霧開けて、明暗

小島秋人

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2021/07/14

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  2021/07/14

 「今朝は夢見が悪かった」

 寝覚めの度々に繰り返す文言であった、口癖と言い換えても良いのか。毎度誰に聞かせる文句でもないのだから不適当やも知れないが、何にせよ独り言る頻度が高いのは確かだった。

 しかし改まって考えるに、こと自分にとって「夢見が良い」と形容し得る粗筋に見当が付かない。
 悪夢は謂わずもがな、現実の自認を高める一助にしかなり得ない。かと言って、文字通り夢見心地に多幸感に一時揺蕩うたとして、現実との乖離に打ちのめされた経験にもまた事欠かなかった。
 寧ろ後者の場合にこそ痩せ細り弱った生命線は千々に苛まれたのではあるまいか。

 「難儀だなぁ」
 「そう思うなら出演回数減らしませんか」
 「此方の匙加減でどうにかなるならね」

 全く反論の仕様もない。自身の精神薄弱棚に上げて脳裏の埓外に当たり散らしていては事態は収集よりも悪化の一途を辿る事だろう。

 抑の所を言えば、何も夢中に顔を合わせる相手は彼に限らない。
 余生を真に一身に永らえた訳ではない。途上に得た友誼親交は少なからざる。今日多少の目減りはしても、掛け替えてならぬ緣を失する事は無いようにと努めてきた。

 「…いや、どうだろう」
 「何がさ」
 「友情を持続する為に何の努力をしたと胸を張れるだろうかと…」
 「病気出る度に心配掛けてばっかだもんな!」
 「直接の原因にだけは言われたくねぇ…嬉しそうな顔すんな」

 自己弁護でもないが、元来実利を欲して結んだ交友でもない。寧ろ三方に利する自分で在れかしと、心身生命の切り売り大廉売不法投棄は厳に戒め続けての今日である筈だ。

 「一番あげたかった人がもう居ないから三人で分けて持って貰おうって魂胆なんだが…」
 「それ相当重いから絶対言わない方が良いよ!」
 「だから良い笑顔やめろ」 
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