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Fragrance 8-タビノカオリ-
第17話『ゴースト』
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彩花さんを交えて、隣の部屋で3人で女子会をしている中、俺はホットコーヒーを作ってこのホテルのことについて調べていた。藍沢さんから電話がかかってくるかもしれないので、タブレットで調べる。
「さてと、どの切り口からいけばいいか……」
このホテルを調べると、海やプールで存分に夏を満喫できる、とか……このホテルから行くことのできる観光ツアーが大好評とか。夏休みの旅行では国内有数の場所、とまで書かれた記事まであるぞ。
「えええっ!」
何か、奈央の叫び声が聞こえたぞ。
俺は顔だけ出して隣の部屋の様子を伺う。
「奈央、どうしたんだ? 凄い声が聞こえたけど」
「……な、何でもないから。彩花ちゃんの恋愛話にキュンときちゃっただけ」
大声を出すほどキュンと来てしまう恋愛話って、いったいどういう内容なのか。それはそれでちょっと気になるけれど、変なことが起きたわけではないと分かったのでとりあえず一安心。
「まあ、それならいいけど。……あっ、電話がかかってきた」
スマートフォンが鳴っているな。発信者を確認すると『藍沢直人』となっている。向こうで何かあったのかな。
「はい、坂井ですが」
『藍沢です』
「藍沢さん、どうかしましたか?」
『今、遥香さんと一緒にこのホテルのことを調べているんです。そうしたら、このホテル……香川さんが言っていたように、よく幽霊やお化けがでるみたいで。その手のマニアには人気のホテルなんだそうです』
「そうだったんですか。……俺も知らなかったですね」
遥香と藍沢さんは奈央の一言からヒントを得てホテルのことを調べてくれたのか。まさかこのホテルが心霊現象のよく起こる場所だとは全然知らなかった。
『今の時期になると、幽霊やお化けが多く出るみたいで。スマートフォンで検索したんですけど、結構な量の写真がアップされていて……』
「検索ワードは、「アクアサンシャインリゾートホテル 噂」と検索すれば大丈夫ですか?」
『ええ、大丈夫ですけど……調べるのであれば一旦、通話を切りますか?』
「いえ、大丈夫です。タブレットを持ってきているので……」
『そうですか』
藍沢さんに言ったように、『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』で調べてみる。彼の言うとおり、心霊系のブログ記事がヒットするな。
『話が逸れてしまいますが、彩花の様子はどうですか?』
「奈央と絢さんが彩花さんと親睦を深めるために女子会をすると言って、遥香と絢さんが泊まっている1501号室で楽しくガールズトークをしていますよ。俺は1人で1502号室にいます」
『そ、そうなんですか』
絢さんと奈央さんがいて本当に助かっている。まあ、仮に俺だけだとしても、妹のように接していけばいいと思うけれど。
「部屋を行き来できる扉は開いていますし、3人の楽しそうな声が聞けるだけでも俺は十分ですよ。それに、俺も藍沢さんや遥香と同じように、2人が入れ替わった理由を調べたかったですし」
『そうですか』
「そういえば、遥香の様子はどうですか?」
兄として、妹の様子が気になる。藍沢さんとはいえ、妹が男と一緒にいるので本当は逐一様子を訊きたいくらいなのだ。
『坂井さんというお兄さんがいるおかげか、俺に対して特に緊張することなく普通に話せていますよ。2人でいたいと言っただけあって、部屋に戻ってからは楽しそうな表情を見せるようになりました』
「そうですか。それなら良かった」
なるほど、俺のおかげで藍沢さんとも自然に接することができているのか。兄として誇らしい限りだ。
藍沢さんとそんなことを話していたら、画像検索の結果が表示されていた。うわあ、ちょっと怖い画像ばかりだな。これ、本当に撮影されているんだよな。
「あっ、出ましたね。画像検索をしたら……ああ、肩に乗っている見知らぬ人の手や赤い光、ぼんやりと浮かぶ女性の顔、ですか。このホテルをバックにして撮影されているんですね」
『ええ。それらの心霊写真がこのホテルで撮影される理由として考えられているのは、20年前の夏に、この地域にある白海リゾートホテルというところで当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんです。その女子高生は学校でいじめを受けていたそうです。ただ、事件当日はクラスメイトの女子生徒の家族と一緒に来ています。しかし、その友人が自殺間際に少女を突き放してしまったと』
「なるほど。いじめを受けていた少女にとって、一緒に来ている友人が心の拠り所だったのでしょう。その白海リゾートホテルはこの地域にあるんですよね」
『ええ、それは分かっているんですが、ホテルについてはまだ詳しく調べていなかったですね』
「分かりました。じゃあ、調べてみますね。ちょっと待っていてください」
タブレットで『白海リゾートホテル』と検索してみる。
まあ、この地域にホテルはあまりないようだから、白海リゾートホテルがどこにあるのかはだいたいの想像できるけれど。何枚かの心霊写真に写っていた建物、どこかで見覚えがある。
白海リゾートホテル……あっ、検索結果が出た。とりあえず、1件目にヒットしたページを見てみると、
「藍沢さん。ホテル名で検索をかけたのですが……どうやら、白海リゾートホテルはこのアクアサンシャインリゾートホテルのことのようです」
『やっぱり、そうですか』
さすがに、藍沢さんもここが元々白海リゾートホテルだという想像はついていたか。
「10年前にホテルの名前を変更したようです。調べてみると、20年前の事件の直後から多くなった心霊現象と怪奇現象が影響し、業績が年々悪化したそうです。低迷する中、ホテルの名前を変え遊泳施設を充実させ、地域と連携した形でリスタートしたことが功を奏し、今のような人気のリゾートホテルとして見事に復活したそうです」
『そうだったんですか。しかも、現在はその手のマニアには心霊スポットとして人気だそうですよ。特に今の時期は多く出ますから』
「……あれ、急に寒くなってきましたね。俺、心霊系には強いはずなんですけど」
絶叫系アトラクションはめっぽう弱いけれど、お化け屋敷などの心霊系アトラクションは案外好きだったりする。もしかしたら、それはアトラクションだから大丈夫なのであって、実際の心霊現象は苦手なのかな。
「まさか、このホテルにそんな過去があったとは」
『まだ、20年前の事件が原因かどうか分かりませんが、可能性は非常に高いと思います』
「俺もそう思います。仮に20年前の事件が原因だとしたら、その自殺した女の子が遥香と彩花さんの体を入れ替えさせたんでしょうね」
遥香と絢さんを見ているからかもしれないけど、自殺した女の子と彼女と来ていたクラスメイトの女の子は付き合っていたとも想像できる。
『彩花も遥香さんも付き合っている人がいます。入れ替わりによって、恋人との決定的な距離を作り、孤独や絶望を味わわせたいのかもしれません』
「……そうかもしれません」
『心霊系を取り上げたニュース記事、ブログでは心霊写真が撮影される原因として、20年前の事件を紹介しています。可能性の範囲に留めず、入れ替わった原因としても考えるべきだと思っています』
確かに、調べていくと20年前に少女が自殺した事件ばかりがヒットする。近年、この地域で発生した事件は、強盗やわいせつ行為くらい。それも、両手の指で足りてしまうくらいに少ない。
「俺もその方向で考えていっていいと思いますね。今、このホテルのある地域で起こった事件を調べていますが、人が亡くなった事件に絞ると、20年前の事件が最後です」
『そうですか』
これからは20年前の事件を中心に調べていくことにするか。
『調べていただきありがとうございました』
「いえ、こちらこそ20年前の事件を教えていただいてありがとうございました」
『引き続き、俺と遥香さんは20年前の事件を詳しく調べてみることにします』
「分かりました。こちらも調べてみます。何か分かったら、今みたいにお互いに連絡をしていって情報を共有していきましょう」
『はい』
「これからも遥香が色々とお世話になると思いますが、宜しくお願いします」
『分かりました。こちらこそ、彩花のことを宜しくお願いします』
「ええ、彼女のことは俺達に任せてください」
2人が元の体に戻るまでは、彩花さんのことを3人で守っていかなければ。そして、遥香のことは藍沢さんに任せ、信じるしかない。
とりあえず、まずはこのことを絢さん達に伝えることにしよう。
「さてと、どの切り口からいけばいいか……」
このホテルを調べると、海やプールで存分に夏を満喫できる、とか……このホテルから行くことのできる観光ツアーが大好評とか。夏休みの旅行では国内有数の場所、とまで書かれた記事まであるぞ。
「えええっ!」
何か、奈央の叫び声が聞こえたぞ。
俺は顔だけ出して隣の部屋の様子を伺う。
「奈央、どうしたんだ? 凄い声が聞こえたけど」
「……な、何でもないから。彩花ちゃんの恋愛話にキュンときちゃっただけ」
大声を出すほどキュンと来てしまう恋愛話って、いったいどういう内容なのか。それはそれでちょっと気になるけれど、変なことが起きたわけではないと分かったのでとりあえず一安心。
「まあ、それならいいけど。……あっ、電話がかかってきた」
スマートフォンが鳴っているな。発信者を確認すると『藍沢直人』となっている。向こうで何かあったのかな。
「はい、坂井ですが」
『藍沢です』
「藍沢さん、どうかしましたか?」
『今、遥香さんと一緒にこのホテルのことを調べているんです。そうしたら、このホテル……香川さんが言っていたように、よく幽霊やお化けがでるみたいで。その手のマニアには人気のホテルなんだそうです』
「そうだったんですか。……俺も知らなかったですね」
遥香と藍沢さんは奈央の一言からヒントを得てホテルのことを調べてくれたのか。まさかこのホテルが心霊現象のよく起こる場所だとは全然知らなかった。
『今の時期になると、幽霊やお化けが多く出るみたいで。スマートフォンで検索したんですけど、結構な量の写真がアップされていて……』
「検索ワードは、「アクアサンシャインリゾートホテル 噂」と検索すれば大丈夫ですか?」
『ええ、大丈夫ですけど……調べるのであれば一旦、通話を切りますか?』
「いえ、大丈夫です。タブレットを持ってきているので……」
『そうですか』
藍沢さんに言ったように、『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』で調べてみる。彼の言うとおり、心霊系のブログ記事がヒットするな。
『話が逸れてしまいますが、彩花の様子はどうですか?』
「奈央と絢さんが彩花さんと親睦を深めるために女子会をすると言って、遥香と絢さんが泊まっている1501号室で楽しくガールズトークをしていますよ。俺は1人で1502号室にいます」
『そ、そうなんですか』
絢さんと奈央さんがいて本当に助かっている。まあ、仮に俺だけだとしても、妹のように接していけばいいと思うけれど。
「部屋を行き来できる扉は開いていますし、3人の楽しそうな声が聞けるだけでも俺は十分ですよ。それに、俺も藍沢さんや遥香と同じように、2人が入れ替わった理由を調べたかったですし」
『そうですか』
「そういえば、遥香の様子はどうですか?」
兄として、妹の様子が気になる。藍沢さんとはいえ、妹が男と一緒にいるので本当は逐一様子を訊きたいくらいなのだ。
『坂井さんというお兄さんがいるおかげか、俺に対して特に緊張することなく普通に話せていますよ。2人でいたいと言っただけあって、部屋に戻ってからは楽しそうな表情を見せるようになりました』
「そうですか。それなら良かった」
なるほど、俺のおかげで藍沢さんとも自然に接することができているのか。兄として誇らしい限りだ。
藍沢さんとそんなことを話していたら、画像検索の結果が表示されていた。うわあ、ちょっと怖い画像ばかりだな。これ、本当に撮影されているんだよな。
「あっ、出ましたね。画像検索をしたら……ああ、肩に乗っている見知らぬ人の手や赤い光、ぼんやりと浮かぶ女性の顔、ですか。このホテルをバックにして撮影されているんですね」
『ええ。それらの心霊写真がこのホテルで撮影される理由として考えられているのは、20年前の夏に、この地域にある白海リゾートホテルというところで当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんです。その女子高生は学校でいじめを受けていたそうです。ただ、事件当日はクラスメイトの女子生徒の家族と一緒に来ています。しかし、その友人が自殺間際に少女を突き放してしまったと』
「なるほど。いじめを受けていた少女にとって、一緒に来ている友人が心の拠り所だったのでしょう。その白海リゾートホテルはこの地域にあるんですよね」
『ええ、それは分かっているんですが、ホテルについてはまだ詳しく調べていなかったですね』
「分かりました。じゃあ、調べてみますね。ちょっと待っていてください」
タブレットで『白海リゾートホテル』と検索してみる。
まあ、この地域にホテルはあまりないようだから、白海リゾートホテルがどこにあるのかはだいたいの想像できるけれど。何枚かの心霊写真に写っていた建物、どこかで見覚えがある。
白海リゾートホテル……あっ、検索結果が出た。とりあえず、1件目にヒットしたページを見てみると、
「藍沢さん。ホテル名で検索をかけたのですが……どうやら、白海リゾートホテルはこのアクアサンシャインリゾートホテルのことのようです」
『やっぱり、そうですか』
さすがに、藍沢さんもここが元々白海リゾートホテルだという想像はついていたか。
「10年前にホテルの名前を変更したようです。調べてみると、20年前の事件の直後から多くなった心霊現象と怪奇現象が影響し、業績が年々悪化したそうです。低迷する中、ホテルの名前を変え遊泳施設を充実させ、地域と連携した形でリスタートしたことが功を奏し、今のような人気のリゾートホテルとして見事に復活したそうです」
『そうだったんですか。しかも、現在はその手のマニアには心霊スポットとして人気だそうですよ。特に今の時期は多く出ますから』
「……あれ、急に寒くなってきましたね。俺、心霊系には強いはずなんですけど」
絶叫系アトラクションはめっぽう弱いけれど、お化け屋敷などの心霊系アトラクションは案外好きだったりする。もしかしたら、それはアトラクションだから大丈夫なのであって、実際の心霊現象は苦手なのかな。
「まさか、このホテルにそんな過去があったとは」
『まだ、20年前の事件が原因かどうか分かりませんが、可能性は非常に高いと思います』
「俺もそう思います。仮に20年前の事件が原因だとしたら、その自殺した女の子が遥香と彩花さんの体を入れ替えさせたんでしょうね」
遥香と絢さんを見ているからかもしれないけど、自殺した女の子と彼女と来ていたクラスメイトの女の子は付き合っていたとも想像できる。
『彩花も遥香さんも付き合っている人がいます。入れ替わりによって、恋人との決定的な距離を作り、孤独や絶望を味わわせたいのかもしれません』
「……そうかもしれません」
『心霊系を取り上げたニュース記事、ブログでは心霊写真が撮影される原因として、20年前の事件を紹介しています。可能性の範囲に留めず、入れ替わった原因としても考えるべきだと思っています』
確かに、調べていくと20年前に少女が自殺した事件ばかりがヒットする。近年、この地域で発生した事件は、強盗やわいせつ行為くらい。それも、両手の指で足りてしまうくらいに少ない。
「俺もその方向で考えていっていいと思いますね。今、このホテルのある地域で起こった事件を調べていますが、人が亡くなった事件に絞ると、20年前の事件が最後です」
『そうですか』
これからは20年前の事件を中心に調べていくことにするか。
『調べていただきありがとうございました』
「いえ、こちらこそ20年前の事件を教えていただいてありがとうございました」
『引き続き、俺と遥香さんは20年前の事件を詳しく調べてみることにします』
「分かりました。こちらも調べてみます。何か分かったら、今みたいにお互いに連絡をしていって情報を共有していきましょう」
『はい』
「これからも遥香が色々とお世話になると思いますが、宜しくお願いします」
『分かりました。こちらこそ、彩花のことを宜しくお願いします』
「ええ、彼女のことは俺達に任せてください」
2人が元の体に戻るまでは、彩花さんのことを3人で守っていかなければ。そして、遥香のことは藍沢さんに任せ、信じるしかない。
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