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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第19話『ことのは。』
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今日の練習も終わり、夕ご飯の時間に。
いつもは恩田さんと一緒に食べていて、恩田さんと距離を置くようになっても月岡さんと一緒だったから、他の生徒とご飯を食べていると何だか息苦しい。1人で食べているわけじゃないのに、寂しさだけが募っていく。
早めに夕食を食べ終えて、私は合宿所の外のベンチで1人の時間を過ごす。
「遥香、今は大丈夫かな」
例の通り、電話をする前に遥香にメッセージを送ると、遥香から連絡してもいいとすぐに返信がきた。
そして、私の方から電話をかける。
『もしもし、絢ちゃん』
「遥香。ごめんね、昼はメッセージだけになっちゃって」
事情を聞かれたことによりスケジュールがずれ込んだせいで、昼休みはかなり短かったため、そのときに今回のことを遥香にメッセージで伝えておいた。
『いいよ。そっちは……大変そうだね。とりあえず、沙良ちゃんにこのことを伝えておいた。アドレスは知っていたから真紀ちゃんにゆっくり休んで、ってメールを送ったんだけれど、返事は返ってこなかった』
「そっか。沙良さんの方にも返信はない?」
『無理しないでね、っていうメールしか送らなかったみたいで、沙良ちゃんの方にも返事はなかったって』
「なるほど……」
今は誰とも話したくない、ってことかな。そりゃそうだよね。遥香のこともそうだし、自分のせいで、合宿に参加していた周りの人に迷惑を掛けてしまったと負い目に感じているんだろう。
『絢ちゃんの方は大丈夫?』
「ああ、私は大丈夫だよ。まあ、練習する上で恩田さんはとても良いライバルのような感じだから、彼女がいないと張り合いがなくなっちゃうけれど」
『……そっか』
「……もしかして、遥香……自分も悪いんじゃないかって思っていない?」
いつもと違う声色で、今の遥香の声は自分にも責任があると思っているときに似ていたからだ。
『……この3年間、真紀ちゃんや沙良ちゃんとはほとんど連絡を取っていなかったからね。電話でもいいから、少しでもコミュニケーションを取っていたら、何か変わっていたんじゃないかなと思っちゃって』
「そっか。……遥香らしいな。その気持ち、よく分かるよ」
私も中学の時にあったとある出来事に悩んでいた時期があったから。あの時ああすれば、こう変わっていたんじゃないかと。
「でも、大事なのはこれからどうするかじゃないのかな。遥香が私のことを助けてくれたように、さ。遥香が悩んでいるなら、今度は私が助ける番だ」
『絢ちゃん……』
「言ってたでしょ? 何があっても、遥香と私の関係は変わらないって。遥香は堂々とそれを貫けばいいんだよ。むしろ、そのおかげで私だって恩田さんに何を言われても彼女と正面から向き合うことができているんだから」
『……何だか、絢ちゃんらしい言葉だね』
ははっ、と遥香の笑い声が聞こえた。それを聞いて安心する。
『そうだよね。絢ちゃんはいつでも私の側にいるんだもん。絢ちゃんのこと……信頼しているよ』
「私も遥香のことを信頼しているよ」
『ふふっ。……でも、これからどうしようか。合宿が終わる明日までに元気を取り戻せそうにはないよね、到底』
「ああ、その可能性はほとんどないんじゃないかな。気力で練習には参加するかもしれないけれど」
『真紀ちゃん、頑張り屋さんだからその可能性はあるかも。ただ、その時はあまり真紀ちゃんには話しかけない方がいいかも。触れられたくないだろうから』
「そうだね。こっちからは必要な会話だけをしていくよ。向こうから話しかけられたら別だけれどね」
しかし、内容が内容だけに私や月岡さんに話しかけるような可能性は殆どないと思う。先輩ということで草薙さんには話すかもしれないけれど、今日、何も話してくれなかったからその可能性も低そうだ。
『それが一番いいと思う』
「……うん。あと一日、頑張るよ」
『あっという間だったね。色々あったからかもしれないけれど。明日、学校で待ってるからさ、近くになったら連絡してくれるかな?』
「分かった、遥香」
明日、4日ぶりに遥香と会えることが楽しみに思うことに罪悪感を抱いてしまう。けれど、そんな必要はないんだよね。
『じゃあ、また明日ね。何かあったら連絡するから』
「ああ、分かった。また明日」
そして、私の方から通話を切った。
明日で合宿が終わるのか。恩田さんという女の子がいるおかげで、ここまであっという間だった。
大事なインターハイが迫っているから、どうしても恩田さんのことを早く解決したいと思ってしまうけれど、焦っても仕方がない。必ず、どこかで彼女が元気になれるきっかけが生まれるはずだ。
いつもは恩田さんと一緒に食べていて、恩田さんと距離を置くようになっても月岡さんと一緒だったから、他の生徒とご飯を食べていると何だか息苦しい。1人で食べているわけじゃないのに、寂しさだけが募っていく。
早めに夕食を食べ終えて、私は合宿所の外のベンチで1人の時間を過ごす。
「遥香、今は大丈夫かな」
例の通り、電話をする前に遥香にメッセージを送ると、遥香から連絡してもいいとすぐに返信がきた。
そして、私の方から電話をかける。
『もしもし、絢ちゃん』
「遥香。ごめんね、昼はメッセージだけになっちゃって」
事情を聞かれたことによりスケジュールがずれ込んだせいで、昼休みはかなり短かったため、そのときに今回のことを遥香にメッセージで伝えておいた。
『いいよ。そっちは……大変そうだね。とりあえず、沙良ちゃんにこのことを伝えておいた。アドレスは知っていたから真紀ちゃんにゆっくり休んで、ってメールを送ったんだけれど、返事は返ってこなかった』
「そっか。沙良さんの方にも返信はない?」
『無理しないでね、っていうメールしか送らなかったみたいで、沙良ちゃんの方にも返事はなかったって』
「なるほど……」
今は誰とも話したくない、ってことかな。そりゃそうだよね。遥香のこともそうだし、自分のせいで、合宿に参加していた周りの人に迷惑を掛けてしまったと負い目に感じているんだろう。
『絢ちゃんの方は大丈夫?』
「ああ、私は大丈夫だよ。まあ、練習する上で恩田さんはとても良いライバルのような感じだから、彼女がいないと張り合いがなくなっちゃうけれど」
『……そっか』
「……もしかして、遥香……自分も悪いんじゃないかって思っていない?」
いつもと違う声色で、今の遥香の声は自分にも責任があると思っているときに似ていたからだ。
『……この3年間、真紀ちゃんや沙良ちゃんとはほとんど連絡を取っていなかったからね。電話でもいいから、少しでもコミュニケーションを取っていたら、何か変わっていたんじゃないかなと思っちゃって』
「そっか。……遥香らしいな。その気持ち、よく分かるよ」
私も中学の時にあったとある出来事に悩んでいた時期があったから。あの時ああすれば、こう変わっていたんじゃないかと。
「でも、大事なのはこれからどうするかじゃないのかな。遥香が私のことを助けてくれたように、さ。遥香が悩んでいるなら、今度は私が助ける番だ」
『絢ちゃん……』
「言ってたでしょ? 何があっても、遥香と私の関係は変わらないって。遥香は堂々とそれを貫けばいいんだよ。むしろ、そのおかげで私だって恩田さんに何を言われても彼女と正面から向き合うことができているんだから」
『……何だか、絢ちゃんらしい言葉だね』
ははっ、と遥香の笑い声が聞こえた。それを聞いて安心する。
『そうだよね。絢ちゃんはいつでも私の側にいるんだもん。絢ちゃんのこと……信頼しているよ』
「私も遥香のことを信頼しているよ」
『ふふっ。……でも、これからどうしようか。合宿が終わる明日までに元気を取り戻せそうにはないよね、到底』
「ああ、その可能性はほとんどないんじゃないかな。気力で練習には参加するかもしれないけれど」
『真紀ちゃん、頑張り屋さんだからその可能性はあるかも。ただ、その時はあまり真紀ちゃんには話しかけない方がいいかも。触れられたくないだろうから』
「そうだね。こっちからは必要な会話だけをしていくよ。向こうから話しかけられたら別だけれどね」
しかし、内容が内容だけに私や月岡さんに話しかけるような可能性は殆どないと思う。先輩ということで草薙さんには話すかもしれないけれど、今日、何も話してくれなかったからその可能性も低そうだ。
『それが一番いいと思う』
「……うん。あと一日、頑張るよ」
『あっという間だったね。色々あったからかもしれないけれど。明日、学校で待ってるからさ、近くになったら連絡してくれるかな?』
「分かった、遥香」
明日、4日ぶりに遥香と会えることが楽しみに思うことに罪悪感を抱いてしまう。けれど、そんな必要はないんだよね。
『じゃあ、また明日ね。何かあったら連絡するから』
「ああ、分かった。また明日」
そして、私の方から通話を切った。
明日で合宿が終わるのか。恩田さんという女の子がいるおかげで、ここまであっという間だった。
大事なインターハイが迫っているから、どうしても恩田さんのことを早く解決したいと思ってしまうけれど、焦っても仕方がない。必ず、どこかで彼女が元気になれるきっかけが生まれるはずだ。
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