上 下
11 / 86

10:走り込み

しおりを挟む
一緒に剣術の稽古をする約束をした翌日、約束通り迎えに来たクライブと一緒に馬車に乗り帝城に向かった。

「わざわざ迎えに来てもらってすみません」
「私が来たかったんだ。こうすれば道中バトラルと話す時間が取れるからな」
「う、嬉しいです。クライブ様」

何だこの甘い空気は。俺にはこんなの耐えられない。
もっとこう、『迎えに来てやったんだから靴を舐めろよ』くらいのテンションで来て欲しい。いや、さすがにそうなるには俺もクライブも幼すぎるか。ああ、早く断罪イベントが行われないかな。

「私はバトラルと婚約できて嬉しい。婚姻し、バトラルと共に帝城に住むことが出来るのを楽しみにしているんだ」
「僕も早くクライブ様と一緒に住みたいです」

俺はそう返してからクライブにバレないくらいに小さく息を吐いた。
断罪されるのが学園に入学した2年後だとして18歳の頃だ。それまであとどれくらいこの甘々に耐えれば良いのかと嘆いていると馬車がスッと停車した。

「着いてしまったな。バトラルといると時間があっという間だ。ああ、そうだ。バイロンにはバトラルが剣術は初心者だと伝えてあるが、スパルタすぎた時は遠慮なく休んでくれ」
「はい!」

クライブの後に続いて中庭まで向かうと、ゲームで見たバイロンそのものがいた。
確かバトラルよりも10個上で現在は18歳、ゲーム開始時には26歳という年齢だ。
銀色の髪は短く切りそろえられ炎のような赤色が覗く瞳はまるでこちらを殺そうとしているかのように鋭い。背も高く筋肉質でいかつい顔つきのバイロンは、16歳という若さで初めて戦場に出てから、数々の功績を上げ勲章をもらっている。バイロンが初めて参加した戦場で父親が死に、ダッシュライド公爵の爵位を引き継いだので、18歳の若き公爵だ。

「お前が殿下の言っていた者か」

低い声が上から降ってきた。

「はい。バトラル・アールと申します! よろしくお願いいたします」
「バイロン・ダッシュライドだ。ずいぶんとヒョロイな。私の教えは甘くはないぞ。今日ついて来れないのならば、それまでだ」
「はい! 精一杯頑張ります!」
「ふん。ではまず城の周りを20周走り込みをしてこい。その間に殿下の修行をつけておく」

バイロンの言葉に、俺の横から悲鳴が上がった。

「に、20周っ……バイロン、そんないきなり」
「殿下、私はやる気のないものを教えている暇はない。バトラルにやる気があるというのならば、それくらい出来るはずだ」
「だが」
「クライブ様、僕はがんばって走ってきます! クライブ様も剣術頑張ってください」
「あ、バトラル……」

引き留めようとするクライブをよそに、俺は走り始めた。
帝城の周りは1周で1キロくらいはあるだろう。20周で20キロ。この体になってから、そこまでたくさん走った事はないが、俺はバイロンが俺をいじめてくれそうな予感にワクワクしていた。

10周走ったあたりで、足がブルブルして横腹が痛くなっていたが、しばらくそのまま走っていると、自分を追い込む感覚が心地よく、いわゆるゾーンというものに入った感覚がした。
体は軽く感じいつまでも走っていられそうな感覚で楽しい。気持ちいい。気持ちいい。もっと、もっとと俺は足を進めていた。

「……る!! バ……! バトラル!!」
「んえ!? クライブ様?」

気がつくと走る俺の腕を、クライブが掴んで止めていた。

「? どうされたんですか?」
「どうされたんですか? じゃない!! 何周走ったんだっ!」
「えっと、あれ? 何周だっけ。確か15周までは数えていたんですけど」
「……はぁ。スパルタ過ぎたら休めと言っておいたのに」
「すみません」
「謝って欲しいわけじゃない。私もバトラルから目を離していたのが悪い。ただ、あまり無理はしないでくれ。バトラルが無理をしていると、私が辛いんだ」
「すみま、」
「バトラル!!」

もう一度謝ろうと頭を下げたタイミングで急激に意識が遠のいて、俺の視界に地面が迫った。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...