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9章:優しいキス

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 5年前まで、私は修が好きだった。
 大好きだった。

 でも修は私と同じように私のこと好きなわけじゃなかった。

 だから、私は決めたんだ。

 もう修のこと好きでいないって。
 傷ついて、落ち込んで、苦しくて、何度も揺れた。

 やっと落ち着いてきて、私なりに一歩ずつ歩き出した。

 なのになんで今。

―――これからは俺以外、見るな。

 なんて、また人の心を揺らすようなことを言うの?
 室内に舌の交わる水音が響く。
 さっきから、何度も何度もキスされて、口の中も全部食べられてるみたい……。

 頭がぼうっとなって、目が眩む。

「苦しいっ……も、だめ……」

 私が小さく息を漏らすと、修はそのまま唇を首筋に落として言った。

「んっ! ま、待って……!」
「もう待てるわけないだろ。男と二人で部屋にいるの見て、最高に嫉妬したし」

 そう言って、トップスに手が入ってくる。
 思った以上に熱い手のひらに驚いていると、そのまま、指が素肌を探る。

「し、嫉妬って……ひゃあっ……!」

 修を押してみるけど、修は全然やめてくれない。
 それどころか、そうすればするほど、手の動きは大胆になった。


「ふぁっ……あっ……!」
「ん、いい反応だ。いい子だな」
「や、やめ……!」

「で、どこ触られた?」

 修が低い声でそう聞いてきて、私の身体はどきりと跳ねる。

「触られたって……」
「腕だよな」

 手はそのまま動かしながら、唇が腕に向かう。
 そのまま腕に口づけられ、その感触にいちいち身体が跳ねる。顔をぶんぶんと横に振っても、修は全然やめてくれなくて、何度も何度も私の腕に口づけた。

「んっ……も、もういいでしょっ……!」
「ここは?」

 そのまま足に口づけられる。足首からふくらはぎと順にキスをされて、頭がおかしくなりそうだった。

「そんなとこ、触られてない! 修じゃないんだからっ……」
「そうだ。俺以外にこんなことさせられないだろ」

 修はそう言うと、そのまま太ももに口づける。

「ひゃんっ! こ、こんなの、修にも無理だよ! や、やっぱり、へ、変だよっ……こんなのっ、んんっ!」

 太ももに口づけられるたびに胸が苦しくなって、唇をいつの間にか噛み締めていた。

「唇噛むな。血がにじんでる」

 修はそう言ってやっとそれをやめてくれると、私の顔を正面から捉えて、唇にそっと指を這わせる。
 それから、自嘲気味に笑って、口を開いた。

「俺はあの時も、今でも……ずっと。この唇に口づけて、この肌に触れて、それからその瞳に自分しか映らないように、くるみを毎日食いつくしたいって思ってんだよ」

 その言葉に背中からゾクリと冷える。
 右手首が掴まれて、勝手に身体は震えた。

「や……!」

 でも次の瞬間、修は震える私の頬を優しく撫でると、

「くるみ。最後までしないから、少しお前を食わせろ」

「あ、ちょ、ま、待って!」
「待たないって言っただろ」

 そう言って男の人の顔で笑った修は、そのまま唇を合わせてくる。

「んっ……」

 だけど、それは予想外に優しい……あの日のようなキスで……。

 それからオンコールが鳴った1時間後まで、修は何度も何度も優しいキスを私に降らせた。
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