ていたら風邪を引くだろ! とりあえず、暖かい飲み物入れたからこれを飲め」
「え……うん」

男性に差し出されたカップを素直に受け取って、カップの中を見ると茶色い液体が入っていた。甘い匂いが漂っていて美味しそうで、言われるがままにそっと口をつけると、それは程よく暖かくて、思った通りとても甘くて美味しかった。

「……美味しい、ありがとう」
「っ、そんなに素直に喜ぶのは珍しいな」

男性は驚いたような顔でそう言ってハニカんだ。

「そう、かな」
「ああ。そうだよ。そもそもいつも圭吾が世話を焼くばかりで、こっちは上げ膳据え膳されるだけだからな」

圭吾。そういえばさっきもそう呼ばれて起こされたんだった。僕は圭吾の中に入れたんだ。
ということは目の前の男性は、黒川順一郎という人かもしれない。詳しくは描写されることはなかったけど確か小説ではそう言う名前の圭吾のドMの心を満たすための相手が1人いた。

「黒川、さん?」
「なんだよ?」

恐る恐る呼びかけてみると返事をしたので、やっぱり目の前の男性は黒川順一郎なのだろう。でも彼は、圭吾を完全に満たすことはなかったはずだ。なぜなら、圭吾はなかなか満たされない思いをゲームなどにむけているようだったから。黒川さんと会った描写のあとは、ゲームに没頭しているようだったし。でもどのみち、この体が僕に変わったのだから、彼と関係を続けるわけにはいかないだろう。小説を読んだ限り付き合っているわけではないし、ドMじゃない僕は彼には合わない。

「ぼく、あ……俺。もうこういうことはやめにする。だから、ここにももう来ないで」
「……は?」

黒川さんはぽかんとした顔を僕に向けて、停止した。

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