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32:忠告

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「そっか……、それはだいぶ、思わぬ展開に進んだな」

俺の話を聞いて、ヨハイドは静かにそう言った。

「うん。俺、嫌われるような行動をしたら、少しの間嫌な思いをさせるかもしれないけど、俺が2人に嫌われる行動をとるのは、結果的に俺のためだけじゃなくてクライブやバイロン先生の為になると思ったんだ。けど、浅はかだった。俺が、そうだったら良いなと思ってただけだったんだ。自分のことしか考えてなかった。クライブが俺の行動を純粋に好意に受け取ってくれて喜んでくれてるの知って、自分の愚かさに気がついたよ。バイロン先生の方にはまだ何もしてなかったけど、本当、後悔してる」
「そっか。でも、結局、バトラルが嫌がらせしてたなんて、殿下も気がついてなかったんだろ? それならそんなに落ち込まなくても良いんじゃないのか」

ヨハイドの慰めに、俺は静かに首を振って答えた。

「俺さ、クライブにはもっと良い相手がいると思うんだ」
「そんなことないだろ。だって、ボートルニア帝国内で俺が魔国の王太子に溺愛されているって噂が流れてるのと同じように、魔国でもボートルニアの皇太子殿下は婚約者を溺愛しているって噂が流れているんだ。それに、俺がこの国にいた頃から、この国の貴族間では皇太子殿下のバトラル溺愛は有名な話だったんだぞ」
「でも、皇太子っていずれ皇帝になるでしょ。皇帝なんて大変な仕事は、絶対癒しが必要だと思う。俺じゃ絶対クライブの癒しにはなれないよ」

癒しの欠片もない性癖の持ち主で、その上、自分の欲望の為に、クライブ相手に嫌がらせをしていた性悪人間なんだから。
けれどヨハイドは呆れ声で否定した。

「癒しになるから今溺愛されてるんじゃないのか」
「溺愛、されてる自覚はないけど。でも、もしそうだとしても、最初に俺が婚約者に選ばれたのはこの国の同世代にオメガ男性が俺しかいなかったからに過ぎないよ。婚約者に選ばれてから友達みたいにずっと一緒にいたから、友達としての情はあると思うけど。大好きだって言ってくれるし」
「ふぅん。じゃあ結局、バトラルはどうしたいんだ?」
「どうしたいって……?」
「嫌われ作戦なんて悪いことをしたから、これからの人生どぎついプレイは諦めるってこと?」
「それはまぁ、そうなる」
「じゃあ、殿下とは? もしかして婚約解消とか、言わないよな?」
「……言わないよ。だって、今のところ、俺以外にクライブにあう手ごろなオメガ男性がいないだろ。それにこの国の貴族でオメガ男性に産まれたら、優秀な遺伝子を残す義務がある」

そう言うと、ヨハイドは小さく息を吐いて肩の力を抜いた。

「そっか。解消しないなら良いんだけど。だって、そんなことをもしもあの殿下に言ったらどんなことになるのか……。あ、でも、バトラルならきっと平気か」

先ほどまで不安そうに俺の話を聞いていたヨハイドは、俺が婚約解消を言わないと分かると目に見えて安心した顔をして笑った。

「なに? どういうこと?」
「普段温厚な人が切れると手がつけられないって話だ。俺、1回ルルイから逃げようとした時、とんでもない目にあったんだよ。Mの俺が、もう二度とルルイから逃げないと誓うほどにな。でも、超絶ドMのバトラルなら万が一クライブ殿下が豹変しても大丈夫だろってこと。でも、気をつけるに越したことはない」
「良く分からないけど、クライブが豹変するなんてことはないよ。だって、クライブってずっと優しいじゃん」

俺がそう言うと、ヨハイドは苦笑した。

「そんなことないんだな、これが。殿下はバトラルのいない場所では恐ろしいと評判だ。実際、バトラルといる時以外、笑ってる顔を見たことがない」
「へぇ。まぁ、確かに気は許してもらえてると思う」
「とにかく、婚約解消なんて言ったり、殿下の前から勝手に消えようなんて考えたりしたら、多分二度と日の光を見られなくなるかもしれないくらいに思って行動した方が良い」
「ダームドゥロード王太子殿下と、クライブは違う」

俺の言葉を、ヨハイドは右手を上げて止めた。

「いいから。それでも、妙な真似はしない方が良い。バトラルが、俺に、自分の失敗談を聞かせて同じ過ちを犯さないように想ってくれたのと同じで、いくら超絶ドMだとは言っても、俺も、バトラルに俺と同じ思いはしてほしくないんだ」

ヨハイドが一体どんな目にあったのか、気になったがなんとなく聞かない方が良い気がして聞けなかった。

「……分かった。ありがとう。気をつけて見るよ」
「ああ」

ヨハイドが俺と同じ過ちを犯さないように、と思っていたが、何だか、逆にヨハイドに釘を刺されてしまい、俺は呆然としながら空き教室を離れた。

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