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Fragrance 8-タビノカオリ-
第16話『宮原彩花』
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遥香と藍沢さんが部屋を後にしても、姿だけならこの1501号室と1502号室に泊まっている人だけが残っているんだよね。私、お兄さん、奈央さん、そして……遥香の姿。でも、心になると、遥香が彩花さんに変わる。
「あの……絢さん」
「は、はい」
「先ほどはその……絢さんと一緒にいたいと我が儘を言ってしまってごめんなさい。本当は絢さん、遥香さんと一緒にいたいはずなのに……」
「いえいえ、気にしないでください。彩花さんがそう言ってくれて嬉しいです。むしろ、彩花さんまで藍沢さんと一緒にいたいと言っていたら、寂しい気持ちになっていたと思いますから」
藍沢さんが素敵な人なので、2人とも藍沢さんと一緒にいるっていう覚悟もできていたんだけれどね。ただ、彩花さんが私を選んでくれたことが嬉しいと思ってしまった。
「彩花さんとこうして一緒に過ごすのも何かの縁でしょう。もっと、彩花さんと距離を縮めていきたいというか。もちろん、遥香に怒られない程度に」
「ふふっ、そうですね」
「ちなみに、彩花さんはおいくつなんですか? 私は16歳の高校1年生なんですけど」
「同じです! 私も高校1年生なんです!」
同い年なのか。それなのに、あの美しさにあのプロポーション。彩花さんの持つスペックが凄いのか、それとも付き合っている藍沢さんが彼女をあそこまで魅力的な女性に? 世の中にあんな高校1年生がいるとは。
「絢さん?」
「ちょっと考え事をしていただけで。同じ高校1年生ってことは、タメ……なんだね」
「ふふっ、そうですね」
「……彩花、ちゃんもタメでいいんだよ?」
「敬語の方が落ち着くので」
彩花ちゃんは可愛らしい笑顔を浮かべながらそう言った。まあ、本人がそう言うんだったらいいか。
「そうだ。せっかくだから、女3人で話そうよ」
「ちゃっかりと俺をハブるんだな、奈央は。まあ、ちょっと調べたいことがあるから、3人で女子会を開くといいよ」
お兄さん、何を調べたいんだろう? まさか、さっき奈央さんが言っていたこのホテルに出るっていう噂のお化けのことかな。
「じゃあ、俺は隣の部屋にいるから」
そう言って、お兄さんは隣の部屋に行ってしまった。
「彩花ちゃん、お腹の調子はどう? 遥香ちゃん、今朝からお腹の調子が悪くて」
「そうだったんですか。ちょっと違和感はありますけど、痛みは全然」
入れ替わった影響で体の調子も良くなっていくのかな?
「そっか。じゃあ、温かいピーチティーでも淹れるね。そうだ、昨日の夕食後に売店で買ったお菓子があるからそれも持ってこよう。2人は椅子に座ってて」
そう言って、奈央さんは女子会の準備をしてくれる。
私と彩花ちゃんは奈央さんのお言葉に甘えて椅子に座る。
「彩花ちゃん、遥香の体には段々と慣れてきたかな」
「はい。何だか、私の体よりも軽い感じがします」
そう言って、彩花ちゃんは胸の辺りをチラチラと見ている。あぁ、自分よりも胸が小さいから体が軽いって言ったのかな。
「大丈夫? 彩花ちゃん」
「ええ、大丈夫です。まあ、強いて言えばお腹の調子があまり良くないですね」
「遥香、今朝になってから急にお腹が痛くなったからね。彩花ちゃんとぶつかった直前、遥香はお腹が痛くなってお手洗いに行ったんだ」
「なるほど……」
奈央さんにホットのピーチティーを淹れてもらって正解だったな。
「それにしても、喋らなければ入れ替わっているとは思えないよね。まあ、喋っても遥香ちゃんの声だから時々分からなくなるけれど……」
「そうですよね。ただ、遥香さんの姿も声も可愛いですよね。絢さんはそういうところに惹かれて、遥香さんのことが好きになったんですか?」
「……う、うん」
遥香のことを訊かれるとさすがに照れてしまうな。ちょっと顔が熱くなってきた。
「遥香はとっても優しいんだ。芯のある女の子でもあって。私、昔に色々なことがあったんだけれど、遥香に出会ったおかげで救われたんだ。好きになったきっかけは一目惚れだけれど、告白したのは私のことを救ってくれたすぐ後なんだよ」
「へえ……」
遥香と出会ったことはまだ過去に囚われていて。ただ、遥香が一緒だったからここまで来ることができたというか。
「あったねぇ、そんなこと。そのとき、隼人と遊園地でジェットコースターに乗ったんだけれど、その時も昨日みたいに気絶してた」
「……お兄さん、本当に絶叫系が苦手なんですね」
「苦手なのは分かっているんだけれど、隼人と一緒に乗りたくなっちゃうんだよね」
「奈央さん、お兄さんに対してだけはSなんですね」
「……だって、1人で乗るよりも2人で乗る方が楽しいもん」
奈央さん、不機嫌そうに頬を膨らましている。藍沢さんから注意されていなければ、何度もウォータースライダーで気絶していたかもしれない。
「奈央さんが、隼人さんのことを好きになったきっかけって何だったんですか?」
「私と隼人は幼馴染だからね。気付いたら好きになってたよ。隼人は落ち着いていて、とても優しいし。あと、今でこそ普通だけれど、つい最近までは女性恐怖症で、家族と私以外の女性にはまともに接することができなかったんだから。そんなことに優越感を覚えていた自分がいたっけ」
「そう思えるのも、隼人さんのことが好きだからなんですね」
「そうだけど、人から指摘されると恥ずかしいね」
奈央さんははにかんでいる。ただ、自然とお兄さんとの馴れ初めを話すことができるあたり、さすがは幼なじみって感じかな。
お兄さんが女性恐怖症だとは聞いていたけれど、この旅行に行くまでに治って良かった。お兄さん、かっこいいから女性に言い寄られるんじゃ。遥香曰く、奈央さんと付き合い始めたあたりから女性恐怖症の症状がなくなったそうだから、女性恐怖症の原因は奈央さんに関わっていたのかも。
「遥香さんは藍沢さんとどんな感じで好きになって、付き合うようになったの?」
「そうですね……私が直人先輩のことを好きになったのは、私が不良に襲われそうになったところを助けてくれたことです」
「へえ、憧れちゃうな、そういうの。でも、私の場合は遥香を助ける方かな?」
彩花ちゃんにはそう言うけど、実際には遥香にたくさん助けられている。遥香と出会っていなかったら、今頃どうなっていたんだろう。
「両親と学校の許しを得て、直人先輩と一緒に住むことになりました。ただ、そこから付き合うまでに色々とあって。直人先輩、とても格好良くて優しいから先輩のことを好きな女性が何人も現れて。直人先輩は記憶を失った時期もあれば、過去に経験したことに苦しむ時期もありました。それらを乗り越えて私のことを選んでくれて、付き合うことになったときはとても嬉しかったです」
彩花ちゃん、藍沢さんのことを話しているとき、とてもいきいきとしていて、嬉しそうな表情を浮かべている。それだけ藍沢さんのことが好きで、彼との思い出がたくさんある証拠なんだろう。
「そっか。藍沢さんと彩花ちゃんはそういう経験をしてきたのか。確かに、藍沢さん……凄くしっかりしているように思えた。彩花ちゃんと遥香が入れ替わったことにもあまり動じていなかったし。性格っていうのもあるのかもしれないけれど。2人の間には確かな信頼があるように感じられたよ」
「そう、ですかね……」
えへへっ、と彩花ちゃんは笑っている。
こんなにも彩花ちゃんは藍沢さんのことが好きなんだ。遥香のことはもちろん、彩花ちゃんのためにも2人が早く元の体に戻れるように頑張らないと。
「彩花ちゃん、その……絶対に元の体に戻れるから!」
「そうだよ。戻ったときには藍沢さんに思いっきり甘えちゃおうよ!」
私も遥香が元の体に戻ったら……遥香に甘えちゃおう。
「……はい。元の体に戻ったら先輩に思い切り甘えて、えっち……いえ、甘えちゃいます、から……」
彩花ちゃんは顔を真っ赤にしている。えっち、って言葉……はっきりと聞こえちゃった。だから、昨日のあの時のことも思い出しちゃった。お兄さんが近くにいないことだし、奈央さんに訊いてみようかな。
「……そういえば」
「はいいっ!」
自分に訊かれると勘違いしたらしく、彩花ちゃんはそんな声を挙げる。
「……いや、彩花ちゃんじゃなくて、奈央さんに。昨晩、隣の部屋で隼人さんと……え、えっちなことをしていましたよね。遥香と一緒に花火を見終わって、ここに戻ってきたときに隣の部屋から奈央さんの気持ち良さそうな声が聞こえたので。遥香も気になっていましたよ」
「えええっ!」
お兄さんに聞こえてしまわないよう、せっかく小さな声で言ったのに……奈央さんは顔を真っ赤にして大声で叫んでしまった。でも、それも仕方ないか。
「奈央、どうしたんだ? 凄い声が聞こえたけれど」
「……な、何でもないから。彩花ちゃんの恋愛話にキュンときちゃっただけ」
隣の部屋からひょっこりと顔を出したお兄さんに対して、奈央さんは苦笑いをしながらそう答える。
「まあ、それならいいけれど。……あっ、電話がかかってきた」
お兄さんはすぐに姿を消した。電話の相手はもしかして直人先輩かな。
「絢ちゃん、彩花ちゃん。隼人と……え、えっちなことなんてしたことないよ」
「でも、あのとき……」
滅茶苦茶可愛らしい喘ぎ声を漏らしてたじゃない。それに、あの時の会話だって、その……えっちしているようにしか聞こえなかったよ。
「昨日の夜は、ベッドの上で隼人にマッサージをしてもらっていたの。気持ち良くて、声が出ちゃって。2人にはその声が聞こえたんだよ」
「そ、そうだったんですか」
マ、マッサージだったのか。
確かに、痛いとか、気持ちいいとか、今度はお兄さんの番とか……マッサージをしていても普通に言う言葉か。あれをえっちだと考えてしまうなんて。奈央さんの声がエロかったからなのか。それとも、私や遥香がそんな思考しかできない頭の持ち主なのか。
「その……勘違いをしてしまってすみませんでした」
「ううん、こちらこそ勘違いさせちゃってごめんね。あと、遥香ちゃんには絢ちゃんの方から伝えておいてくれるかな」
「分かりました。遥香も気にしていたので、伝えておきます」
昨日、温泉に入っているときもお兄さんと奈央さんのことを気にしていた様子だったから。早いうちに知らせておこう。
ピーチティーを飲むとすっかりと冷めていたのであった。
「あの……絢さん」
「は、はい」
「先ほどはその……絢さんと一緒にいたいと我が儘を言ってしまってごめんなさい。本当は絢さん、遥香さんと一緒にいたいはずなのに……」
「いえいえ、気にしないでください。彩花さんがそう言ってくれて嬉しいです。むしろ、彩花さんまで藍沢さんと一緒にいたいと言っていたら、寂しい気持ちになっていたと思いますから」
藍沢さんが素敵な人なので、2人とも藍沢さんと一緒にいるっていう覚悟もできていたんだけれどね。ただ、彩花さんが私を選んでくれたことが嬉しいと思ってしまった。
「彩花さんとこうして一緒に過ごすのも何かの縁でしょう。もっと、彩花さんと距離を縮めていきたいというか。もちろん、遥香に怒られない程度に」
「ふふっ、そうですね」
「ちなみに、彩花さんはおいくつなんですか? 私は16歳の高校1年生なんですけど」
「同じです! 私も高校1年生なんです!」
同い年なのか。それなのに、あの美しさにあのプロポーション。彩花さんの持つスペックが凄いのか、それとも付き合っている藍沢さんが彼女をあそこまで魅力的な女性に? 世の中にあんな高校1年生がいるとは。
「絢さん?」
「ちょっと考え事をしていただけで。同じ高校1年生ってことは、タメ……なんだね」
「ふふっ、そうですね」
「……彩花、ちゃんもタメでいいんだよ?」
「敬語の方が落ち着くので」
彩花ちゃんは可愛らしい笑顔を浮かべながらそう言った。まあ、本人がそう言うんだったらいいか。
「そうだ。せっかくだから、女3人で話そうよ」
「ちゃっかりと俺をハブるんだな、奈央は。まあ、ちょっと調べたいことがあるから、3人で女子会を開くといいよ」
お兄さん、何を調べたいんだろう? まさか、さっき奈央さんが言っていたこのホテルに出るっていう噂のお化けのことかな。
「じゃあ、俺は隣の部屋にいるから」
そう言って、お兄さんは隣の部屋に行ってしまった。
「彩花ちゃん、お腹の調子はどう? 遥香ちゃん、今朝からお腹の調子が悪くて」
「そうだったんですか。ちょっと違和感はありますけど、痛みは全然」
入れ替わった影響で体の調子も良くなっていくのかな?
「そっか。じゃあ、温かいピーチティーでも淹れるね。そうだ、昨日の夕食後に売店で買ったお菓子があるからそれも持ってこよう。2人は椅子に座ってて」
そう言って、奈央さんは女子会の準備をしてくれる。
私と彩花ちゃんは奈央さんのお言葉に甘えて椅子に座る。
「彩花ちゃん、遥香の体には段々と慣れてきたかな」
「はい。何だか、私の体よりも軽い感じがします」
そう言って、彩花ちゃんは胸の辺りをチラチラと見ている。あぁ、自分よりも胸が小さいから体が軽いって言ったのかな。
「大丈夫? 彩花ちゃん」
「ええ、大丈夫です。まあ、強いて言えばお腹の調子があまり良くないですね」
「遥香、今朝になってから急にお腹が痛くなったからね。彩花ちゃんとぶつかった直前、遥香はお腹が痛くなってお手洗いに行ったんだ」
「なるほど……」
奈央さんにホットのピーチティーを淹れてもらって正解だったな。
「それにしても、喋らなければ入れ替わっているとは思えないよね。まあ、喋っても遥香ちゃんの声だから時々分からなくなるけれど……」
「そうですよね。ただ、遥香さんの姿も声も可愛いですよね。絢さんはそういうところに惹かれて、遥香さんのことが好きになったんですか?」
「……う、うん」
遥香のことを訊かれるとさすがに照れてしまうな。ちょっと顔が熱くなってきた。
「遥香はとっても優しいんだ。芯のある女の子でもあって。私、昔に色々なことがあったんだけれど、遥香に出会ったおかげで救われたんだ。好きになったきっかけは一目惚れだけれど、告白したのは私のことを救ってくれたすぐ後なんだよ」
「へえ……」
遥香と出会ったことはまだ過去に囚われていて。ただ、遥香が一緒だったからここまで来ることができたというか。
「あったねぇ、そんなこと。そのとき、隼人と遊園地でジェットコースターに乗ったんだけれど、その時も昨日みたいに気絶してた」
「……お兄さん、本当に絶叫系が苦手なんですね」
「苦手なのは分かっているんだけれど、隼人と一緒に乗りたくなっちゃうんだよね」
「奈央さん、お兄さんに対してだけはSなんですね」
「……だって、1人で乗るよりも2人で乗る方が楽しいもん」
奈央さん、不機嫌そうに頬を膨らましている。藍沢さんから注意されていなければ、何度もウォータースライダーで気絶していたかもしれない。
「奈央さんが、隼人さんのことを好きになったきっかけって何だったんですか?」
「私と隼人は幼馴染だからね。気付いたら好きになってたよ。隼人は落ち着いていて、とても優しいし。あと、今でこそ普通だけれど、つい最近までは女性恐怖症で、家族と私以外の女性にはまともに接することができなかったんだから。そんなことに優越感を覚えていた自分がいたっけ」
「そう思えるのも、隼人さんのことが好きだからなんですね」
「そうだけど、人から指摘されると恥ずかしいね」
奈央さんははにかんでいる。ただ、自然とお兄さんとの馴れ初めを話すことができるあたり、さすがは幼なじみって感じかな。
お兄さんが女性恐怖症だとは聞いていたけれど、この旅行に行くまでに治って良かった。お兄さん、かっこいいから女性に言い寄られるんじゃ。遥香曰く、奈央さんと付き合い始めたあたりから女性恐怖症の症状がなくなったそうだから、女性恐怖症の原因は奈央さんに関わっていたのかも。
「遥香さんは藍沢さんとどんな感じで好きになって、付き合うようになったの?」
「そうですね……私が直人先輩のことを好きになったのは、私が不良に襲われそうになったところを助けてくれたことです」
「へえ、憧れちゃうな、そういうの。でも、私の場合は遥香を助ける方かな?」
彩花ちゃんにはそう言うけど、実際には遥香にたくさん助けられている。遥香と出会っていなかったら、今頃どうなっていたんだろう。
「両親と学校の許しを得て、直人先輩と一緒に住むことになりました。ただ、そこから付き合うまでに色々とあって。直人先輩、とても格好良くて優しいから先輩のことを好きな女性が何人も現れて。直人先輩は記憶を失った時期もあれば、過去に経験したことに苦しむ時期もありました。それらを乗り越えて私のことを選んでくれて、付き合うことになったときはとても嬉しかったです」
彩花ちゃん、藍沢さんのことを話しているとき、とてもいきいきとしていて、嬉しそうな表情を浮かべている。それだけ藍沢さんのことが好きで、彼との思い出がたくさんある証拠なんだろう。
「そっか。藍沢さんと彩花ちゃんはそういう経験をしてきたのか。確かに、藍沢さん……凄くしっかりしているように思えた。彩花ちゃんと遥香が入れ替わったことにもあまり動じていなかったし。性格っていうのもあるのかもしれないけれど。2人の間には確かな信頼があるように感じられたよ」
「そう、ですかね……」
えへへっ、と彩花ちゃんは笑っている。
こんなにも彩花ちゃんは藍沢さんのことが好きなんだ。遥香のことはもちろん、彩花ちゃんのためにも2人が早く元の体に戻れるように頑張らないと。
「彩花ちゃん、その……絶対に元の体に戻れるから!」
「そうだよ。戻ったときには藍沢さんに思いっきり甘えちゃおうよ!」
私も遥香が元の体に戻ったら……遥香に甘えちゃおう。
「……はい。元の体に戻ったら先輩に思い切り甘えて、えっち……いえ、甘えちゃいます、から……」
彩花ちゃんは顔を真っ赤にしている。えっち、って言葉……はっきりと聞こえちゃった。だから、昨日のあの時のことも思い出しちゃった。お兄さんが近くにいないことだし、奈央さんに訊いてみようかな。
「……そういえば」
「はいいっ!」
自分に訊かれると勘違いしたらしく、彩花ちゃんはそんな声を挙げる。
「……いや、彩花ちゃんじゃなくて、奈央さんに。昨晩、隣の部屋で隼人さんと……え、えっちなことをしていましたよね。遥香と一緒に花火を見終わって、ここに戻ってきたときに隣の部屋から奈央さんの気持ち良さそうな声が聞こえたので。遥香も気になっていましたよ」
「えええっ!」
お兄さんに聞こえてしまわないよう、せっかく小さな声で言ったのに……奈央さんは顔を真っ赤にして大声で叫んでしまった。でも、それも仕方ないか。
「奈央、どうしたんだ? 凄い声が聞こえたけれど」
「……な、何でもないから。彩花ちゃんの恋愛話にキュンときちゃっただけ」
隣の部屋からひょっこりと顔を出したお兄さんに対して、奈央さんは苦笑いをしながらそう答える。
「まあ、それならいいけれど。……あっ、電話がかかってきた」
お兄さんはすぐに姿を消した。電話の相手はもしかして直人先輩かな。
「絢ちゃん、彩花ちゃん。隼人と……え、えっちなことなんてしたことないよ」
「でも、あのとき……」
滅茶苦茶可愛らしい喘ぎ声を漏らしてたじゃない。それに、あの時の会話だって、その……えっちしているようにしか聞こえなかったよ。
「昨日の夜は、ベッドの上で隼人にマッサージをしてもらっていたの。気持ち良くて、声が出ちゃって。2人にはその声が聞こえたんだよ」
「そ、そうだったんですか」
マ、マッサージだったのか。
確かに、痛いとか、気持ちいいとか、今度はお兄さんの番とか……マッサージをしていても普通に言う言葉か。あれをえっちだと考えてしまうなんて。奈央さんの声がエロかったからなのか。それとも、私や遥香がそんな思考しかできない頭の持ち主なのか。
「その……勘違いをしてしまってすみませんでした」
「ううん、こちらこそ勘違いさせちゃってごめんね。あと、遥香ちゃんには絢ちゃんの方から伝えておいてくれるかな」
「分かりました。遥香も気にしていたので、伝えておきます」
昨日、温泉に入っているときもお兄さんと奈央さんのことを気にしていた様子だったから。早いうちに知らせておこう。
ピーチティーを飲むとすっかりと冷めていたのであった。
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