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21:バイロンの授業
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「走ることにも手を抜くな。とにかく走れ」
バイロンの声が校庭に響き渡る。
バイロンはクライブや俺が幼い頃から剣術を教えてくれていたが、クライブが貴族学園に入った今は、学園に教官として勤めている。俺が幼いときに倒れてしまった一件以来、バイロンは俺が無茶な追い込みをしないように監視してくるので、あれから今まで一度も倒れることはなかった。
「コリン殿」
周回遅れで走っていたコリンに声をかけると、コリンは死にそうな顔をしていた。
「ぜぇ、ぜぇ……ば、バトラル、どの……も、もう無理。俺、こんな」
「無理せず、休んだ方が良いよ。大丈夫、先生は無理しすぎないようにするのも仕事だから、こんなに満身創痍になってるコリン殿が休んでも怒らないよ」
そうは言っても、バイロンの態度からして、休もうとする生徒を許すようには見えないのだろう。コリンは俺を疑わしげに見た。
ちょうどそのあたりでバイロンの前を通過するところだったので、俺はバイロンに声をかけた。
「先生、コリン殿はもう限界です。休憩しても良いですよね」
「む。ああ。もちろんだ。顔が真っ青だな。気がついてやれずにすまない。そこの木陰で休みなさい」
「え……、あぁ、りがとうございます」
コリンは信じられないと言うような顔をして、バイロンに言われた通りに木陰に向かって行った。コリンはバイロンルートを攻略しなかったのだろうか。ゲームの中のバイロンは、不器用だが根は優しいという設定だったし、それはこの世界のバイロンも同じに感じる。
バイロンは怠ける者には厳しいが、一生懸命にやってる生徒にそれ以上を求めたりはしない。
実際にバイロンは木陰に向かうコリンを心配そうに見やって、コリンが木陰に座ったのを確認してから校庭に目を向け直した。そうして俺もまた走り始めて少し経った時だった。
「おい! お前ももう休め。おい!」
俺はまだ追い込み始めていないので俺に対してではないと分かっているのだが、バイロンの声が聞こえ俺はそちらに目を向けた。
「いえ……まだ、走れます」
「ファブランド公爵令息! 止まりなさい」
バイロンが声をかけても止まろうとしないヨハイドに痺れを切らして、ヨハイドの腕を掴み走るのを止めさせた。
「まだ走れますと言っているのに」
ヨハイドが恨めしげにバイロンを見上げた。
「これ以上走ったら倒れてしまう。私は生徒を危険に晒したくはない。何かに焦っているのか? なぜそんなに無理をしようとするのか、私には分からないが、無理をせず自分の限界を見極めて鍛錬することも、強くなるためには大事なことだ。分かったらあそこの木陰に行って見学をしなさい」
「……はい」
これ以上言っても無駄と悟ったのか、ヨハイドは大人しく木陰に向かって行った。
だが俺は正直言って意外だった。ヨハイドのように、人を陥れようと画策する人間は、走り込みなんて面倒くさがるイメージがあったからだ。『強くなるために鍛えるのは、公爵令息たる僕には相応しくない。そんなものは下々のやることだ』的なことを言ってもおかしくないと思っていただけに、ヨハイドの考えが少しも読めなかった。
バイロンの声が校庭に響き渡る。
バイロンはクライブや俺が幼い頃から剣術を教えてくれていたが、クライブが貴族学園に入った今は、学園に教官として勤めている。俺が幼いときに倒れてしまった一件以来、バイロンは俺が無茶な追い込みをしないように監視してくるので、あれから今まで一度も倒れることはなかった。
「コリン殿」
周回遅れで走っていたコリンに声をかけると、コリンは死にそうな顔をしていた。
「ぜぇ、ぜぇ……ば、バトラル、どの……も、もう無理。俺、こんな」
「無理せず、休んだ方が良いよ。大丈夫、先生は無理しすぎないようにするのも仕事だから、こんなに満身創痍になってるコリン殿が休んでも怒らないよ」
そうは言っても、バイロンの態度からして、休もうとする生徒を許すようには見えないのだろう。コリンは俺を疑わしげに見た。
ちょうどそのあたりでバイロンの前を通過するところだったので、俺はバイロンに声をかけた。
「先生、コリン殿はもう限界です。休憩しても良いですよね」
「む。ああ。もちろんだ。顔が真っ青だな。気がついてやれずにすまない。そこの木陰で休みなさい」
「え……、あぁ、りがとうございます」
コリンは信じられないと言うような顔をして、バイロンに言われた通りに木陰に向かって行った。コリンはバイロンルートを攻略しなかったのだろうか。ゲームの中のバイロンは、不器用だが根は優しいという設定だったし、それはこの世界のバイロンも同じに感じる。
バイロンは怠ける者には厳しいが、一生懸命にやってる生徒にそれ以上を求めたりはしない。
実際にバイロンは木陰に向かうコリンを心配そうに見やって、コリンが木陰に座ったのを確認してから校庭に目を向け直した。そうして俺もまた走り始めて少し経った時だった。
「おい! お前ももう休め。おい!」
俺はまだ追い込み始めていないので俺に対してではないと分かっているのだが、バイロンの声が聞こえ俺はそちらに目を向けた。
「いえ……まだ、走れます」
「ファブランド公爵令息! 止まりなさい」
バイロンが声をかけても止まろうとしないヨハイドに痺れを切らして、ヨハイドの腕を掴み走るのを止めさせた。
「まだ走れますと言っているのに」
ヨハイドが恨めしげにバイロンを見上げた。
「これ以上走ったら倒れてしまう。私は生徒を危険に晒したくはない。何かに焦っているのか? なぜそんなに無理をしようとするのか、私には分からないが、無理をせず自分の限界を見極めて鍛錬することも、強くなるためには大事なことだ。分かったらあそこの木陰に行って見学をしなさい」
「……はい」
これ以上言っても無駄と悟ったのか、ヨハイドは大人しく木陰に向かって行った。
だが俺は正直言って意外だった。ヨハイドのように、人を陥れようと画策する人間は、走り込みなんて面倒くさがるイメージがあったからだ。『強くなるために鍛えるのは、公爵令息たる僕には相応しくない。そんなものは下々のやることだ』的なことを言ってもおかしくないと思っていただけに、ヨハイドの考えが少しも読めなかった。
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