上 下
13 / 57
4章:あの事件ととんでもない告白

4-5

しおりを挟む


「……はい?」


「まぁ、つまり不能」
「ふ、ふのう……」

 私は繰り返す。すると先輩は楽しそうに頷いた。
 不能ってあれですよね。あれがアレできないあれですよね……。

 あれって言いすぎて私もよくわかっていないけど……。
 完全に戸惑う私に、先輩は続ける。


「で、うちはね……。まぁ、ちょっと色々あって、俺には子どもが必要でさ。あ、もちろん今すぐじゃないよ? 将来的に、って話」
「……子ども」

 自然にごくりと唾をのむ。



「なのに俺はまったく女性に反応しなくなった。心理カウンセリングとか病院とか、怪しげなおまじないとか、催眠とかね。とにかくこの12年間、ありとあらゆるものを試したわけ。でもだめだった」
「そ、そうなのですか……」

 私が言うと、場がしーんと静まる。
 やっぱそれって私の『飛び蹴り』が原因ってことだよね……。

 女の子、しかも後輩に飛び蹴りされて入院したことが、先輩の心の傷として残り、だから、あれがアレできないのだろうか……? ってそもそも、私にもそのあたりはよくわからないけど……。



「でもね、あの日、ホウオウビルで、みゆに会って」
 先輩は私の目を捉える。「みゆにすごく欲情した自分に気づいた」

 そんなことをはっきり言われて、私は戸惑うしかない。
 そもそも今、私は、一体何の告白を聞いているのだろうか? 不思議で仕方ない。


「……え、ええっと……」

 でもつまりは、私に反応したってこと?
 アレできない、あれが。



「それでも、やっぱり、みゆ以外の女性には反応しないんだよ。みゆの匂いとか、声とか、その中でも、特に涙目で睨んでくる目とか……反応すごくてさ」

 そんなこと真顔で言わないでよぅ!
 しかも内容は残念でも、顔面はイケメンだ……! 超絶イケメンだ……!


「私と会ってから他の女性は……⁉」
「一度、高級クラブの女性に接近してもらったのだけど」
「で……?」
「だめだった」

 先輩はあっさり言う。

「……お、おう……」

 私は戸惑いながら頷く。なんだか頭痛くなってきた……。


「でも、夜に家で、みゆのあの目を想像してたら……」
「ちょ、もう、もう、やめてください……! わかりましたから!」

 私は慌てて話をうち切った。どうしていいかわからないけど、とんでもない話なのは間違いない。



「とにかく俺はみゆにしか反応しない身体になったんだ」
「なんですか、その話。ファンタジーですか……」

 私は思わずツッコむ。いや、ほんと、そんなことある?
 ファンタジーとしか言いようがない。

 でも、もし本当だったら……それは大変なことかもしれない。
 だってさっき、『子どもが必要だ』って言ってたから……。ってそれも理由はよくわからないけど。



 私が足を引くと、先輩は笑って私の髪を撫でる。

「でも、みゆもまだ俺のこと、好きだよね?」
「ひっ……」
 私はぶんぶんと首を横に振った。「き、嫌いですって! 金曜も言いましたよね⁉」

「本当は最後まで試したいんだけど」
「絶対いやです!」

 泣きそうに、いや、泣きながら叫ぶ。


(なんでそんなお試しで、先輩に私のハジメテを捧げなきゃなんないのよーーー!)


 先輩は不思議そうに首をかしげると、

「でもそもそもこの現象の原因って、『みゆの飛び蹴り』だよね?」
「関係あります? ほんとに? ほんとに飛び蹴り関係あります⁉」
「そうに決まってるでしょう」

 先輩はやけにきっぱりと言った。なぜ急に強気になるんだ。
 そう思った瞬間、腕を引かれて、先輩の胸の中に押し込められる。

 こんな変な話、誰が信じるのだろう。
 でも、先輩が嘘を言っているようにも見えなくて……私はその場に固まっていた。



「だから、みゆ。諦めて俺と結婚してくれない?」


(のぉぉおおおおおおおーーーーーーーー‼)

 その時、その場で大声で叫ばなかったことだけは、その日の自分をほめてやりたいと今でも思ってる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋人契約

詩織
恋愛
美鈴には大きな秘密がある。 その秘密を隠し、叶えなかった夢を実現しようとする

幸福を運ぶ女

詩織
恋愛
誰とも付き合いたくない。それは、ある噂が出てしまったことで…

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

処理中です...