ハナノカオリ

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
136 / 226
Fragrance 7-ナツノカオリ-

第19話『ことのは。』

しおりを挟む
 今日の練習も終わり、夕ご飯の時間に。
 いつもは恩田さんと一緒に食べていて、恩田さんと距離を置くようになっても月岡さんと一緒だったから、他の生徒とご飯を食べていると何だか息苦しい。1人で食べているわけじゃないのに、寂しさだけが募っていく。
 早めに夕食を食べ終えて、私は合宿所の外のベンチで1人の時間を過ごす。

「遥香、今は大丈夫かな」

 例の通り、電話をする前に遥香にメッセージを送ると、遥香から連絡してもいいとすぐに返信がきた。
 そして、私の方から電話をかける。

『もしもし、絢ちゃん』
「遥香。ごめんね、昼はメッセージだけになっちゃって」

 事情を聞かれたことによりスケジュールがずれ込んだせいで、昼休みはかなり短かったため、そのときに今回のことを遥香にメッセージで伝えておいた。

『いいよ。そっちは……大変そうだね。とりあえず、沙良ちゃんにこのことを伝えておいた。アドレスは知っていたから真紀ちゃんにゆっくり休んで、ってメールを送ったんだけれど、返事は返ってこなかった』
「そっか。沙良さんの方にも返信はない?」
『無理しないでね、っていうメールしか送らなかったみたいで、沙良ちゃんの方にも返事はなかったって』
「なるほど……」

 今は誰とも話したくない、ってことかな。そりゃそうだよね。遥香のこともそうだし、自分のせいで、合宿に参加していた周りの人に迷惑を掛けてしまったと負い目に感じているんだろう。

『絢ちゃんの方は大丈夫?』
「ああ、私は大丈夫だよ。まあ、練習する上で恩田さんはとても良いライバルのような感じだから、彼女がいないと張り合いがなくなっちゃうけれど」
『……そっか』
「……もしかして、遥香……自分も悪いんじゃないかって思っていない?」

 いつもと違う声色で、今の遥香の声は自分にも責任があると思っているときに似ていたからだ。

『……この3年間、真紀ちゃんや沙良ちゃんとはほとんど連絡を取っていなかったからね。電話でもいいから、少しでもコミュニケーションを取っていたら、何か変わっていたんじゃないかなと思っちゃって』
「そっか。……遥香らしいな。その気持ち、よく分かるよ」

 私も中学の時にあったとある出来事に悩んでいた時期があったから。あの時ああすれば、こう変わっていたんじゃないかと。

「でも、大事なのはこれからどうするかじゃないのかな。遥香が私のことを助けてくれたように、さ。遥香が悩んでいるなら、今度は私が助ける番だ」
『絢ちゃん……』
「言ってたでしょ? 何があっても、遥香と私の関係は変わらないって。遥香は堂々とそれを貫けばいいんだよ。むしろ、そのおかげで私だって恩田さんに何を言われても彼女と正面から向き合うことができているんだから」
『……何だか、絢ちゃんらしい言葉だね』

 ははっ、と遥香の笑い声が聞こえた。それを聞いて安心する。

『そうだよね。絢ちゃんはいつでも私の側にいるんだもん。絢ちゃんのこと……信頼しているよ』
「私も遥香のことを信頼しているよ」
『ふふっ。……でも、これからどうしようか。合宿が終わる明日までに元気を取り戻せそうにはないよね、到底』
「ああ、その可能性はほとんどないんじゃないかな。気力で練習には参加するかもしれないけれど」
『真紀ちゃん、頑張り屋さんだからその可能性はあるかも。ただ、その時はあまり真紀ちゃんには話しかけない方がいいかも。触れられたくないだろうから』
「そうだね。こっちからは必要な会話だけをしていくよ。向こうから話しかけられたら別だけれどね」

 しかし、内容が内容だけに私や月岡さんに話しかけるような可能性は殆どないと思う。先輩ということで草薙さんには話すかもしれないけれど、今日、何も話してくれなかったからその可能性も低そうだ。

『それが一番いいと思う』
「……うん。あと一日、頑張るよ」
『あっという間だったね。色々あったからかもしれないけれど。明日、学校で待ってるからさ、近くになったら連絡してくれるかな?』
「分かった、遥香」

 明日、4日ぶりに遥香と会えることが楽しみに思うことに罪悪感を抱いてしまう。けれど、そんな必要はないんだよね。

『じゃあ、また明日ね。何かあったら連絡するから』
「ああ、分かった。また明日」

 そして、私の方から通話を切った。
 明日で合宿が終わるのか。恩田さんという女の子がいるおかげで、ここまであっという間だった。
 大事なインターハイが迫っているから、どうしても恩田さんのことを早く解決したいと思ってしまうけれど、焦っても仕方がない。必ず、どこかで彼女が元気になれるきっかけが生まれるはずだ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

ワタシのセンセイ

悠生ゆう
恋愛
『せんせいとおばさん』に登場した流里(小2)が中学生になりました。 中学生になった流里が恋をした相手は中学校の体育教師だった。

クールすぎて孤高の美少女となったクラスメイトが、あたしをモデルに恋愛小説を書く理由

白藍まこと
恋愛
あたし、朝日詩苑(あさひしおん)は勝気な性格とギャルのような見た目のせいで人から遠ざけられる事が多かった。 だけど高校入学の際に心を入れ替える。 今度こそ、皆と同じように大人しく友達を作ろうと。 そして隣の席になったのは氷乃朱音(ひのあかね)という学年主席の才女だった。 あたしは友好的に関わろうと声を掛けたら、まさかの全シカトされる。 うざぁ……。 とある日の放課後。 一冊のノートを手にするが、それは氷乃朱音の秘密だった。 そして、それを知ってしまったあたしは彼女に服従するはめに……。 ああ、思い描いていた学校生活が遠のいていく。 ※他サイトでも掲載中です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

凶器は透明な優しさ

恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。 初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている ・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。 姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり 2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・ そして心を殺された

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

自転車センパイ雨キイロ

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 学校へと向かうバスの中で、高校三年生の中根紫蒼はカナダに住むセンパイからのメッセージを受け取った。短い言葉で綴られるちぐはぐな交流は一年以上続いている。センパイと出会ったのは、紫蒼が一年生のときだった。 一年生の紫蒼は、雨の日のバスの中で偶然センパイと隣り合わせた。それから毎日少しずつ交流を積み重ねて、毎朝一緒に勉強をするようになった。クラスメートとの交流とは少し違う感覚に戸惑いながらも、紫蒼はセンパイと会うのを楽しみにするようになる。

処理中です...