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24章:ステップアップ

24-2

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 深夜、遅くに修が帰ってきたとき、私は思わず玄関まで走って修に飛びついていた。

「おかえりっ」
「ただいま」

 修はそう言うと、微笑んで私の背中に腕を回す。私も修をぎゅう、と抱きしめた。

「少しは栄養補給になる?」
「すごく」
「ほんとに?」
「あぁ」
「あ、でも、ご飯もある。先にお風呂?」
「ありがと。でも、くるみも仕事あるだろ。無理して起きてることないからな」

「無理はしてない。したいから、してるだけ」

 私が言うと、耳元で微笑む気配がした。
 修が嬉しいなら、私も嬉しい。そんなふうに思っていた。

 私はふと思い出して、抱きしめられたまま修の顔を見あげる。

「そういえばね、今日、壮汰さんに会って……」
「熊岡に会ったのか?」

 修の眉がピクリと動いた。

「うん。半年前に戻ってきてたんだよね。今日で2回目。修が大変だってこと聞いて……」
「どこも触られたりしてないよな」
「触られ……? むしろ、私が手を掴んでしまったというか……ふぇっ!」

 修は私を持ち上げて、そのままとある場所に向かった。私は、それがバスルームであることを知り、意味が分からないまま混乱して暴れる。

「ちょ! な、なに! おろして!」

 修はやっと下ろしてくれたと思うと、「ほら、早く両手あげろ」と言い出した。

 その声が、まるで医師の診察みたいで、そう言えば修も今日医師だったなぁとか見当違いなことを考えながら手をあげると、そのまま、スポンと服を脱がされる。

「へ、ちょ、なにっ⁉」
「シャワー浴びないと気持ち悪いだろ? そのまま寝る気?」
「はい⁉ も、もう私は浴びたよ⁉」

 修がいつも遅いから、私は先にお風呂に入っているのだ。だけど修は私の手を掴む。

「洗い足りてない」
「え! どこか汚い⁉ もしかして臭い⁉」

 意味が分からない。
 意味が分からないけど、脱ぎやすいルームウェアだったせいで、すぐに下着姿にされたことだけは、後悔していた。

(もっと脱がせにくい服を着てればよかったぁあああああ!)

 どう考えても反省すべきはそこではないのだが、私は意味が分からず混乱していた。
 だけど、目の前の修は当たり前みたいな、むしろ騒ぐ私の方が変であるような顔をして、それから口を開く。

「下着は俺が脱がせる? 自分で脱げる?」
「ふぇっ……」
「3秒以内に答えないと俺が脱がせる。3,2……」
「じ、自分で!」
「いい子だ」

 そう言われて一瞬褒められた、と思ったのが、どうも騙されている気がしてならない。
 修の目線が私をさすと、朝の出来事を急に思い出して、身体が熱くなった。

「あ、あっち向いてて」
「5年前、全部見ただろ。ほくろの位置も全部覚えてる」
「っ……!」

(なんて記憶力だ!)

「あれから何度も何度も思い出してた。もう一度、俺にその身体を全部見せて」

 修の言葉に導かれるように、私は息を飲んでゆっくり下着に手をかけた。

 バスルームの中、シャワーを上から浴びながら、私の立つ後ろに、修が立っている。
 タオルを巻こうと思ったらだめだと言われ、修と反対向きで見えない方向を向いたら、こんなことになったのだ。

(おい、なんて状況だ……!)

 そう思うのに、身体はそのままそこから動けない。少しでも振り返れば修に身体見られるし……。
 そう思っている間も、修は後ろから私の首筋に口づけていた。

「目が眩むくらいキレイなままだな」
「っ……」

 たまらなくなって壁に手をつくと、その手を掴まれて、そこにも何度もキスをされる。

「どっちの手?」
「え?」
「熊岡の手を握ったの」
「りょ、両手っ、ひゃっ……」

 さらに両手の指の間を舐められ、頭が眩んだ。
 頭上からシャワーの流れる音が、耳に反響する。

 修は後ろから耳元に唇を寄せて、

「他の男に触れるのも、触れられるのも許さないから」

と低い声で囁いた。


―――シャワーの熱で、修の熱で……頭がくらくらする。

 私は目を瞑って、

「な、ならっ……修がもっと私に触れてよ!」

と叫んでいた。

(何を言い出した自分!)

 そうは思うが、今朝の熱を思い出したせいで口が先に動いていたのだ。

 修が息を飲む音が聞こえる。

「状況、わかってる?」
「わかってる……つもり」

 言ってしまったことが引っ込みつかなくなって、唇を噛んで下を向く。
 後ろから、修がクスリと笑う気配がした。

「くるみ、こっち向け」
「それは、恥ずかしいっ」

 首をプルプルと横に振ると、修はまた笑って、そのまま後ろから抱きしめるように腕を回す。

「余計触れやすいだけだけど」
「あ、んんっ……!」

 少し熱を発散しても、またそれ以上の熱が籠る。
 どこかに上っていく感覚に頭がくらくらして、怖くなる。

「キス、してて」

 顔だけ後ろを向いて呟くと、修はそのままキスをして、舌を絡ませてくる。
 その間も、修の手は、これまで触れたところと、ずっと触れられていなかった場所を探る。

 ぼんやりする意識の中、私は口を開いていた。

「気持ちい……」
「かわいい」

 修がまた嬉しそうに笑い、私は目を瞑った。

ーーー

「ごめん、さすがにのぼせるよな」

 それから少しして、私はベッドの上にいた。
 あれからすぐにのぼせたようで、私は足から崩れ落ちたのだ。

 修は楽しそうに笑うと、私に口づけをする。
 口移しで、水が私の口内に少しずつ注がれた。

「んんっ……」

 やっと唇が離れた時、涙目で修を睨むと、修は楽しそうに笑う。

ーーーあれ? なんだかすごく……。

「なんか……元気だね?」

 修、疲れていたよね?
 本当に毎日忙しそうだし……。


 私が修の顔を見つめると、修は目を細めて私を見る。

「……くるみといるだけで元気になる」
「ほんとに?」
「あぁ」

(本当にそうなら嬉しいけど)

 修の手が愛おしそうに私の髪を撫でる。
 それから唇に優しく触れた。

「だからもう一度、キスさせて」

 私は返事の代わりに目を瞑り、修は私の唇にキスを落とした。
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