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1章:再会の日
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しおりを挟む―――あなたには一生会いたくなかった人はいますか?
私には、います。
ーーーその日は私の25回目の誕生日。
駅前で誕生日のホールケーキを買って帰ったら、秘蔵のワインを飲みながらケーキを食べ、最近ネットレンタルを開始した恋愛映画を見るという本日の夜の予定を反芻して、私はニンマリ笑った。
あれは映画館でも見たけど名作だった。
特に最後の噴水の前のキスシーン。ベタだと批判も多かったけど、ベタの何が悪い、と私は思う。
王子様が目の前に現れて、抱きしめてキスをされる……。そしてそこでハッピーエンド。
女子なら一度や二度は夢見ることだろう。
ちなみに、その先は不必要だ。
『王子様とお姫様は幸せに暮らしました』……それでいい。毎日手を繋いで、時々キスして、絶対にそれだけでいいのだ。
(まぁ、何はともかく映画、ケーキ、ワイン!)
スキップしそうな勢いで歩いていたけど、大学前の信号が赤信号で立ち止まる。
そしてふと顔を上げると、信号のあちら側にいるはずのない人物がいた。
夢かと思ってゴシゴシ目をこすっても、やっぱりそこに『あの男』がいるではないか!
目が合った瞬間、男は微笑み、私はそれを見て青ざめる。
信号が変わるまでのランプが少しずつ減っていく。私の心臓はそのたびにバクバク音を大きく立てた。
とにかくどうしていいのかわからずにダッシュで大学に戻った。
そして研究室まで戻ると、先ほど閉めたばかりの研究室の鍵を開け、部屋に入り鍵を中から閉めると、部屋の奥の奥、机の横で寒くもないのに身体をぶるぶると震わせて小さくなった。
暗いからか、研究室内のラットが起きていて、カサコソと音を立てる。
普段はかわいいと思うのだが、今日に限ってはその音がさらに恐怖を助長させた。
家に帰って大恋愛映画にむせび泣く誕生日のはずが、いつの間にかホラー映画に早変わりだ。
ジェイソンかゾンビか……それらから逃げ惑う人々の気持ちが分かってしまって、泣きそうになる。
(っていうかなんであの人がここに? どうして……?)
いや、そもそも5年ぶりだ。見間違いかもしれない。
笑って見えたのも、見間違いだ。
きっと私の後ろに知り合いでもいたのだろう。よくある話だ、よくある勘違いの話……。
数十分後、何度もそう思って落ち着いてきたところで息を吐き、そっと研究室の扉を開ける。
右、左、上、下。よし。いない。
(さっきの恐怖で漏らしそうだから、お手洗いによって帰ろう)
そう思って研究室の扉の鍵を閉めた時……。
後ろから、ダンっ! と私の顔の横に手を置かれる。
「ひっ!」
絶対漏らした! と思ったけど、私の膀胱はなんとか大人の威厳を保っていたようで、耐えている。しかし、振り返ったら、確実に漏らすような気がするので、私は振り返れずにただそこで固まるしかなかった。
「くるみ?」
「ひゃ、い!」
変な声が出た。ついでに漏れそうだった。
だって、だって……やっぱりあの人の声だもん。
―――それは、何年たっても分かる声だった……。
「ここが、くるみがバイトしてる研究室? ふうん。『鈴鹿研究室』ね、鈴鹿って鈴鹿紫教授かな?」
「さ、さぁ? なんのことだかさっぱり。……人違いじゃないですか? 私はくるみなんて変な名前じゃナイノデス」
私が言うと、相手はクスリと声を漏らした。
その声に寒くもないのに身体がブルブル震える。
「俺が誰だかわかるよな?」
「だから人違いじゃ……? オレオレ詐欺は今どき流行りませんよ」
「こういうとき、ぶるぶる震えて怯えちゃって変わらないな。そこがまたイジメがいがあるんだよ」
そう言って、後ろから首筋を撫でられる。
それでまた身体が震える。あぁもうだめだ! 色々とだめだ!
「ひっ! や、やめ……」
「あぁ、変わらないなぁ。……あれから誰かと付き合った?」
「できるはずない……! あんなことするなんて私には無理だもん!」
思わず振り返る。
すると、やっぱりあの人の、修の姿がそこにある。
私はどういう気持ちなのか泣きそうになって、この人の前で泣くのは嫌だと顔をしかめて耐えた。
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