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10:走り込み

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一緒に剣術の稽古をする約束をした翌日、約束通り迎えに来たクライブと一緒に馬車に乗り帝城に向かった。

「わざわざ迎えに来てもらってすみません」
「私が来たかったんだ。こうすれば道中バトラルと話す時間が取れるからな」
「う、嬉しいです。クライブ様」

何だこの甘い空気は。俺にはこんなの耐えられない。
もっとこう、『迎えに来てやったんだから靴を舐めろよ』くらいのテンションで来て欲しい。いや、さすがにそうなるには俺もクライブも幼すぎるか。ああ、早く断罪イベントが行われないかな。

「私はバトラルと婚約できて嬉しい。婚姻し、バトラルと共に帝城に住むことが出来るのを楽しみにしているんだ」
「僕も早くクライブ様と一緒に住みたいです」

俺はそう返してからクライブにバレないくらいに小さく息を吐いた。
断罪されるのが学園に入学した2年後だとして18歳の頃だ。それまであとどれくらいこの甘々に耐えれば良いのかと嘆いていると馬車がスッと停車した。

「着いてしまったな。バトラルといると時間があっという間だ。ああ、そうだ。バイロンにはバトラルが剣術は初心者だと伝えてあるが、スパルタすぎた時は遠慮なく休んでくれ」
「はい!」

クライブの後に続いて中庭まで向かうと、ゲームで見たバイロンそのものがいた。
確かバトラルよりも10個上で現在は18歳、ゲーム開始時には26歳という年齢だ。
銀色の髪は短く切りそろえられ炎のような赤色が覗く瞳はまるでこちらを殺そうとしているかのように鋭い。背も高く筋肉質でいかつい顔つきのバイロンは、16歳という若さで初めて戦場に出てから、数々の功績を上げ勲章をもらっている。バイロンが初めて参加した戦場で父親が死に、ダッシュライド公爵の爵位を引き継いだので、18歳の若き公爵だ。

「お前が殿下の言っていた者か」

低い声が上から降ってきた。

「はい。バトラル・アールと申します! よろしくお願いいたします」
「バイロン・ダッシュライドだ。ずいぶんとヒョロイな。私の教えは甘くはないぞ。今日ついて来れないのならば、それまでだ」
「はい! 精一杯頑張ります!」
「ふん。ではまず城の周りを20周走り込みをしてこい。その間に殿下の修行をつけておく」

バイロンの言葉に、俺の横から悲鳴が上がった。

「に、20周っ……バイロン、そんないきなり」
「殿下、私はやる気のないものを教えている暇はない。バトラルにやる気があるというのならば、それくらい出来るはずだ」
「だが」
「クライブ様、僕はがんばって走ってきます! クライブ様も剣術頑張ってください」
「あ、バトラル……」

引き留めようとするクライブをよそに、俺は走り始めた。
帝城の周りは1周で1キロくらいはあるだろう。20周で20キロ。この体になってから、そこまでたくさん走った事はないが、俺はバイロンが俺をいじめてくれそうな予感にワクワクしていた。

10周走ったあたりで、足がブルブルして横腹が痛くなっていたが、しばらくそのまま走っていると、自分を追い込む感覚が心地よく、いわゆるゾーンというものに入った感覚がした。
体は軽く感じいつまでも走っていられそうな感覚で楽しい。気持ちいい。気持ちいい。もっと、もっとと俺は足を進めていた。

「……る!! バ……! バトラル!!」
「んえ!? クライブ様?」

気がつくと走る俺の腕を、クライブが掴んで止めていた。

「? どうされたんですか?」
「どうされたんですか? じゃない!! 何周走ったんだっ!」
「えっと、あれ? 何周だっけ。確か15周までは数えていたんですけど」
「……はぁ。スパルタ過ぎたら休めと言っておいたのに」
「すみません」
「謝って欲しいわけじゃない。私もバトラルから目を離していたのが悪い。ただ、あまり無理はしないでくれ。バトラルが無理をしていると、私が辛いんだ」
「すみま、」
「バトラル!!」

もう一度謝ろうと頭を下げたタイミングで急激に意識が遠のいて、俺の視界に地面が迫った。
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