一緒に地獄に落ちてくれ

小島秋人

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後悔は字面を体現する

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  『後悔は字面を体現する』

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 斯くして終始穏やかに始まった情交の筈だったのだが、終えて見れば漂う悲壮感この上ない。熟々に後悔は字面を体現すると思い知った。

~~~~~

 翌の休日を挟み月曜の昼、食堂に誘う同輩の声をあしらって人気の無い廊下をひた進んだ。高鼾を掻ける神経が有れば良かったが生憎そう上手くも行かず、早起きに託付けて拵えた弁当箱を提げている。

 辿り着いたのは特別教室棟の裏手、授業の合間なら未だしも食事時に人の気配は先ず見られない。その筈の場所にぽつねんと腰を下ろす人影の隣に断りも無く腰掛けた。

 「今日も此処か、もうぞろ日陰者は卒業しちゃどうだ」
 「…ほっとけ」
 此方を見向きもせず短く言葉を返した先客は既に昼食を済ませたらしい。空の弁当箱を傍らに置き片手に持ったコーヒー缶を弄んでいる。

 「俺も話の前に飯を済ませる、構わんよな?」
 「…」
 沈黙を了承と受け取りいそいそと包みを開いた。有り余った時間で炊いた煮物に先ず手を付ける。美味い、我ながら良い出来だった。味が染みるだけの時間すら存分に有った事は笑うしかない。

 「…珍しいな、自分用に作ってんの」
 待つ間の暇を持て余してか、珍しく彼から会話の種を撒いて来た。普段は此方から話し掛けても碌に返事も返さぬ口無精なのだが。

 「柄にも無く早起きしてな、かと言って今日は御裾分けに回る時間も無ぇだろ?」
 女遊び男漁りを別にして唯一の趣味と言って良い料理は前二者と異なり周囲に歓迎されている特技でもある。最近では新しい献立を思い付いては食べ盛り共に味見をさせるのが習慣と成っていた。

 ゆるりと味わう間も無く平らげた弁当の箱を彼に倣って傍らに置く。先方の様子からして後片付けの寸暇も焦れて仕様が無いだろう。

 「さて、何から聞くね?」
 彼に向き直し話の体勢を作る。視線こそ合わせては貰えないが、彼もその心算になった事が雰囲気から知れた。

 「…そっちから来ると思ってなかったからまだ整理が付いてないんだよ」
 どうも先走ったらしい。

 「へぇ、コミュ障の御手前が俺のクラスまで呼び出しに来れるってんなら見てみたかったが」
 意図せず喧嘩腰になった。責められる覚悟を決めて来た此方に対する相手の不覚。更には抑の発端まで上乗せすれば此方が優位になってしまうのではないだろうか。
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