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11章:5年前③
11-2
しおりを挟む修が帰ってきたのは、次の日の朝だったけど、私はそのまま着替えもせず起きていた。
そして帰ってきた修を慌てて出迎える。
「修、おかえり」
修は私を見ると、「寝てなかったのか?」と眉を寄せる。
怒ったような表情に私はたじろいだ。
すると修は続ける。「あのさ……勝手に病院の方に顔出すな。食事もあっちで食べられるから」
「でも……少しでも一緒にいたいし」
「だめだ」
きっぱりと切り捨てるように、修の声が冷たい。
私はなんだか泣きたくなって、唇をかむ。
そして、次の瞬間、もう感情が勝手に口から出ていた。
「なんであの時、彼女って言ってくれなかったの? 私って隠したい存在?」
修は少し驚いた顔で私を見て、それから呆れたように息を吐く。
「……からかわれても困るだろ」
「そんなの別にいいもん! 結婚するのに何が問題よ!」
「誰でも彼でも言えばいいってわけじゃないだろ」
「私は知ってほしいよ! 周りの人、全員に修と結婚するって知ってほしいくらいだよ!」
私は修に抱きつき、修の背中に腕を回す。
消毒液と少し汗の混じった匂い。
修の胸に顔をうずめる。
そしたら泣けてきた。
寝不足だからか頭も回らない。
「修は違うの? 私のこと、隠したいって思ってるの?」
「くるみ、いい加減にしなさい」
修が怒ったように言って、
それがまるで子どもを叱るような口調でカチンとくる。
こんなときに、年齢差を見せつけるようなこと、言わないでよ。
修にとっては結局、私は妹みたいなものなの?
「修が悪いんでしょ! もう知らないっ!」
そのまま修を押して修から離れて、自分の部屋に走り出した。
ーーーこんなふうに喧嘩したいわけじゃないのに……。 そんな私の手を修は掴む。
「くるみ」
その声が怒っているようで、私は顔があげられなくなる。
やっぱり私は子どもみたいだ。だから修は『彼女』とも『婚約者』とも紹介してくれないんだ。
そんな自分が嫌だったけど、修といると自分の感情がコントロールできなくなる。
修のことが好きで、大好きで。
修にも同じように私を好きになってほしいって思ってた。
ーーーそんな自分勝手な私に、修が怒るのも無理もない。
そう思ったとき、修は私を無理やりに振り向かせた。
(怒られるっ……)
ぎゅ、と目を瞑った瞬間。
唇に軽く触れる感触がする。
目を開けると、修は私にキスをしていた。
いつもの、唇を重ねるだけのキス。
唇が離れた時、私は下を向いた。
「そ、そんなんで絆されないんだからっ」
私が言うと、修は困ったように笑う。
「なによ」
私が呟くと、修は、おいで、と手を広げる。
(なによ、なによ、なによ……!)
睨みつけてみても、修はそのまま私を見ている。
私は唇を噛むと、結局、その腕の中に飛び込んでいた。
「私、修と離れたくない。修は私の事、ちゃんと好きだよね?」
修は私の髪を優しく撫でると、ごめん、と呟いた。
(なんで好きって言ってくれないの……?)
これまで『好き』って言われなくても、修が私のことを好きな自信があった。
―――でも、それって実は、私が自分に都合よく解釈していただけなのかな……。
修は私のこと、本当は……。
そんなことを考え出すと、私は修の謝罪の言葉が何に対してのものか、怖くて聞けなくなった。
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