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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

35-3

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  ~35-3~

 「…うぅむ、大した手前だ、その歳で良くもまぁ…」
 眼前で正しく舌を唸らせる義父殿の様子に満悦を隠し切れない。

 「実物を味わう機会になど恵まれようも有りませんから自信が無かったのですが、そう言って頂けると」
 しかし料理の出来栄えと射撃の手腕を褒める台詞回しに大差が無い事には自覚を及ぼして貰えないものだろうか。苦笑を隠す様に手土産のシャルドネを惜し気無く口に含んだ。芳醇な香りとキレの良い酸味に因って口を突きかけた苦言が清め流されていく。

 「其れを言うなら儂とて同じよ、まぁ儂の場合は間を悪くして食い損なったのだが」
 私の動作を追う様にグラスを手に取った義父殿は輪をかけて豪儀に杯を干さんとしている。些かマリアージュの適量を過ぎる飲みっぷりにも思えるが、食事の愉しみ方は其々に在って良いと言うのが信条の為何を言う気にもならない。

 「リヨンにお住いの時期でもお有りで?」
 初対面から其れなりの日数を数えるが出自来歴に話を振った事はない。避ける話題でも無いのだろうから思い出話の序に探りを入れても良かろうと判断した。

 「いや、カステルノーダリの第4外人部隊で訓練教官をな、リヨンからは少々距離の有る街だ」
 想定以上に突飛な切り出しだった。義父殿は目を見張り畏まる私の様子を察してか即座に言葉を続けた。

 「よりにもよって部隊が解散して帰国した翌年にポール・ボキューズが三ツ星を取りおってな、しかも更に次の年にはベトナムのロンタンに向かわされる始末よ」
 笑い話の様にすらすらと語っているが此方は過多にも過ぎる情報量に困惑するばかりだった。
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