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16章:夜と朝の合間

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ーーー後ろから回された腕は明らかに男の人のものだった。

「ふぁっ……!」

 まだ朝になりきらない、夜と朝の間。
 私は後ろから修に抱かれて眠っていたことに気づいた。そしてたぶん、今私の背中に当たっているのは、修の裸の胸板だ。

(おい、なんでハダカだっ……!)

「起きた? おはよ」

 修がそう言って、私の首筋に後ろから口づける。

「やっ……」

 やめてって言って振り返りたいけど、後ろで上半身裸なのが分かるから振り返れない。
 なのに修はクスクス笑うと、私のことを自分の方へころりと転がして向かせた。

「な、なに⁉」

 あぁ、今、一瞬下まで見えたけど、修、下は履いている! そこはよかった!
 そう思ってみたけど、向かい合わせに抱きしめられて、修の裸の胸板に私の頬がくっついて、私は慌てた。

(無駄に筋肉質な胸板――――!)

 男の人はどうしてこんなにごつごつしているのだろう、とか考える暇もないほど、私の心臓はバクバクする。
 修は私の髪を撫で、楽しそうに口を開いた。

「昨日、気持ちよすぎて気をやるとは思わなかった」
「ふぁっ!」

 一瞬で昨日のすべてがよみがえる。
 なんなら、私は全裸だということにも今更気づく。

 私は慌ててシーツをすべて手繰り寄せて身体に巻きつけた。

「今、照れるんだ」

(照れない人間なんているかぁああああ!)

 しかし、手繰り寄せたシーツのせいで、修の上半身がそのまま見えるようになってしまう。
 それも見られなくて、目線をそわそわといろいろなほうへ反らせていた。

「っていうか、なんで修まで、シャツ脱いでるのよ⁉」
「え? だって、くるみのでグショグショに……」
「あぁあああああああああああ! もういい! 言わなくていい!」

(だめだ、この男! 絶望的にデリカシーが欠けている!)
 私は、シーツに顔をうずめる。もうこれしかない。何も見たくない、聞きたくない。

「も……だめ。恥ずかしくて死ぬぅ……」

 私がつぶやくと、修がぽつりと、「そのセリフ、まずいな……」と言い出した。

「ふぇ?」

 何がまずいのだ、と思ったところで、修がシーツにくるまった私を抱きしめた。

「かわいい。昨日、最後までできなかったから、最後までしたくなる」
「絶対ダメぇええええええ!」

 しない、絶対しない。
 それは超えてはダメな一線のような気がする。

 気がするんじゃなくて確実だ。


 修は楽しそうに笑うと、少しシーツから出ている私の頭をポンポンと叩く。

「今度はくるみが覚悟できるまで我慢するよ」

 一生我慢しろ、と思ったところで、抱きしめる力が強くなった。

「勝手に抱きしめないでっ」
「うん」

 そう返事したくせに、抱きしめるのをやめてくれない。
 いやだ、もう抱きしめないでほしい。

「今、俺は恥ずかしいくらい必死なんだ。わからないか?」
「わかんない。わかりたくもないっ」

 私が言うと、修は苦笑する。

「強情だなぁ」
「修こそ、性格変わってない?」


「昔から変わってない。まぁ、昔より今の方がもっとくるみのことが好きだな。今度は俺が今のくるみをしっかり落とすよ」

 修は楽しそうに笑う。
 私は唇をむすっと突き出した。

「落とすって……」

 修はまた笑うと私の額に口づける。
 なによ、絶対にもう落とされないんだから。

 私が顔を出して修を睨むと、修は私の頬を撫で、

「身体からと心から、どっちからがいい?」

と微笑んだ。
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