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10章:変化

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 悩んだ末、結局、春野さんとのことも心配になってしまって、その日、私はそのカードキーを一人で初めて使ってしまった。
 先輩の家は広いから、一人でいるとなんだか心細い。

 そして、待っていても先輩は帰ってこず、時計を見ると21時を回っていた。

「遅い……」

 このまま待っていていいのだろうか。まさか、今日の今日で来るとは先輩も思ってないのかも。しかも21時も過ぎてまだいるってどうなんだろう。私って重い女だろうか。

 って言うか先輩も先輩でなんでこんなに遅いのよ! もしかして、春野さんと何かあったのだろうか……。何かあったとしたら……どうしたらいいんだろう。

 色々考えて、私は立ち上がると、
「もう帰ろう。お父さんも心配するし」
と独り言を言う。もし何かあったとしてそれを聞かされるのもたまったものではない。

 今日は父は夜に帰ってくる日だし、とにかく父を自分の中の帰る言い訳にして、家に帰ることに決めた。



 次の日の朝、目が覚めると、先輩が目の前にいた。一瞬夢かと思ったけど、ご本人らしい。

「昨日どうして来てくれなかったの」
「どうしてって」

 本当は行った。でもそう言えなかった。そして唇を噛んで続ける。

「別に行くとは誰も言ってませんけど」
「まぁ確かにそれはそうだけど」

 そう言った先輩の顔をじっと見る。

 昨日、春野さんと何かあっただろうか? まさか、と思うものの、なんだか気になっている自分も恥ずかしくて嫌だった。




「みゆ? どうしたの?」
「ごめんなさい、今日仕事はやいんだった。もう行かなきゃ。着替えるから出て行ってください」

 そう言って先輩を部屋から押し出す。
 準備をして部屋から出ると、先輩はまだそこにいた。

「送る」
「いらないです」
「でも……」

「いらない!」

 思わず恥ずかしいくらい叫んでいた。
 なにこれ。自分で気持ちのコントロールが効かない。訳が分からない。泣きそうになった。

 その時、先輩が私の手を掴む。
 そして父に、すみません行ってきます、と言うと、自分の車の助手席のドアを開けて、私を押し込むようにそこに乗せた。

 そして、有無を言わさない声で、
「ほら、シートベルトもして」
「ちょ、なんなんですか! いつもひくくせに!」
 
 そう、いつも私が嫌って言ったとき、先輩は引いてくれていた。
 こういう場面で強引にこんなことされたことない。だから私は完全に戸惑っていた。



 静かに車を発進させた先輩と私の会話は、なかった。
 二人とも黙りこくる。


 会社が近づいてきた道沿いで、

「俺はね、もうみゆとのタイミングは間違いたくないんだ」

と先輩ははっきりと言った。
 でも、私はどんどん近づいてくる会社を前に焦っていた。これ以上近づいたら、会社の人に見られるかもしれない。

「もうこのあたりで下ろしてください!」

 叫んだ私の声に、車は道端で止まった。私は心底ほっとした。
 ちょっと人通りの多い道だが仕方ない。出ようとすると、車は鍵が開かず、出られなくなっていた。




 文句を言おうと先輩を見ると、先輩は私の耳元に唇をよせて、

「言ったよね。俺は、みゆのことは絶対に離さない。それでも、もし、みゆが俺から離れようとするなら、みゆの意見なんて全部無視して、結婚も、子どもも、こっちのペースで無理やり進めるよ」

とはっきりと低い声で告げた。どきりと心臓の音が鳴る。

(先輩、なんか怒ってる……?)


「何言って……」
「自分でも分かってる。みゆのことになると、俺はまた周りとか、そういうの全部どうでもよくなっちゃうんだよ」

 その声に泣きそうになった。そんなこと言われても困る。
 固まっていると、先輩はそのまま私を抱きしめる。そして耳元で笑った。



「ここでこんなことしたら、みんなに見えるかもね」
「離してください! それ、困りますから!」
「うん。みゆは困るだろうね」

 そして、

「こんな独占欲しかない男で、ごめん」

とつぶやくと、人通りの多い朝の通勤路の横の車内で、私の唇を無理やりに奪った。そして、唇をこじ開けると、口内に舌を這わせる。

「んんっ……!」

 思わず先輩の身体を押す。でも全然先輩は離してくれることはなかった。
 朝に、さらに人通りの多い道の近くでそんなことされたこともなくて、慌てて泣いて暴れた私の腕を、先輩は無理やり掴んで押さえつけると、また何度も無理矢理に濃厚なキスを交わした。


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