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エピソード1 ルイカと薬草取りの少女
第二話 ルイカと薬草取りの少女②
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降り続いた小雨も夜半過ぎには上がり、地平線から日が顔を出し始める頃には水の妖精達が緑の葉の上でワルツを踊り始める。
やがて踊ることに飽きた気まぐれな妖精達が緑の舞台から滑り降りると、吸い込まれるように大地に戻っていく。
モップは昨日助けた女の子が目を覚ましたことに気付くと、ふわふわの尻尾を使ってルイカを起こし、自身はルイカの右腕に巻き付いてガーネットがちりばめられたブレスレットに姿を変える。
「はっ、はっ、はっくしゅんっ」
ルイカはくしゃみをした反動で後頭部を馬車の壁にぶつけると、その衝撃で目を覚ます。
「痛たたた……」
馬車の室内に響く鈍い音を聞けばどのくらい痛かったか想像に難くないが、見知らぬ馬車の中で目覚めた女の子が驚いて跳ね起きるには十分の効果である。
「あっ、おはよう。体は大丈夫?」
ルイカはモップの仕業だと気付いているのだが、知らない人の前で霊獣であるカーバンクルの存在を明かすことはできない。
「あははははは……凄い音だったから普通に驚いたよね?」
ルイカは黙ったまま固まっている女の子に一方的に話し掛けながら、昨日馬車に運び込まれるまでの経緯を説明するのだった……
女の子は何故自分が馬車の中で眠っていたのかを理解すると、次第に打ち解けていく。
ルイカは世間話を織り交ぜながら女の子についての情報を集めると、お腹の虫が鳴きだしたのを合図に朝ご飯を一緒に食べようと誘うのだった。
「いいのいいのっ。私が食べたいんだから、一人より二人。美味しい物には巻かれろってヤツよ」
ルイカは遠慮する女の子をマシンガントークと意味不明な言葉で説き伏せると、馬車の中に備蓄してあった取って置きの携帯食をご馳走する。
「さあ、食べよ。これとっても美味しいんだから」
ルイカお勧めの携帯食は蜂蜜と干し果物をふんだんに使用したクッキーで、保存食の宿命である口の中の水分を一気に持っていかれる現象さえ対処できれば、至高の美味しさを味わうことがきるのである。
「こうやって……口に入れる前にこれを付けるの」
ルイカは女の子に美味しく食べるための手本を見せると、グルメリポーター顔負けの表情で微笑む。
目の前で見ていた女の子もルイカの真似をしてクッキーを口に入れると、負けず劣らずの表情を見せるのだった。
食事が終わり、ルイカの水魔法で手を洗った女の子は「ご馳走さま」と礼儀正しく挨拶をすると、思い出したように声を上げる。
「あっ、いけない。薬草を持っていかないと……」
女の子、ミミスは冒険者ギルドから薬草採取の依頼を受けてこの森に入り、運悪く狼と遭遇してしまったのである。
「ギルドの依頼も大切だけど、お母さん心配してるんじゃない?」
小さな子供が一晩帰ってこなければ、普通じゃなくても大騒ぎになっているはずだ。
「それは大丈夫だと思う。お母さんベッドで寝たっきりだから……」
ミミスはそう言うと顔を曇らせるのだった。
ルイカは先ほどの会話の中で母親が病気だとは聞いていたのだが、寝たきりとなると重い病に伏せているのかも知れない。
「分かった。今から薬草を採取して、急いでお母さんの顔を見に行こう」
ルイカはそう言うと身支度を整え、ミミスの薬草採取を手伝うことにしたのだった……
ミミスが採取していた薬草は一般的な傷薬の材料になる薬草で、そこら辺に生えているような草ではないのだが、群生地の場所さえ知っていれば安易に数量を確保することができる。
「これだけあれば大丈夫じゃない?」
採取した薬草を束にして丁寧にまとめ、冒険者ギルドから依頼されていた分量を確実に上回っていることを確認して収納袋に入れる。
「あっ、はい。ありがとうございます」
余りにも手際よく薬草を採取するルイカを見てミミスが呆気に取られていると、いつの間にか薬草採取は終わっているのだった。
「じゃあ、次は馬車に戻って村まで移動だね」
ルイカはそう言うと足取り軽やかに馬車に向かって歩き出す。
ミミスは今まで出会ったことのないタイプのルイカを不思議に思うと同時に戸惑いの感情を抱くものの、何故か心は惹きつけられて離れられないのだった……
馬車に戻ったルイカはミミスを御者台に誘うと薬草の入った袋を手渡し、自身は手綱を握って御者となり馬車を発進させる。
途中、魔物との遭遇やトラブルの発生も起きず、ミミスの案内で森を抜けると前方に村が見えてくる。
「あれが私の住んでいるアッカの村です」
ミミスの表情からは特に村に対する嫌悪感は感じられない。
「余所者が村に入るのは大丈夫なの?」
ルイカはミミスから村と聞いていたので集落のような物をイメージしていたのだが、目の前に現れた村は木材の外壁で囲まれたちょっとした街の規模を誇っていた。
「多分大丈夫だと思います。入り口に自警団の人が居ますけど、今まで通行する人を調べているのを見た事ないですから」
ミミスが言う通り村の入り口で門衛に声を掛けられはしたが、特に検問されるようなことは無かった。
それどころか自警団の門衛はミミスと懇意の間柄だったらしく、会話が終わるまでルイカが待たされる始末である。
「ルイカさん、あの建物が冒険者ギルドです」
アッカの村に入り、入り口から続く通りを進んだ先に石材で造られた大きな建物をミミスが指差す。
ルイカが冒険者ギルド前に馬車を止めると、薬草の入った袋を抱き抱えたミミスは御者台から飛び降りて冒険者ギルドの中へ消えて行く。
ルイカは冒険者ギルド隣に用意されている馬車用の駐車スペースに馬車を移動すると、ミミスの様子を見に冒険者ギルドへ入っていくのだった。
冒険者ギルド内はどこの支部も同じような間取りになっていて、冒険者がギルド内で迷うことは殆どない。
ルイカも歴とした元冒険者だ。ミミスが向かったであろう依頼報告のカウンターの場所が何処なのか尋ねる必要もない。
「あっ、ルイカさん」
無事に薬草採取の依頼報告を終わらせたミミスがルイカに気付いて駆け寄って来る。
「無事に終わった?」
ルイカが声を掛けると、ミミスは受け取った報酬が入った小袋を手に白い歯を見せながら大きく頷くのだった。
「ちょっと素材を買いたいけどいいかな?」
冒険者ギルド内には冒険者が必要とする武器防具の他に、冒険に必須の道具や冒険者がギルドに売却した素材などを販売するスペースがある。
「はい。では、私はあっちで座って待ってます」
ルイカは休憩スペースに向かって歩いて行くミミスを見送ると、自身は素材を販売しているスペースに移動する。
「多分これで足りるかな?」
ルイカは必要になりそうな薬の素材を適当に購入すると、隣の防具屋で狼の皮で作られた胸当てを購入する。
「ミミスちゃん、お待たせ。もうちょっと待っててもらっていいかな?」
ルイカはミミスが心配しないように一声掛けると、そのままトイレの方へ歩いて行く。
「モップ、お願い」
ルイカはトイレの個室に入ると、腕につけているガーネットのブレスレットに声を掛ける。
「干渉しないんじゃなかったのかい?」
モップはルイカの肩に乗ると、昨日回収した狼の魔石三個を空中に浮かべる。
「魔石が三つだから付与できるのは三種類だからね」
モップはそう告げると付与魔法を発現させ、先ほど購入した狼の皮で作られた胸当てに自然復元と材質強化、更に状態回復の効果を付与する。
「ツンデレっぽいモップちゃんも可愛いなー」
ルイカはそう言いながらモップを抱き締めると、全身を揉みくちゃにする。
「ルイカっ、だから止めろって」
自慢の毛並みをくしゃくしゃにされて悲鳴を上げるモップであった……
やがて踊ることに飽きた気まぐれな妖精達が緑の舞台から滑り降りると、吸い込まれるように大地に戻っていく。
モップは昨日助けた女の子が目を覚ましたことに気付くと、ふわふわの尻尾を使ってルイカを起こし、自身はルイカの右腕に巻き付いてガーネットがちりばめられたブレスレットに姿を変える。
「はっ、はっ、はっくしゅんっ」
ルイカはくしゃみをした反動で後頭部を馬車の壁にぶつけると、その衝撃で目を覚ます。
「痛たたた……」
馬車の室内に響く鈍い音を聞けばどのくらい痛かったか想像に難くないが、見知らぬ馬車の中で目覚めた女の子が驚いて跳ね起きるには十分の効果である。
「あっ、おはよう。体は大丈夫?」
ルイカはモップの仕業だと気付いているのだが、知らない人の前で霊獣であるカーバンクルの存在を明かすことはできない。
「あははははは……凄い音だったから普通に驚いたよね?」
ルイカは黙ったまま固まっている女の子に一方的に話し掛けながら、昨日馬車に運び込まれるまでの経緯を説明するのだった……
女の子は何故自分が馬車の中で眠っていたのかを理解すると、次第に打ち解けていく。
ルイカは世間話を織り交ぜながら女の子についての情報を集めると、お腹の虫が鳴きだしたのを合図に朝ご飯を一緒に食べようと誘うのだった。
「いいのいいのっ。私が食べたいんだから、一人より二人。美味しい物には巻かれろってヤツよ」
ルイカは遠慮する女の子をマシンガントークと意味不明な言葉で説き伏せると、馬車の中に備蓄してあった取って置きの携帯食をご馳走する。
「さあ、食べよ。これとっても美味しいんだから」
ルイカお勧めの携帯食は蜂蜜と干し果物をふんだんに使用したクッキーで、保存食の宿命である口の中の水分を一気に持っていかれる現象さえ対処できれば、至高の美味しさを味わうことがきるのである。
「こうやって……口に入れる前にこれを付けるの」
ルイカは女の子に美味しく食べるための手本を見せると、グルメリポーター顔負けの表情で微笑む。
目の前で見ていた女の子もルイカの真似をしてクッキーを口に入れると、負けず劣らずの表情を見せるのだった。
食事が終わり、ルイカの水魔法で手を洗った女の子は「ご馳走さま」と礼儀正しく挨拶をすると、思い出したように声を上げる。
「あっ、いけない。薬草を持っていかないと……」
女の子、ミミスは冒険者ギルドから薬草採取の依頼を受けてこの森に入り、運悪く狼と遭遇してしまったのである。
「ギルドの依頼も大切だけど、お母さん心配してるんじゃない?」
小さな子供が一晩帰ってこなければ、普通じゃなくても大騒ぎになっているはずだ。
「それは大丈夫だと思う。お母さんベッドで寝たっきりだから……」
ミミスはそう言うと顔を曇らせるのだった。
ルイカは先ほどの会話の中で母親が病気だとは聞いていたのだが、寝たきりとなると重い病に伏せているのかも知れない。
「分かった。今から薬草を採取して、急いでお母さんの顔を見に行こう」
ルイカはそう言うと身支度を整え、ミミスの薬草採取を手伝うことにしたのだった……
ミミスが採取していた薬草は一般的な傷薬の材料になる薬草で、そこら辺に生えているような草ではないのだが、群生地の場所さえ知っていれば安易に数量を確保することができる。
「これだけあれば大丈夫じゃない?」
採取した薬草を束にして丁寧にまとめ、冒険者ギルドから依頼されていた分量を確実に上回っていることを確認して収納袋に入れる。
「あっ、はい。ありがとうございます」
余りにも手際よく薬草を採取するルイカを見てミミスが呆気に取られていると、いつの間にか薬草採取は終わっているのだった。
「じゃあ、次は馬車に戻って村まで移動だね」
ルイカはそう言うと足取り軽やかに馬車に向かって歩き出す。
ミミスは今まで出会ったことのないタイプのルイカを不思議に思うと同時に戸惑いの感情を抱くものの、何故か心は惹きつけられて離れられないのだった……
馬車に戻ったルイカはミミスを御者台に誘うと薬草の入った袋を手渡し、自身は手綱を握って御者となり馬車を発進させる。
途中、魔物との遭遇やトラブルの発生も起きず、ミミスの案内で森を抜けると前方に村が見えてくる。
「あれが私の住んでいるアッカの村です」
ミミスの表情からは特に村に対する嫌悪感は感じられない。
「余所者が村に入るのは大丈夫なの?」
ルイカはミミスから村と聞いていたので集落のような物をイメージしていたのだが、目の前に現れた村は木材の外壁で囲まれたちょっとした街の規模を誇っていた。
「多分大丈夫だと思います。入り口に自警団の人が居ますけど、今まで通行する人を調べているのを見た事ないですから」
ミミスが言う通り村の入り口で門衛に声を掛けられはしたが、特に検問されるようなことは無かった。
それどころか自警団の門衛はミミスと懇意の間柄だったらしく、会話が終わるまでルイカが待たされる始末である。
「ルイカさん、あの建物が冒険者ギルドです」
アッカの村に入り、入り口から続く通りを進んだ先に石材で造られた大きな建物をミミスが指差す。
ルイカが冒険者ギルド前に馬車を止めると、薬草の入った袋を抱き抱えたミミスは御者台から飛び降りて冒険者ギルドの中へ消えて行く。
ルイカは冒険者ギルド隣に用意されている馬車用の駐車スペースに馬車を移動すると、ミミスの様子を見に冒険者ギルドへ入っていくのだった。
冒険者ギルド内はどこの支部も同じような間取りになっていて、冒険者がギルド内で迷うことは殆どない。
ルイカも歴とした元冒険者だ。ミミスが向かったであろう依頼報告のカウンターの場所が何処なのか尋ねる必要もない。
「あっ、ルイカさん」
無事に薬草採取の依頼報告を終わらせたミミスがルイカに気付いて駆け寄って来る。
「無事に終わった?」
ルイカが声を掛けると、ミミスは受け取った報酬が入った小袋を手に白い歯を見せながら大きく頷くのだった。
「ちょっと素材を買いたいけどいいかな?」
冒険者ギルド内には冒険者が必要とする武器防具の他に、冒険に必須の道具や冒険者がギルドに売却した素材などを販売するスペースがある。
「はい。では、私はあっちで座って待ってます」
ルイカは休憩スペースに向かって歩いて行くミミスを見送ると、自身は素材を販売しているスペースに移動する。
「多分これで足りるかな?」
ルイカは必要になりそうな薬の素材を適当に購入すると、隣の防具屋で狼の皮で作られた胸当てを購入する。
「ミミスちゃん、お待たせ。もうちょっと待っててもらっていいかな?」
ルイカはミミスが心配しないように一声掛けると、そのままトイレの方へ歩いて行く。
「モップ、お願い」
ルイカはトイレの個室に入ると、腕につけているガーネットのブレスレットに声を掛ける。
「干渉しないんじゃなかったのかい?」
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「魔石が三つだから付与できるのは三種類だからね」
モップはそう告げると付与魔法を発現させ、先ほど購入した狼の皮で作られた胸当てに自然復元と材質強化、更に状態回復の効果を付与する。
「ツンデレっぽいモップちゃんも可愛いなー」
ルイカはそう言いながらモップを抱き締めると、全身を揉みくちゃにする。
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