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27:嫌われ作戦
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意図せず嫌われることはあっても、意図して嫌われるというのは初めての経験なので難しい。同じ行動をしていても、嫌う人もいれば嫌わない人もいるだろうし。嫌われ大作戦を行うことに決めたはいいものの、どうすれば嫌われるのか分からなかった俺は、コリンに相談した。
そして返ってきた答えは“自分がされて嫌なことをすれば良いと思いますよ”という小学生でも分かるほどシンプルなものだった。けれどその答えに激しく納得した俺は、早速クライブに試してみることにした。
まず俺が日本にいた時に嫌だった経験が、自分のことを好きだという前提で話してくる、と言うものだ。俺は日本にいた時から生粋のゲイであるが、『私のことが好きなんでしょう?』というようなことを言ってくる女性が少なからずいたのだ。そして彼女らは執拗に体をベタベタと触り、たいして親しくもないくせにタメ口で話し、あーだこーだと我が儘放題。そして俺に近づく他の女性を牽制しようとする。あれにはかなり疲弊した。
だから俺はクライブに『俺のことが好きなんでしょ?』という態度を取り、ベタベタと触れて、我が儘放題で、さらにはタメ口で話してみることにした。ついでに言えばクライブに近づく生徒は男女問わず牽制しよう。なんだか考えてみればかなりの悪役令息だが、背に腹は変えられない。
決意していたところで、ちょうどチャイムが鳴り教室までクライブが迎えにきた。
「バトラル。迎えにきたよ。さあ、一緒に帰ろうか」
「っ、うん」
あれ? わがままって何言えば良いんだろう。しまった。こんなことなら授業中にクライブに言うわがままも考えておくんだった。でもとりあえずタメ口は成功している。
現にクライブの目はまん丸になっているし。
「……ふふ。どうした? 今日は一段と可愛らしい反応だな」
「そんなことないけどっ?」
言ってみてから気がついた。
なんか違うな。これはなんだか、わがままと言うよりも傲慢って感じだ。
いや、嫌われるように仕向けるなら、わがままも傲慢も変わらないか。どっちもムカつくことは同じだ。
けれど、クライブはさすが皇太子。その皇太子教育によって表情のコントロールなんてお手の物なのか、今のクライブの表情は苛つきや疲れなど感じさせず、むしろどこか嬉しそうに目を細め、微笑んでいる。
この後は『荷物もってよ!』なんて言えば良いのか? いやいや、それもなんか違うよな。
この先の行動を考えているとクライブがスッと俺の顔を覗き込んできた。
「バトラル? どうした? ほら、今日の荷物はこのカバンだけか?」
「え、うん」
「じゃあ、早く帰ろう」
クライブはそう言って蕩けるような顔で微笑み、俺のカバンを持ち、そっと俺の背中に手を添えて歩かせようとした。
そうだった。クライブは何も言わずとも普段から俺の荷物は全部持ってくれるのだ。
「く、クライブ。いつもありがとう」
クライブ相手に直接呼び捨てにすることなど今までなかったので、ものすごく違和感を感じたが、その気持ちをなんとか抑えて、いつも通りお礼を伝えると、クライブはふわりと微笑んだ。
「どうしたんだ、今日は。何度お願いしても聞いてくれなかったのに、突然クライブと呼んでくれるなんて。私へのご褒美が過ぎるな」
「嫌なの?」
「嫌じゃない。いつもの礼儀正しいバトラルも愛らしいが、今日の小悪魔なバトラルも素敵だ」
「クライブは僕のこと大好きだもんね?」
そう言うとクライブはまた目を丸くして、それから笑った。
「ああ。よく分かってるな。実は、バトラルは私の気持ちが分かっていないのかと思っていたが、伝わっているようで安心した……さあ、乗って。今日は城に泊まる日だろう?」
クライブに手を貸されながら馬車に乗り込んでから頷いた。
「うん。今日は体の限界まで稽古をしようと思う」
「それは許可できないよ。何事もほどほどにが大事だからね」
甘やかしたがりのクライブが、今は何を言っても“いいよ”と言ってくれそうな雰囲気だったので言ってみた願望はあっさりと却下され、俺はズンと項垂れた。
そして返ってきた答えは“自分がされて嫌なことをすれば良いと思いますよ”という小学生でも分かるほどシンプルなものだった。けれどその答えに激しく納得した俺は、早速クライブに試してみることにした。
まず俺が日本にいた時に嫌だった経験が、自分のことを好きだという前提で話してくる、と言うものだ。俺は日本にいた時から生粋のゲイであるが、『私のことが好きなんでしょう?』というようなことを言ってくる女性が少なからずいたのだ。そして彼女らは執拗に体をベタベタと触り、たいして親しくもないくせにタメ口で話し、あーだこーだと我が儘放題。そして俺に近づく他の女性を牽制しようとする。あれにはかなり疲弊した。
だから俺はクライブに『俺のことが好きなんでしょ?』という態度を取り、ベタベタと触れて、我が儘放題で、さらにはタメ口で話してみることにした。ついでに言えばクライブに近づく生徒は男女問わず牽制しよう。なんだか考えてみればかなりの悪役令息だが、背に腹は変えられない。
決意していたところで、ちょうどチャイムが鳴り教室までクライブが迎えにきた。
「バトラル。迎えにきたよ。さあ、一緒に帰ろうか」
「っ、うん」
あれ? わがままって何言えば良いんだろう。しまった。こんなことなら授業中にクライブに言うわがままも考えておくんだった。でもとりあえずタメ口は成功している。
現にクライブの目はまん丸になっているし。
「……ふふ。どうした? 今日は一段と可愛らしい反応だな」
「そんなことないけどっ?」
言ってみてから気がついた。
なんか違うな。これはなんだか、わがままと言うよりも傲慢って感じだ。
いや、嫌われるように仕向けるなら、わがままも傲慢も変わらないか。どっちもムカつくことは同じだ。
けれど、クライブはさすが皇太子。その皇太子教育によって表情のコントロールなんてお手の物なのか、今のクライブの表情は苛つきや疲れなど感じさせず、むしろどこか嬉しそうに目を細め、微笑んでいる。
この後は『荷物もってよ!』なんて言えば良いのか? いやいや、それもなんか違うよな。
この先の行動を考えているとクライブがスッと俺の顔を覗き込んできた。
「バトラル? どうした? ほら、今日の荷物はこのカバンだけか?」
「え、うん」
「じゃあ、早く帰ろう」
クライブはそう言って蕩けるような顔で微笑み、俺のカバンを持ち、そっと俺の背中に手を添えて歩かせようとした。
そうだった。クライブは何も言わずとも普段から俺の荷物は全部持ってくれるのだ。
「く、クライブ。いつもありがとう」
クライブ相手に直接呼び捨てにすることなど今までなかったので、ものすごく違和感を感じたが、その気持ちをなんとか抑えて、いつも通りお礼を伝えると、クライブはふわりと微笑んだ。
「どうしたんだ、今日は。何度お願いしても聞いてくれなかったのに、突然クライブと呼んでくれるなんて。私へのご褒美が過ぎるな」
「嫌なの?」
「嫌じゃない。いつもの礼儀正しいバトラルも愛らしいが、今日の小悪魔なバトラルも素敵だ」
「クライブは僕のこと大好きだもんね?」
そう言うとクライブはまた目を丸くして、それから笑った。
「ああ。よく分かってるな。実は、バトラルは私の気持ちが分かっていないのかと思っていたが、伝わっているようで安心した……さあ、乗って。今日は城に泊まる日だろう?」
クライブに手を貸されながら馬車に乗り込んでから頷いた。
「うん。今日は体の限界まで稽古をしようと思う」
「それは許可できないよ。何事もほどほどにが大事だからね」
甘やかしたがりのクライブが、今は何を言っても“いいよ”と言ってくれそうな雰囲気だったので言ってみた願望はあっさりと却下され、俺はズンと項垂れた。
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