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コリン視点:うまく行かない悪役令息

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BLゲームの世界にヒロインとして転生して、16年。
どうやら悪役令息のバトラルも、転生者のようだと気がついたのは、だいぶ早い段階だった。
あまり社交の場に出てこない皇太子のクライブは、伯爵令息のバトラルを溺愛していると言う噂が貴族全体に広がっていたためである。
前世では悪役令息や悪役令嬢に転生した主人公が、ヒロインを逆断罪して“ざまあ”をするという展開の小説も嗜んでいたため、俺はかなり警戒した。
なにせ、俺は男に興味が持てない。いや、もちろん男同士の恋愛を見るのは大好きで大好物だが、受けとか攻めとかそのポジションに自分を当てはめてみるのは生理的に無理なのである。
それなのに、当て馬にされるのは本当に勘弁してほしいという感情が埋め尽くす。
断罪されてしまえば、ゲームの中のバトラルへの断罪がそっくりそのままこちらにくるのだろう。
そう思ったらゾッとした。
18禁ゲームと言っておけば悪役に何をしても許されるのか、と思わせるほどに断罪のたびに凌辱の限りを尽くされるバトラルは、悪役で、ゲームの中のキャラクターと分かっていても思わず同情してしまうほどだ。
確かに俺は腐男子だ。だが、例え腐っていたとしても、ドMでもなければ恋愛対象が男性でもない俺は、絶対に断罪されるわけにはいかない。
なので転生者であろうバトラルから断罪されないように、学園入学時にはピンクの頭を茶色に染めて、瞳にも同じ色のコンタクトをつけ入学式に挑んだ。

だが、入学式でバトラル相手に早々に転生者であることがバレてしまった。
けれど、そこから先は俺が予想しうるどの展開とも違った。

バトラルは自分はドMなのだと、だから“ざまあ”されたいのだと言った。
けれども、俺にそれを協力するように強制したりはしなかった。

だから、見た目的に俺の一番の推し受けだったヨハイドが、ゲームの中のバトラルかのように現在のバトラルを虐めていたが、それ以外は概ね平和な日々を送っていた。
バトラルは、ヨハイドが近くに来た時は自分から離れておいて欲しいと言ってきた。
何かがあった時に巻き込みたくないからと言うバトラルに、最初はそんなことはできないと言っていた俺も、『もし何かあった時に、俺だけが断罪されたいんだよ。お願い』などと言うお願いをされたら、頷かざるおえなかった。俺には到底理解できない望みではあるけど、バトラル本人があの、思わず同情してしまいそうになる程の惨たらしい断罪を望んでいるのだ。

だから俺は、バトラルといる時間を減らし、リアルBLウォッチをすることに専念していた。

その日も、空き教室の掃除用具棚に隠れ、BL展開が始まらないかと待っていた。
前世で言えば空き教室で待っていてもそう簡単にBL展開が始まる訳はないのだが、ここはBLゲームの世界だけあって、どこに潜んでいても割りかしBL展開を覗き見ることが出来る。

だがその日、教室に入ってきたのはバトラルとヨハイドだった。

バトラルを執拗に責め立てるヨハイドの言葉に、バトラルは終始興味なさそうに生返事を繰り返していたが、やがて、ヨハイドはクライブのことが好きなのかという話題になり、なぜかヨハイドが慌てた声を上げ始め必死になっている様子の時だった。

ドゴォォォォン!!!

凄まじい音と衝撃で、俺の居た掃除用具棚は吹き飛ばされ倒れた状態でドアも開かなくなってしまった。
棚に小さく開いた穴から外を覗くと、割と近い位置にバトラルとヨハイドが揃っており、その向こうの瓦礫から大きな男が出てきた。男の言葉は、棚越しにははっきりとは聞こえなかったが、近くにいたバトラルとヨハイドの会話は聞こえた。

その内容で、2人のうちどちらかが魔国に行かなけらばいけない状況であることはわかった。

その話の中で、ヨハイドの方もバトラルと同じドMであることも聞いてしまった。
つまり今俺の前で、どちらが魔国に行くのか揉めて、揉み合いキャットファイトしている2人ともがドMということだ。

けれど、勝敗はバトラルの勝ちで決まったみたいだ。
それも当然だろう。
バトラルの妄想の内容は、ゲームの中の凌辱レベルを圧倒的に超えている内容も含まれていたのだから。
自分の夢を嬉々として語っているバトラルは、もしかしたら仲間ができたようで嬉しいのかもしれない。

だが、ヨハイドとはドMのレベルが合わなかったらしい。小さな穴越しに見ても、目に見えて真っ青な顔をしたヨハイドに、俺は同情せざるを得なかった。

けれど、ヨハイドの力ない肩にポンと手を置いてから、魔族の元に向かおうとするバトラルの願いはそう簡単には叶いそうにないらしい。

「バトラル!!!!」

クライブが、半壊した瓦礫を超えて走ってきたのだ。

「く、クライブ……様!? ど、どうして」
「当然、助けにきた……。遅くなってすまなかった」
「ぁ……ぃ、いえ……、クライブ様、助けに来てくださって嬉しいです」

やっと、という感じで応えたバトラルを、クライブは後ろから抱きしめた。

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