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18章:今の気持ち
18-2
しおりを挟む室内に戻ると私はベランダの窓を閉める。
そして眉を寄せ、修に向き合った。
ーーーそう、私はちょっと怒っていたのだ。
栗山先生への態度に。そしてお祝い会のことだって……。
「修さ、栗山先生に対して態度変だよ。それにお祝い会のことなんだけど、嘘のお祝い会なんて……んんっ!」
文句を言い出した私の口を修の唇がふさぐ。
私は慌てて修の胸を押すが、それは全く効いていないようで、修はそのまま口内に舌を滑り込ませると、舌を絡ませてきた。
何度も何度も響く唾液が混ざる音に、頭がくらくらする。息が苦しくなって、ぼうっとしてきて、その時修が唇を離して、耳元で囁く。
「くるみ、鼻で息しろ」
「そんなこと言われてもっ、んむっ……」
もう一度キスされて、今度は言われた通り鼻で息してみたら先ほどの何倍もの長さのキスが続行された。
顔も身体も、頭の中も全部熱くて溶けてしまいそうだ。
「目がトロンとして、かわいいな。このキスにも慣れたか?」
「ま、ぁっ! 待って……!」
「昨日みたいに自分から舌、絡めろ」
修はそう言うと、もう一度貪るようなキスをする。誘導されるように舌を絡ませると、また長いキスをされ、私はいつの間にか修の背中に腕を回していた。
やっと唇が離れ、修が微笑む。
「うまくなったな」
そんなこと褒められてもうれしくない。
そう思ったところで、軽いキスをされる。
「んっ……」
「この普通のキスと、さっきのキス、どっちが好きだ?」
そう聞かれて、私はまた顔が熱くなる。
どっちも嫌だ。そう口から吐き出したのに、とっさに、舌を絡ませるキスの方だと頭の中で誰かが言う。思わず首を横に振った。
修はそのまま私のトップスに手を入れると、「触れるぞ」と低い声で告げた。
「んんっ! やぁっ……!」
「ここだよな」
「きゃぅっ……! だ、だめっ! もう離してっ」
ぐりぐりと撫でられる場所に頭がおかしくなりそうで思わず叫んで暴れていた。
修はクスリと笑うと、意地悪な表情を浮かべる。
「ここで全部脱がせたら、覗かれたら見えるだろうな。カーテンも開いてるし」
「ふぁ! や、やめてぇっ!」
「なら暴れるな」
そう言われて、キスをされる。
さっきの舌を絡ませるキス。気づいたらそれにすぐ応えていた。
修は唇を離すと嬉しそうにくしゃっとした笑顔で笑う。それを見て、胸がぎゅうっと掴まれた。
そのまま耳に、首筋に舌を這わせられる。
「んくっ! へ、変になるから、もうやっ……!」
「待ちすぎて……俺もとっくに変になってる。早くここまでくるみも落ちてこい」
修の言葉が耳の奥に反響して泣きそうになった。
そして、いつのまにか私は修の頭にしがみついていた。
目が覚めるとソファの上で、身体にブランケットがかけられていたことに気づく。
(また意識とんじゃったんだ……)
修に触れられると、おかしくなる。ぐるぐると違うところへ連れていかれる。
何度も修の舌や指の感覚を覚えさせられているうちに、ふっと意識が途切れるのだ。
私がむくりと身体を起こすと、室内にいい匂いが充満していることに気づいた。
「いい匂い」
「うまいぞ。食えるか?」
そう言いながら、修がキッチンで料理していて声をかけてくる。
「自分で言う?」
私は苦笑しながら、たべる、と頷いた。
修が作ってくれたのはミートソースのパスタだった。
口に入れてみると、思ってた以上に美味しかった。
「本当においしい!」
「あっちでも時々作ったんだ。簡単だしな」
そう言いながら、修は私が食べるのを見て微笑み、自分も食べ始めた。
「そうなの? ちゃんと毎日ご飯食べてたんだ」
「……まぁ」
修が少し目線を反らせて言う。
私はそれを見て苦笑した。
(うそ、ついてるなぁ……)
「その顔、毎日食べてたんじゃないでしょ。だめだよ、身体壊す。修のご両親も心配するよ」
私が言うと、修はまっすぐ私を見ていた。
その目に見つめられると、ドキリとする。
「早く日本に戻りたい一心だったんだ。やっと……日本でも研究ができるって段階まできて、どれだけ嬉しかったか」
(そんなこと、そんな真剣な顔で言わないでよ……)
私は思わず黙ってパスタをバクバク食べ始めた。
修もそのまま黙って食べ続ける。
食べるたびに、不思議と心臓の音が大きくなってくるのに気づいて、また泣きそうになった。
食べ終わると、私は食器を洗う。すると修も隣に立って一緒に洗い始めた。
私は洗い終わる前、息を吸って口を開く。
「お、お祝い会のことだけど、やっぱり中止にしてもらおうよ」
「なんで?」
「だって、変だよ。あんな嘘でみんなまで巻き込んで」
「嘘じゃない」
修は私の手にある食器を取ると、隣に置いた。
そして私の手を握る。
「くるみは俺以外と結婚できるのか?」
「無理。だけど修とはもっと無理」
私はできる限り冷静に返した。
すると、修は冷たく笑う。
「あんなキスに応えて、身体にも触られてるのに?」
「なっ! あ、あれは……いつも修が勝手に」
「わかるよ。いくら口で拒否したって、いつも背中を必死に掴まれて、気持ち良くなったときも頭撫でられたりするし。身体の関係を持ったって、嫌いな奴にはそういうことしないだろ?」
あの時のことも、さっきのことも思い出して、顔が熱くなる。本当にその通りだ。
でも認めたらもっと本当になりそうで、顔をそらして叫んでいた。
「そ、そんなの! そんなことしてないっ!」
「嘘つき。そんなわかりやすい嘘つくなよ」
私だけが慌ててて、修がやけに冷静なのが悔しい。
いつだってそうだ。
ーーー5年前だって、今だって……。
私は唇をかんで歩き出す。
「もう、私お風呂入って寝る! 修、絶対こっちからこっちに入ってこないで。入ってきたらうちから追い出すから!」
ふいにパシリと掴まれた手首に、身体が震えた。
振り向くと修がこちらを熱っぽい目で見ている。
「俺はいつだってくるみに触れたい。くるみが嬉しいのも、悲しいのも、苦しいのも、気持ちいいのも……与えるのが俺でないと許せない」
修に真摯にそんなことを言われれば、心が動かされそうになる。
修は、私が今、修の方を向いてないからそんなこと言うの?
固まる私を見て、修は困ったように自分の髪をクシャっと掻いた。
「こんなふうに思うなんて、ほんと予想外だったよ」
やっぱり5年前は、そんなこと思ってなかったんだよね……。
でも今は……?
今は、それが本当の気持ちなの?
私は修が嘘をついているようには思えなくて、
だめだって思っているのに、もう1人じゃ降りれないところまで自分の気持ちが登って来ているように感じていた。
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