60 / 86
55:出産
しおりを挟む
それから数ヶ月経った。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「……ぅ、産まれた……」
出産という行為は、ドMの俺の痛みのキャパを平然と超えてきて、かなり辛かった。
だが、10ヶ月もの間、自分の体の中で育てた子供と出会えると思えば、それもなんとか乗り越えられた。
赤ん坊を取り上げた医師がへその緒などの処置をして、俺のそばに運んでくれた。
「バトラル様。元気な男の子ですよ」
「うん。ぁあ、かわいい……僕の息子」
赤ん坊はしわくちゃで、元気に泣き声を上げている。お腹の中にいた時から元気で健康的なサイズだと医師は言っていたけど俺から見たら小さくて小さくて、この子を守らないとなと心の底から思えた。
その横で生まれたばかりの赤ん坊を見て、クライブが涙を流しているので俺はなんだかクライブがちゃんともう父親みたいな感じがしておかしかった。
「バトラル、ありがとう……っ、頑張ってくれてありがとう」
「クライブも……ありがとう」
「私はなにも」
「ここまで支えてくれたし、僕を親にしてくれた」
前世でだって俺は親ではなかった。そもそもゲイでドMだったし、虐めてもらえればそれで良いなんて考えて子供なんて必要ないと思っていたし、望んでもいなかったけど。ここにきて、自分が産む側の体になって、そして、不可抗力だが赤ん坊を産んで。考えががらりと変わった。それも好きな人との子供だ。
どんどん出てくる腹に、愛着が生まれ始めたのはいつからだっただろうか。
最初は妊娠したということに対してどこか他人事に感じていたしあまり興味はなかったのに、何かと動いたり虐めてもらうのに邪魔になり不便だと思って、けれど、そこに命があるのだと思ったらなんだか愛おしくも感じて。腹が大きくなるにつれてだんだんと親になるのだと自覚が出てきて、内側から蹴られたりした時には幸せを感じるほどになっていた。
「眠いか? 眠ってくれ」
「……ん」
先ほどまでで体力を使い果たした体は、多幸感に包まれていた。
ふわふわして、眠気が襲ってくる。
妊娠ができるとは言っても、この体は胸が出ているわけでもなく、乳腺が発達してないので授乳はできないらしい。少し寂しくも感じるが、赤ん坊にはちゃんと栄養のあるミルクを与えられるらしい。本当はナニーの仕事らしいがそれを俺も飲ませることで手をうった。
「……可愛いな」
うとうととしていると、ベッドの横で静かにただずんでいたバイロンが呟いた。それに、クライブが自慢げな様子で応えた。
「そうだろう。私とバトラルの子だ。バトラルに似てきっといい子に育つ」
「ああ……。次期皇太子殿下はとても可愛らしい。きっといい子に育つだろう。それはとても楽しみだが、次は私との子だ」
「バトラルはまだ出産直後だ。気が早いんじゃないか?」
「そうか? きっとバトラルなら喜ぶ」
俺が目を閉じているから、もうすっかり寝ていると思われているようだ。
出産直後の人間に対して早くも次の子を要求するなんて鬼畜な所業は、まさしくドMな俺にしか許されない発言だろう。
だが、バイロンの言う通り、そんな発言を聞いて俺はすっかり嬉しくなっていた。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「……ぅ、産まれた……」
出産という行為は、ドMの俺の痛みのキャパを平然と超えてきて、かなり辛かった。
だが、10ヶ月もの間、自分の体の中で育てた子供と出会えると思えば、それもなんとか乗り越えられた。
赤ん坊を取り上げた医師がへその緒などの処置をして、俺のそばに運んでくれた。
「バトラル様。元気な男の子ですよ」
「うん。ぁあ、かわいい……僕の息子」
赤ん坊はしわくちゃで、元気に泣き声を上げている。お腹の中にいた時から元気で健康的なサイズだと医師は言っていたけど俺から見たら小さくて小さくて、この子を守らないとなと心の底から思えた。
その横で生まれたばかりの赤ん坊を見て、クライブが涙を流しているので俺はなんだかクライブがちゃんともう父親みたいな感じがしておかしかった。
「バトラル、ありがとう……っ、頑張ってくれてありがとう」
「クライブも……ありがとう」
「私はなにも」
「ここまで支えてくれたし、僕を親にしてくれた」
前世でだって俺は親ではなかった。そもそもゲイでドMだったし、虐めてもらえればそれで良いなんて考えて子供なんて必要ないと思っていたし、望んでもいなかったけど。ここにきて、自分が産む側の体になって、そして、不可抗力だが赤ん坊を産んで。考えががらりと変わった。それも好きな人との子供だ。
どんどん出てくる腹に、愛着が生まれ始めたのはいつからだっただろうか。
最初は妊娠したということに対してどこか他人事に感じていたしあまり興味はなかったのに、何かと動いたり虐めてもらうのに邪魔になり不便だと思って、けれど、そこに命があるのだと思ったらなんだか愛おしくも感じて。腹が大きくなるにつれてだんだんと親になるのだと自覚が出てきて、内側から蹴られたりした時には幸せを感じるほどになっていた。
「眠いか? 眠ってくれ」
「……ん」
先ほどまでで体力を使い果たした体は、多幸感に包まれていた。
ふわふわして、眠気が襲ってくる。
妊娠ができるとは言っても、この体は胸が出ているわけでもなく、乳腺が発達してないので授乳はできないらしい。少し寂しくも感じるが、赤ん坊にはちゃんと栄養のあるミルクを与えられるらしい。本当はナニーの仕事らしいがそれを俺も飲ませることで手をうった。
「……可愛いな」
うとうととしていると、ベッドの横で静かにただずんでいたバイロンが呟いた。それに、クライブが自慢げな様子で応えた。
「そうだろう。私とバトラルの子だ。バトラルに似てきっといい子に育つ」
「ああ……。次期皇太子殿下はとても可愛らしい。きっといい子に育つだろう。それはとても楽しみだが、次は私との子だ」
「バトラルはまだ出産直後だ。気が早いんじゃないか?」
「そうか? きっとバトラルなら喜ぶ」
俺が目を閉じているから、もうすっかり寝ていると思われているようだ。
出産直後の人間に対して早くも次の子を要求するなんて鬼畜な所業は、まさしくドMな俺にしか許されない発言だろう。
だが、バイロンの言う通り、そんな発言を聞いて俺はすっかり嬉しくなっていた。
151
お気に入りに追加
2,294
あなたにおすすめの小説
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる