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第一部 土筆とスタンビート編

第十八話 依頼達成の報告と従魔登録

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 土筆《つくし》がゴトッフ一行と共に山小屋に帰還すると、メルが山小屋の敷地内で新しく狩ってきた獲物の血抜き作業を終えた後だった。

「あっ、お帰りー」

 メルは土筆《つくし》に気付くと大きく手を振って出迎える。
 土筆《つくし》はメルに返事をすると、風妖精シフィーの力を借りて周囲に魔物の気配がない事を確認し、魔物除けの魔法結界で敷地内に入る事ができないモーリス達を結界の効果が及ばない敷地前の開けた場所で待機するように伝える。

「了解した。何、心配など要らぬ。この辺りの魔物であれば敵ではない」

 温厚な草食魔獣として知られるゴトッフではあるが、冒険者ギルドが策定している魔物ランクでは、この付近に出没する魔物よりも上位に分類されている。
 現に、崖に自生する薬草の採取依頼でゴトッフの機嫌を損ねて命を落とす冒険者も存在し、狼のように群れで襲い掛かる魔獣や熊のような大型の肉食魔獣が現れる地域でもなければ心配など無用だろう。

「ありがとう。荷物を持ってくるから適当に休んでいて欲しい」

 土筆《つくし》がモーリスの背中を数回撫でて山小屋に入って行くのを見送ったゴトッフ達は、モーリスの周りに集まり身を寄せるようにして座り込むのだった……


 土筆《つくし》とメルが山小屋の後片付けを終わらせて戻ると、土筆《つくし》の気配に気付いたモーリスが鳴き声を上げ立ち上がる。
 土筆《つくし》はメルにモーリスを紹介すると、メルは気持ち良さそうにモーリスに抱き付いてモフモフと満喫するのだった。

「大丈夫? 重くない?」

 モールスの背中に取り付けた荷鞍《にぐら》にメルが狩ってきた獲物が入った袋を縛り付けると、結構な重さになった。

「問題ない」

 モーリスは土筆《つくし》の心配を否定しゆっくりと立ち上がると、背中を揺らして荷が落ちないか確認する。

「モーリスちゃん、力持ちだね」

 モーリスの雄姿に感動したメルは嬉しそう拍手をすると、本日二度目のモフモフタイムに突入するのだった……


「じゃあ、夜ご飯の肉狩ってくるねっ」

 メルは土筆《つくし》の予定を確認すると、行きと同じように茂みの中に消えて行く。

「主よ、掴み所のない子だな」

 メルに散々モフられたモーリスは、やっとこさ解放されて安堵したのか、ため息交じりに言葉を漏らす。

「そうだね……俺達も出発しようか?」

 土筆《つくし》はやんわりと肯定すると、メゾリカの街へ向かって山道を下り始めるのだった……


 総勢十七頭のゴトッフを引き連れていることもあり、街道ですれ違う人達の視線を少々感じたものの、特にトラブルもなくメゾリカの街の東門に到着した。

 冒険者ギルドで従魔登録を行っていない場合、それぞれの門に併設されている詰所で手続きを行う必要がある。
 手続きの内容は、速やかに冒険者ギルドで従魔登録を行うことを約束する旨の誓約書への署名と、仮の従魔証明書発行の手数料だ。
 土筆《つくし》はゴトッフ十七頭分の手続きを行い、誓約書に従って所属する冒険者ギルドを目指す。

 メゾリカの街にある冒険者ギルド・メゾリカ支店横には別館があり、持ち込まれた魔物などから素材を取り出したり、依頼を受けて食肉加工をしたりする解体を行う商会が複数営業している。
 その別館の奥にある空き地には従魔を預かってくれる施設が用意されており、土筆《つくし》は引き連れたゴトッフ達をそこに預けて、請け負った依頼の達成報告とメルの狩った獣の売却、更に従魔登録を行うため、冒険者ギルドの受付カウンターに向かうのだった……

「あっ、土筆《つくし》さんこんにちは」

 依頼書の受付業務を担当している冒険者ギルド職員のリエーザが土筆《つくし》に気付いて挨拶をする。

「リエーザさん、こんにちは。請け負った依頼の達成報告に来ました」

 土筆《つくし》はそう告げると、鞄の中から魔法石の入った袋と報告用の羊皮紙を取り出し受付カウンターの上に並べるのだった。

「お疲れ様です。それでは確認しますので、少々お待ちください」

 リエーザはカウンターの引き出しから依頼書を取り出すと、土筆《つくし》が置いた袋の中から魔法石を取り出して識別番号のチェックを行う。

「はい、確かに。報告書の方も問題ありません」

 リエーザは提出された物を手に取ってカウンター奥に消えると、報酬を乗せたトレーを持って戻って来る。

「お疲れさまでした。こちらが今回の依頼報酬になります」

 土筆《つくし》は報酬を受け取ると、メルが狩った獲物の引き取りをお願いする。

「はい、では売却を希望される獣をお願いします」

 土筆《つくし》が売却希望の獣を従魔と共に預かり所に置いてあることを説明すると、リエーザは職員を向かわせるよう手配し、従魔登録するための預かり証と仮の従魔証明書の提出を土筆《つくし》に求めた。

「はい、確かにお預かりします。預かり所に出向く職員に従魔登録も行うよう伝えておきますね」

 リエーザの配慮でスムーズに用事を済まる事ができた土筆《つくし》は感謝の気持ちを伝えると、メルの狩った獣の売却と従魔登録を行うため、ゴトッフ達が待つ従魔預かり所へ戻るのだった……
 
 土筆《つくし》が従魔の預かり所へ戻ると、既にリエーザが手配した職員が預かり所の前で待っていた。

「初めまして土筆《つくし》さん。食材の買い取りと従魔登録を承ったオットンと申します」

 ギルド職員と言うよりは魚市場で魚を捌いていそうな風貌をした男性は、簡単な自己紹介を済ませると握手を求めて手を差し出す。
 土筆《つくし》はオットンと握手を交わすと、世間話をしながらゴトッフ達が待っている預かり所のブースに案内するのだった。

「……これはまた立派なゴトッフですね」

 案内されたブースに入ったオットンは、モーリスの姿を見て思わず言葉を漏らす。

「恥ずかしながら、このサイズのゴトッフは初めて見ました」

 門衛も驚いていたが、モーリスは通常の雄ゴトッフよりも更に一回り大きいらしく、通常のゴトッフはハーレムの規模も十頭に満たないらしい。 

「いやぁ、メルさんのパートナーだけあって実力も相当なものなんですね」

 オットンはモーリスを見て気持ちが高ぶっているのかよく喋る。

「メルの事知ってるんですか?」

 唐突に出て来たメルと言う単語に土筆《つくし》が反応する。

「はい。メルさんが処理したお肉が美味しいと評判で……」

 オットンが言うには、メルが狩って血抜きした獣肉が解体屋の間で美味しいと評判になってるらしい。

「昨日もウッガーを大量に持ち込んで頂いたものですから、別館は大賑わいでしたよ」

 確かに、メルが狩ってきた肉は市場で購入する肉より美味しいと感じていたものの、まさかプロの間でも通用するとは思っていなかった土筆《つくし》は、オットンの言葉に驚きを隠せなかった。

「おっといけない、仕事しないとですね」

 オットンはそう自分を律すると、荷鞍《にぐら》に縛り付けられている獣が入った袋を開けて中身を確認する。

「これはまた見事な……」

 どうやら、メルの仕事は今回も素晴らしかったらしい。オットンは袋から一つ一つ獣を取り出すと、搬送用に用意した荷台に丁寧に積んでいく。

「これで全部ですね」

 オットンはそう言うと、荷台に積まれた獣を種類ごとに数えてメモを取る。
 全ての獣を数え終わると、土筆《つくし》にメモを見せながら、荷台に積まれた獣とメモに相違がないかの確認を行うのだった。

「それでは、獣の買い取り代金から従魔登録費用を引いて……っと、こちらで間違いないかご確認ください」

 土筆《つくし》はオットンの示した数字に誤りがない事を確認すると、署名欄にサインをする。

「ありがとうございます。では、先に従魔登録を行わせてもらいますね」

 オットンは加工された魔石を手に持ちスキルを発動させ、魔石に土筆とゴトッフの情報を書き込んでいく。

「できました。後はこの魔石を首に掛ければ完了となります」

 オットンはその後も一頭一頭名前を確認しながら魔石に情報を書き込んでいき、最後の方はさすがに疲れ切った表情を見せ口数も少なくなる。

「これで十七頭、全て終わりです」

 オットンは最後のゴトッフの従魔登録を終えると、ハンカチで吹き出る汗を拭いながら達成感に浸る。

「では、差額の代金と従魔登録登録証をお持ちしますので少々お待ちください」

 土筆《つくし》は受け取った魔石に紐を通してペンダントにすると、それぞれのゴトッフの首に掛けていく。

 土筆《つくし》は戻ったオットンから差額の代金を受け取ると、モーリス達と共に宿舎に向けて冒険者ギルドを後にするのだった……
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