上 下
15 / 86

クライブ視点:救出

しおりを挟む


賊に押さえつけられ、自分が何もできないうちにバトラルが連れ去られた。賊は意外にもバトラルとの約束通り、俺を置いてその場を去っていった。

「くそ……くそ、バトラル」

地面に伏したまま悔しい思いで歯を食いしばった。
けれど、当然そうして無駄な時間を過ごしている暇はない。

「起きろ! 今すぐダッシュライド公爵邸に向かう」
「っ、で、殿下……申し訳ございません」

賊にやられ伸びていた護衛を起こした。

「謝罪は後だ。今はバトラルの救出が先だ」

乗っていた馬車は、賊がそのまま乗って行ってしまったので、街の端までは徒歩で行き、そこからは貸し馬で急いだ。
ダッシュライド公爵邸は皇都にあるはずだ。そう遠くない。
バイロンが訓練が終わった後に寄り道をせずに屋敷に帰ってくれていれば、手を貸してもらえるはずだ。

「バトラル……」

不安を少しでも抑えようと、胸元を掴んだ。
去り際のバトラルは、怖がった顔も見せずに綺麗に微笑んでいた。
あんな状況で、まるで本当に自分は何をされても構わないというように笑える者が、この世界にどれほどいるだろうか。
私は生まれて9年間であんなに心の強い者に出会ったことはない。
生まれてたった8年のバトラルに、自分が一生守ろうと誓ったはずのバトラルに、自分は守られてしまった。焦る気持ちと同時に、苛立ちや悲しみも感じる。自分のことは忘れてくれなどと言って笑ったバトラルのことを、簡単に忘れられると思われていることに。私がバトラルを簡単に見捨てると思われていることに。自分1人では何をすることもできない自分の弱さに。

ダッシュライド公爵邸に着くと、バイロンはすでに帰宅していた。

「バイロン!! お願いだ。バトラルが連れ去られた。力を貸してくれ」
「なに……? 詳しく話してくれ」

執務室で書類に目を落としていたバイロンは、私が扉を蹴破らんとする勢いで入った際には特に驚くことはなかったが、バトラルが連れ去られたことを伝えると、勢いよく立ち上がった。そして話を聞き終わると叫んだ。

「今すぐ捜索隊を出せ! 西側の街から外れた森を重点的に探すんだ!」
「はっ!!」

バイロンが指示を出すと、執務室にいた従者が一斉に外へ出て行った。

「私たちも行くぞ。手遅れになる前に」
「っ、ああ」

それから、バイロンの部下のおかげで、西の森で賊のアジトを発見できた。

「バトラル!!」

バイロンの部下が賊を抑えている間に、数名の護衛を連れアジト内を捜索した。
アジトとは言っても、洞窟を活用しているようで立派なものではない。
部屋として使っているらしいくぼみを確認して行き、一番奥でやっと見つけることができた。
バトラルは目隠しをされ服を脱がされ、今にも襲われそうになっていた。

「何バトラルに触ってるんだっ!」
「な、何だお前はっ、ぐがっ」

今まさにバトラルに触っていた男を、バトラルに走り寄った勢いのまま殴りつけると、あたりどころがちょうどよかったのか、バタリと倒れた。仲間をやられたことに切れた男の仲間が殴りかかってこようとするのを、護衛たちが倒してくれている間に、私はそっとバトラルにつけられた目隠しをとった。

「バトラル」
「……クライブ様?」

明るさに慣れていない目をしばしばさせながら、バトラルが首を傾げた。
きょとんとした表情は、この場に似つかわしくなく、年相応の幼さがあり可愛かった。

「助けに来た」
「そんな……、そんな危険なことを、僕のためにしなくても」

この後に及んで私の心配をするバトラルの優しさに、胸が熱くなった。

「バトラルは私の婚約者だろう? 大好きな婚約者が拐われて、『はい、そうですか』と納得できるほど私は冷たい人間じゃないつもりだ」

バトラルは私の言葉に納得していないのか、首を傾げたままの状態で止まっている。

「バトラル、何もされていないか? 痛いところはないか?」
「、はい。ギリギリ何もされませんでしたし痛いところもありません」
「……そうか、良かった」

バトラルを抱き寄せて、その温もりを感じると心のそこから安心した。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

処理中です...