52 / 65
26章:大好き
26-1
しおりを挟む修の動きがぴたりと止まって、驚いたように私を見ていた。
「くるみ? どうした」
「今して。今がいい」
私は修の胸に顔をうずめる。
きっとそうすれば……最後まですれば、なにか変わると思った。
この不安がなくなるかもしれないって。
「なにかあった?」
「いやなの。これ以上差がつくのも、振り回されるのも」
修は小さく息を吐いて、静かに私の髪を撫でる。
私は修に抱きついたまま、首を横に振った。
そのうち、背中に腕が回され、背中を優しく叩く感触がした。まるで子どもをあやすみたいに。
私は顔を上げると、眉を寄せる。
「子ども扱いしないでっ!」
「子どもじゃないなら、今日あったこと全部言えるな」
「っ……」
私は思わず口を噤む。
修を見ると、修は、言いなさい、ともう一度念を押すように言った。
私は息を吸い、今から聞くかもしれないことを覚悟して口を開く。
「ひ、姫下さんって人に会った」
「姫下? 外科の?」
修は驚く様子もなく、静かに聞き返してくる。
私は修のその様子にまた眉を寄せて、修を見返した。
「彼女と付き合ってた? それで身体の関係もあった?」
「まさか」
「嘘つかないでよ! そんな嘘つかれるたびに、余計に私は不安になるっ……」
私はいつの間にかボロボロ泣いていた。
だって、修が大学時代にそういう関係が誰かとあったことがあるのはもう本人からも聞いていたから。
修は息を吐き、静かに言葉を吐き出した。
「姫下が、俺に好意を持ってくれてるのは知ってるし、実際に何度か告白されたことはある」
その言葉に修の顔を見上げると、修は、やっと顔上げたか、と目を細めた。
「でも、付き合ったことも、身体の関係を持ったこともない。これからも絶対ない」
「昔……修がそういうことした人は?」
「病院とも大学とも、全然関係ない子。その時だけの関係だった。くるみが気になるだろうから人に聞いてもらったけど、今はもう結婚してるらしい」
修はそういうと、また目を細めて、私の頬を撫でる。「……言いたくなかったけど、くるみに似てたってだけ」
「やっぱ最低」
「そうだよな」
修はそう言って苦笑する。「最低だった時代の俺も含めて、くるみに知ってほしい。隠し事をするつもりはもうない」
修は当たり前のようにそう言った。
「最低な男だって、嫌いになった?」
「最低なのはわかってた」
「だな」
修はまた苦笑して、それから私の頭を軽く叩いて私の目を覗き込む。
「それで? 姫下とのことを誤解してヤキモチやいて、抱いてくれって言ったってことでいい?」
「そういうことじゃっ」
「ない?」
「なくないけど……」
(でも、それじゃ全面的に私が負けたみたいだよね……)
私が頬を膨らませると、修は楽しそうに笑って、私を抱きしめた。
「今、抱きたくなった」
そう耳元で囁かれて息が詰まる。
その言葉に、さっきまでできていた覚悟が、一歩下がっていたことに気づいた。
身体が固くなった時、それが分かったのか修が小さく笑う気配がする。
「大丈夫。土曜まで我慢するから」
修はそう言うと、私を抱きしめる腕の力を強くした。「必死なんだよ。もう二度としたくないって思ってほしくないから」
1
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。
職場で知り合った上司とのスピード婚。
ワケアリなので結婚式はナシ。
けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。
物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。
どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。
その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」
春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。
「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」
お願い。
今、そんなことを言わないで。
決心が鈍ってしまうから。
私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。
⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚
東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家
⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる