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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第13話『宣戦布告』
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――遥香のことが好き。
やっぱり、恩田さんは遥香のことが好きなのか。遥香と付き合っていると伝えた瞬間に様子が変わったんだから、それは自然なことだろうけれど……実際に言われると色々と複雑な気持ちを抱く。
「遥香のことが……好きなんだ」
「……そう。だから、昨日……原田さんから、遥香と付き合っていることを言われたときはとてもショックだった」
「……やっぱり、そうだったのか」
これは……ややこしくなりそうだ。私と付き合っていることを知ったところで、今のこの態度を見ているとすんなりと後に引くようには見えない。
「……原田さんはいつ、遥香と出会ったんだっけ」
「高校に入学したときだけれど」
「あたしはそれよりも10年くらい前に出会ってるの。あたしは小学生の時から遥香のことが好きだったんだよ。原田さんよりも遥香を想っている時間は長いよ」
「だからって私が遥香と別れるようなことはしない」
「……そう言うと思った。だから、今度のインターハイで勝った方と遥香と付き合う。そういうことにしないかしら。そうしてまでも、あたしは遥香と付き合いたい」
恩田さんは真剣な……いや、睨むと言った方が正しいだろうか。そのくらいに鋭い目つきをしながら私にそんなことを言ってきたのだ。
遥香のことが好きな気持ちは分かるけれども、そこにインターハイを絡ませることはどうかしている。
「そんなことをして、遥香が納得するのかな。私はインターハイで恩田さんに勝つつもりだよ。私はあくまでも、優勝したときの瞬間を味わいたいからね」
「そんなことを言って、本当はあたしに勝つ自信がないからじゃない? だから、かっこつけてるんだ。負けたときの予防線を張っておくために」
挑発とも捉えられる恩田さんの言葉にカチンときたけれど、ここで感情を露わにしてしまっては彼女の思う壺だ。
「……確かに恩田さんは強い選手だと思う。この合宿を通して十分に実感しているよ。負けるかもしれない。けれど、インターハイの勝敗で遥香と付き合うことを決めるような人に私は負けるつもりもないし、負けたくない」
よっぽど、沙良さんの想いを伝えてやろうかと思った。自分が好きだと言ってしまうことで、普段の恩田さんの実力が出せなくなるんじゃないかと気遣っていることを。
「強がっていられるのも今のうちだよ、原田さん。あなたには悪いけれど、遥香のことを奪わせてもらうから」
「……言っておくけど、仮に君が勝っても遥香の気持ちは揺るがないと思うよ。遥香のいないところで、遥香のことを勝手に決めるんじゃない! それが、遥香の恋人としての言葉だ。本気でそんなことをする気なら、私は恩田さんを陸上選手だとは認めないよ。スポーツは賭け事をするためのものじゃないんだ!」
話しているうちに段々と怒りが湧いてきてしまって、最終的には怒号を放つような形になってしまった。でも、遥香と付き合っている身として、このことは言いたかったんだ。
すると、恩田さんもさすがに怒った表情となり、
「あたしは何が何でも手に入れたいものを手に入れるんだ! それが、どんな人からも非難されることになってもね……」
そう言い放つと、恩田さんは立ち去ってしまった。
まさか、インターハイを使って無理矢理にでも遥香と付き合おうとするなんて。それほどに遥香のことが好きなのか。
「どうするべきか……」
遥香を賭けるためにインターハイに出場するつもりはない。私は高校生の中で一番速い女子選手になりたくてインターハイに出場するんだ。
向こうが走りで決着を付けようと言ってきたんだから、こっちも走ることを通じて恩田さんに気持ちを伝えるべきだろう。そのためにも負けるわけにはいかない。ただ、今の恩田さんの心境で、彼女自身のベストを尽くせるかが心配だ。
このことを……遥香に伝えるべきだな。昼食後の休憩時間になったら、まずは今あったことを遥香に電話で言おう。
「ま、真紀ちゃんが……あああっ」
ベンチには月岡さんが力なく横になっていた。遥香のことが好きだと自らの口で断言されてしまったショックからか、彼女は上の空。
「月岡さん、大丈夫かな」
「……どうしましょう。私はずっと真紀ちゃんのことが好きだったのに、そんな真紀ちゃんが坂井遥香のことが好きだとあそこまで強く言うなんて……」
「私達の予想通りになっちゃったね。……ショックだよね」
恩田さんから間接的にフラれたわけだから、それは……辛いよな。気持ちの整理がつかない状況なんだと思う。
「……原田さん」
「なに?」
「……とても辛くて、胸が張り裂けそうで……苦しい。これからどうすればいいのか、正直よく分からないの。でも、ね。原田さん……坂井遥香への想いが揺らいでしまったら、とんでもないことになりそうな気がする。よくないことが起こりそうな気がするの。それは私のために言っているんじゃない……と思いたいわ」
月岡さんの言う悪い予感……それはつまり、遥香が私と別れて恩田さんと付き合うことになった場合のことか。
「……安心して、月岡さん。こんなことで私と遥香の関係は変わらないから。むしろ、より遥香のことを守る気持ちが強くなった」
「……そっか。それなら良かったけれど」
「月岡さんは気持ちが落ち着くまで休んだ方がいい。顔色も悪くなってきているし、こんな暑い中で練習を再開したら熱中症になるかもしれない。よければ、私が八神高校の人に言ってこようか?」
「……大丈夫よ。ちょっとここで休めば。もし、ダメだったら自分で言うわ」
「分かった」
そして、私は水分を軽く取って練習に戻る。そこにはもちろん恩田さんがいたけれど、彼女とはほとんど言葉を交わさなかった。
やっぱり、恩田さんは遥香のことが好きなのか。遥香と付き合っていると伝えた瞬間に様子が変わったんだから、それは自然なことだろうけれど……実際に言われると色々と複雑な気持ちを抱く。
「遥香のことが……好きなんだ」
「……そう。だから、昨日……原田さんから、遥香と付き合っていることを言われたときはとてもショックだった」
「……やっぱり、そうだったのか」
これは……ややこしくなりそうだ。私と付き合っていることを知ったところで、今のこの態度を見ているとすんなりと後に引くようには見えない。
「……原田さんはいつ、遥香と出会ったんだっけ」
「高校に入学したときだけれど」
「あたしはそれよりも10年くらい前に出会ってるの。あたしは小学生の時から遥香のことが好きだったんだよ。原田さんよりも遥香を想っている時間は長いよ」
「だからって私が遥香と別れるようなことはしない」
「……そう言うと思った。だから、今度のインターハイで勝った方と遥香と付き合う。そういうことにしないかしら。そうしてまでも、あたしは遥香と付き合いたい」
恩田さんは真剣な……いや、睨むと言った方が正しいだろうか。そのくらいに鋭い目つきをしながら私にそんなことを言ってきたのだ。
遥香のことが好きな気持ちは分かるけれども、そこにインターハイを絡ませることはどうかしている。
「そんなことをして、遥香が納得するのかな。私はインターハイで恩田さんに勝つつもりだよ。私はあくまでも、優勝したときの瞬間を味わいたいからね」
「そんなことを言って、本当はあたしに勝つ自信がないからじゃない? だから、かっこつけてるんだ。負けたときの予防線を張っておくために」
挑発とも捉えられる恩田さんの言葉にカチンときたけれど、ここで感情を露わにしてしまっては彼女の思う壺だ。
「……確かに恩田さんは強い選手だと思う。この合宿を通して十分に実感しているよ。負けるかもしれない。けれど、インターハイの勝敗で遥香と付き合うことを決めるような人に私は負けるつもりもないし、負けたくない」
よっぽど、沙良さんの想いを伝えてやろうかと思った。自分が好きだと言ってしまうことで、普段の恩田さんの実力が出せなくなるんじゃないかと気遣っていることを。
「強がっていられるのも今のうちだよ、原田さん。あなたには悪いけれど、遥香のことを奪わせてもらうから」
「……言っておくけど、仮に君が勝っても遥香の気持ちは揺るがないと思うよ。遥香のいないところで、遥香のことを勝手に決めるんじゃない! それが、遥香の恋人としての言葉だ。本気でそんなことをする気なら、私は恩田さんを陸上選手だとは認めないよ。スポーツは賭け事をするためのものじゃないんだ!」
話しているうちに段々と怒りが湧いてきてしまって、最終的には怒号を放つような形になってしまった。でも、遥香と付き合っている身として、このことは言いたかったんだ。
すると、恩田さんもさすがに怒った表情となり、
「あたしは何が何でも手に入れたいものを手に入れるんだ! それが、どんな人からも非難されることになってもね……」
そう言い放つと、恩田さんは立ち去ってしまった。
まさか、インターハイを使って無理矢理にでも遥香と付き合おうとするなんて。それほどに遥香のことが好きなのか。
「どうするべきか……」
遥香を賭けるためにインターハイに出場するつもりはない。私は高校生の中で一番速い女子選手になりたくてインターハイに出場するんだ。
向こうが走りで決着を付けようと言ってきたんだから、こっちも走ることを通じて恩田さんに気持ちを伝えるべきだろう。そのためにも負けるわけにはいかない。ただ、今の恩田さんの心境で、彼女自身のベストを尽くせるかが心配だ。
このことを……遥香に伝えるべきだな。昼食後の休憩時間になったら、まずは今あったことを遥香に電話で言おう。
「ま、真紀ちゃんが……あああっ」
ベンチには月岡さんが力なく横になっていた。遥香のことが好きだと自らの口で断言されてしまったショックからか、彼女は上の空。
「月岡さん、大丈夫かな」
「……どうしましょう。私はずっと真紀ちゃんのことが好きだったのに、そんな真紀ちゃんが坂井遥香のことが好きだとあそこまで強く言うなんて……」
「私達の予想通りになっちゃったね。……ショックだよね」
恩田さんから間接的にフラれたわけだから、それは……辛いよな。気持ちの整理がつかない状況なんだと思う。
「……原田さん」
「なに?」
「……とても辛くて、胸が張り裂けそうで……苦しい。これからどうすればいいのか、正直よく分からないの。でも、ね。原田さん……坂井遥香への想いが揺らいでしまったら、とんでもないことになりそうな気がする。よくないことが起こりそうな気がするの。それは私のために言っているんじゃない……と思いたいわ」
月岡さんの言う悪い予感……それはつまり、遥香が私と別れて恩田さんと付き合うことになった場合のことか。
「……安心して、月岡さん。こんなことで私と遥香の関係は変わらないから。むしろ、より遥香のことを守る気持ちが強くなった」
「……そっか。それなら良かったけれど」
「月岡さんは気持ちが落ち着くまで休んだ方がいい。顔色も悪くなってきているし、こんな暑い中で練習を再開したら熱中症になるかもしれない。よければ、私が八神高校の人に言ってこようか?」
「……大丈夫よ。ちょっとここで休めば。もし、ダメだったら自分で言うわ」
「分かった」
そして、私は水分を軽く取って練習に戻る。そこにはもちろん恩田さんがいたけれど、彼女とはほとんど言葉を交わさなかった。
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