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クライブ視点:救出
しおりを挟む賊に押さえつけられ、自分が何もできないうちにバトラルが連れ去られた。賊は意外にもバトラルとの約束通り、俺を置いてその場を去っていった。
「くそ……くそ、バトラル」
地面に伏したまま悔しい思いで歯を食いしばった。
けれど、当然そうして無駄な時間を過ごしている暇はない。
「起きろ! 今すぐダッシュライド公爵邸に向かう」
「っ、で、殿下……申し訳ございません」
賊にやられ伸びていた護衛を起こした。
「謝罪は後だ。今はバトラルの救出が先だ」
乗っていた馬車は、賊がそのまま乗って行ってしまったので、街の端までは徒歩で行き、そこからは貸し馬で急いだ。
ダッシュライド公爵邸は皇都にあるはずだ。そう遠くない。
バイロンが訓練が終わった後に寄り道をせずに屋敷に帰ってくれていれば、手を貸してもらえるはずだ。
「バトラル……」
不安を少しでも抑えようと、胸元を掴んだ。
去り際のバトラルは、怖がった顔も見せずに綺麗に微笑んでいた。
あんな状況で、まるで本当に自分は何をされても構わないというように笑える者が、この世界にどれほどいるだろうか。
私は生まれて9年間であんなに心の強い者に出会ったことはない。
生まれてたった8年のバトラルに、自分が一生守ろうと誓ったはずのバトラルに、自分は守られてしまった。焦る気持ちと同時に、苛立ちや悲しみも感じる。自分のことは忘れてくれなどと言って笑ったバトラルのことを、簡単に忘れられると思われていることに。私がバトラルを簡単に見捨てると思われていることに。自分1人では何をすることもできない自分の弱さに。
ダッシュライド公爵邸に着くと、バイロンはすでに帰宅していた。
「バイロン!! お願いだ。バトラルが連れ去られた。力を貸してくれ」
「なに……? 詳しく話してくれ」
執務室で書類に目を落としていたバイロンは、私が扉を蹴破らんとする勢いで入った際には特に驚くことはなかったが、バトラルが連れ去られたことを伝えると、勢いよく立ち上がった。そして話を聞き終わると叫んだ。
「今すぐ捜索隊を出せ! 西側の街から外れた森を重点的に探すんだ!」
「はっ!!」
バイロンが指示を出すと、執務室にいた従者が一斉に外へ出て行った。
「私たちも行くぞ。手遅れになる前に」
「っ、ああ」
それから、バイロンの部下のおかげで、西の森で賊のアジトを発見できた。
「バトラル!!」
バイロンの部下が賊を抑えている間に、数名の護衛を連れアジト内を捜索した。
アジトとは言っても、洞窟を活用しているようで立派なものではない。
部屋として使っているらしいくぼみを確認して行き、一番奥でやっと見つけることができた。
バトラルは目隠しをされ服を脱がされ、今にも襲われそうになっていた。
「何バトラルに触ってるんだっ!」
「な、何だお前はっ、ぐがっ」
今まさにバトラルに触っていた男を、バトラルに走り寄った勢いのまま殴りつけると、あたりどころがちょうどよかったのか、バタリと倒れた。仲間をやられたことに切れた男の仲間が殴りかかってこようとするのを、護衛たちが倒してくれている間に、私はそっとバトラルにつけられた目隠しをとった。
「バトラル」
「……クライブ様?」
明るさに慣れていない目をしばしばさせながら、バトラルが首を傾げた。
きょとんとした表情は、この場に似つかわしくなく、年相応の幼さがあり可愛かった。
「助けに来た」
「そんな……、そんな危険なことを、僕のためにしなくても」
この後に及んで私の心配をするバトラルの優しさに、胸が熱くなった。
「バトラルは私の婚約者だろう? 大好きな婚約者が拐われて、『はい、そうですか』と納得できるほど私は冷たい人間じゃないつもりだ」
バトラルは私の言葉に納得していないのか、首を傾げたままの状態で止まっている。
「バトラル、何もされていないか? 痛いところはないか?」
「、はい。ギリギリ何もされませんでしたし痛いところもありません」
「……そうか、良かった」
バトラルを抱き寄せて、その温もりを感じると心のそこから安心した。
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