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青砥の手が僕に触れそうになった瞬間。

バチッッッッ!!!!!!!

青砥と僕の間に火花が走ったように見えて、青砥がびっくりして手を押さえながら尻餅をついた。

「千景……お前」

青砥は驚愕の目で僕を見てきた。

「青砥、大丈夫? 今の静電気、かな」
「静電気なんかじゃ無い。だって千景は痛くも痒くもなかっただろ」
「え、確かに。そう言えばそうだった」

僕は火花みたいなものが見えただけで何も感じなかったけど、目の前で尻餅をついたままの青砥の手は赤く腫れ上がっていた。

「アルファのマーキング……。だけど、まだ触れてすら無いタイミングでって、千景どんなアルファに目をつけられたんだよ」
「え?」
「そのアルファに弱みでも握られたか? それとも薄情ものの千景はたったの1年も俺を待てないのか?」
「薄情ものって。それって青砥の自己紹介?」
「お前……」

青砥は、僕がこんな風に言い返すなんて思っていなかったと言う顔で、絶句していた。
確かに今までの僕は、青砥にも両親にもクラスメイトにも逆らおうなんて思ったことはなかった。人から嫌われたくなかったから。だけど、それを辞めた途端、僕と話してくれる人が出来たなんて、皮肉でしかない。

「大好きだったよ、青砥。青砥は僕の世界の全てだった」
「だったら!」
「でも、もう気がついてしまったんだ。この世界は僕の居るべき場所じゃなかったって。この世界には誰も僕を愛してくれる人なんて居なかったけど、愛してくれる人が居ることを知ってしまった」
「っ、そのマーキングをしたアルファのことか」
「うん。彼は僕を愛してくれる。僕は彼といたらきっと幸せになれるんだ」
「俺が幸せにしてやるって」

僕はゆっくりと首を振った。

「さっき、青砥はたったの1年って言ったけど、僕にとってはその1年は大事な大事な1年だったんだ。本当なら終わって欲しく無い1年になるはずだったんだ」
「終わって欲しく無い?」
「うん。だけど、今はちょっと願っちゃってる。早く1年経たないかなって」
「それって」

絶望みたいな顔だった青砥の顔に喜色が浮かび、僕の中に、なんとも言えない不快感が押し寄せた。

「ああ。違うよ。青砥とやり直したいわけじゃ無い。1年経ったら迎えにきてくれるはずなんだ」
「ふざけるな! 千景は俺のだろう!」

怒りに染まった青砥の顔を見て、僕は先ほどまでの不快感が少しおさまった。

「青砥、声が大きいよ。それに僕はもう青砥のものじゃない。僕に構ってないで和樹を大事にしてあげなよ」

青砥は自分自身の大きな声で、周りの人に醜態を晒してしまった。
自分で振った千景に対して、自分から接触して、さらには千景は自分のもの宣言するなんて、頭がおかしいとしか言いようがない。けれど、青砥自身は自分の失態に気がついている様子はなかった。

「なぁ、よりを戻そう。和樹にはバレないように付き合えばそれでいいだろ? そしたらお前も寂しくなくて、そんなアルファのところには行かないだろ?」

青砥の妄言に僕はめまいがした。
僕の好きだった青砥は、もうどこにもいなかった。
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