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朝日の光で目が覚めると、体はだるかったものの、服は乱れておらず昨日のことは全て夢だったんじゃ無いかと思った。けれど部屋にはフェルレントの匂いがしっかりと残っている。

「愛しい子」
「ふぇ!?」
「……君の前に姿を現せる日を私は楽しみにしている。だが、千景のヒートが終わりまたしばらくは声も聞こえなくなるかもしれない。けれど忘れないで、私はいつでも千景と共にいることを」

そうしてフェルレントの匂いがスーッと消えた。
死神が、自分と共にいることを宣言してきたら、怖いと思うはずなのに、僕はそれがひどく嬉しかった。だって、フェルレントは僕が生まれた時から好きだったと、ずっと見ていたと言っていた。僕はそんな風に愛されたことなんて両親からすらなかったから。
青砥と居た時だってこんなに満たされた気持ちになったことはなかったと、今になって気がついた。僕は青砥と居た時だってどこか不安を抱えていた。
けれどフェルレントの言っていたことは信じられる気がした。
青砥に振られてから4日しか経っていないのに僕はもう青砥のことを忘れて、昨日の夜会ったばかりのフェルレントが気になってしまっている。

だって、僕は子供の頃からずっと死にかけていた。
生きてることが奇跡なくらい、死にかけていた。

それは、フェルレントがずっと長い間僕に会いたいと思ってくれていた証拠だと思った。
つまり、僕がいつも死にかけていたのはフェルレントが僕を死の世界に引き摺り込もうとしていたからかもしれない。
世間一般的に許される行為なのかと聞かれれば、そうではないけれど、僕にとってはそれこそが真実のように感じた。
こんなのは僕の妄想でしか無い。
だから、フェルレントの声がまた聞こえた時は聞いてみようと思った。

その日は1日家で休んで、次の日からまた登校した。

「千景!!」
「青砥……? どうしたの? こんな朝早くから」
「千景の方こそどうしたんだよ、最近。話す相手が出来たみたいだけど」
「ああ。うん。実はそうなんだ。今まで僕に友達がいなかったから心配してくれていたの? ありがとう」
「ちがう! 俺は、今の状況を心配しているんだ! 千景みたいに不器用な子が友達なんか作ったってすぐ裏切られるよ?」
「そうかな。まぁ、そうだとしても良いんだ。どの道、1年もしたら青砥とも皆んなとも関わることはなくなるんだから」
「俺とはまた付き合うだろ? 勝手に離れていこうとするなよ」

青砥は、学校を卒業してみんなと離れる話をしているのだと思っているようだ。

「何言ってるの? 僕から先に離れて行ったのは青砥だよ」
「だから言ってるだろ!? 和樹は病気で長く無いから、その間だけだって! 俺には千景だけだよ」

今までだったら喜んでいたかもしれない言葉が、やけに癇に障った。

「ごめんね、青砥。僕はもう君とよりを戻す気はない。好きな人ができたんだ」
「は!? こんな短期間で!? そんなの俺、知らないし許してないけど」
「ふふ。なんで青砥の許可がいるんだよ」
「なあ。いい加減拗ねるのはよしてよ。優しい千景なら俺の気持ち分かるだろ?」
「いや、分からないや。ごめん」
「千景っ!」

学校だから人の目もあるしと、油断していたら青砥が怖い顔をして僕に手を伸ばしてきた。
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