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Fragrance 1-コイノカオリ-
第25話『つよがり』
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三度、ジェットコースター前のベンチに座っている。
お昼ほどではないけど、今でも潮浜シーサイドコースターの前には長蛇の待機列ができている。さすがは人気ナンバーワンのアトラクションだ。
「どのアトラクションに行こうか、絢ちゃん」
そのようにして声を掛けてみるも、絢ちゃんはなかなか口を開いてくれない。全てが終わったので、気分転換にどこかのアトラクションに行きたいけれど。
「……その前に、少しここで休んでもいいかな」
「うん、いいよ」
ようやく出た言葉はそんな一言だった。
やっぱり、さっきのことがあってか絢ちゃんに元気がない。最終的に絢ちゃんは悪くないって分かったけど、卯月さんが自殺未遂をしたことに変わりはない。そのことに今も心に深く傷ついているのだろう。
絢ちゃんに元気づけられる言葉を掛けたいけどなかなか見つからない。
互いに無言のまま、1時間も経ってしまったときだった。
――プルルッ。
と、私のスマホの着信音が鳴る。これは電話の方だ。
「ちょっとごめんね」
私はベンチから離れてスマホの画面を見る。すると、発信者が『香川奈央』となっている。何かあったのかと思いすぐに通話状態にする。
「奈央ちゃん、どうかしたの?」
『いや、ちょっと……2人が今どうしているか気になって』
「ジェットコースター近くのベンチで1時間ぐらいずっと座ってる。絢ちゃんやっぱり元気がなくて、どんな言葉を掛ければいいのか分からなくて……」
『そっか。やっぱり……』
「やっぱり?」
『うん。原田さんが深く落ち込んでいるかもしれないと思って、電話を掛けたの』
どうやら、奈央ちゃんには今の絢ちゃんの状態になる心当たりがあるようだ。それ故に非常に落ち着いた口調で話している。
『原田さん、教会では怯えていたけど……決して泣かなかったよね』
「そうだね」
『きっと、遥香ちゃんを守りたい一心で。遥香ちゃんの前だけでは絶対に弱いところは見せないんだって強く思っていたんだよ。だから、絶対に泣きはしなかった』
「強い子だって思ったよ」
泣くどころか、杏ちゃんを笑顔で励ましていた。並大抵の精神力では絶対にできることじゃないと思う。
『でも、遥香ちゃんを探している原田さんを隼人が引き留めたとき、彼女は隼人にすがって泣いてた。自分のせいで遥香ちゃんが誘拐されたんだって』
「そうだったんだ……」
絢ちゃんの泣いている姿を見たから、奈央ちゃんは心配して電話をかけてきたんだ。
『だから……本音を聞いてあげて。片桐さんのことを通して原田さんのことをどう思ったかは関係なく、原田さんの気持ちを聞いてくれないかな。遥香ちゃんは何も言わなくてもいいから』
「分かった」
やっぱり、奈央ちゃんは大人だな。私が1時間も声を掛けられなくて悩んでいたことを一瞬で答えを導き出してしまうんだから。
『私には……遥香ちゃんと原田さん、凄く素敵な2人だと思うよ』
「えっ?」
『遥香ちゃんは原田さんに何があっても彼女の優しさを信じ通した。そして、原田さんは遥香ちゃんを守ろうと一生懸命になった。きっと、これ以上にない……最高のカップルなんじゃないかな』
「カップルって……まだ私、告白してないんだけど」
『ご、ごめん。そうだったね。でも、そんな2人を見て……私もそんな関係になりたいなって思ったよ。フリーフォールの後に意識を失った遥香ちゃんのお兄さんと』
お兄ちゃん、無理して乗らなくてもいいのに。昔から絶叫系が苦手だったじゃん。
「きっと、お兄ちゃんと奈央ちゃんならなれるんじゃないかな」
『……もの凄く時間がかかりそうだけどね。でも、それでもいいんだ。あいつが楽しそうなら私も幸せだし。一緒にならもっとね。好きになるってそういうことじゃないかって思ってる』
「凄く素敵だと思うよ、それ」
『まあ、他の女子と楽しそうだとちょっと妬いちゃうけどね』
「私と同じだ。もう、何度も経験してる」
『……こんな話が盛り上がるなんて、お互いに恋をしている女子だね』
「そうだね」
『あっ、隼人が意識を取り戻しそうだから電話切るね。原田さんのこと……元気にしてあげて。それができるのは遥香ちゃんしかいないから』
「もちろんだよ。じゃあね」
『うん、またね』
通話を切り、私は絢ちゃんの座っているベンチに戻る。
絢ちゃんは依然として俯いたままだった。
私が絢ちゃんを元気にしないと。そのためには彼女の話をしっかりと聞きたい。彼女の本音をきちんと受け止めたい。だから、私は、
「絢ちゃん、あそこに行かない?」
ある場所に行くことを決めた。
そう、潮浜シャンサインランドの名物の1つと言われている大観覧車。
最高点の高さが150メートルと国内最大規模で、乗車時間も30分と他の遊園地の観覧車よりも断トツに長い。また、観覧車から見える遊園地全体の景色と海の景色が綺麗と評判とのこと。
「絢ちゃんの行きたいアトラクションは2つ行ったでしょ? でも、私の行きたいところは……まだ1つだけなんだよね」
「……そういえば、そうだったね」
「フリーフォールの時に見た海の景色がもう一度見たいの。それに……観覧車の中だったら2人きりでゆっくり話せると思うよ。30分も乗っているわけだし」
私にできることは絢ちゃんに話しやすい環境を作ることだけだ。やっぱり、本音を話すときには2人で落ち着いて話せる場所の方がいいと思い観覧車に行こうと決めた。
絢ちゃんは少しの間黙っていたけど、
「……行こうか」
そっと微笑みながら言った。その微笑みは必死に作っているように見える。奈央ちゃんの言う通り、強い自分を見せようとしているからなのかな。
私は絢ちゃんの手を引いて、観覧車に向かうのであった。
お昼ほどではないけど、今でも潮浜シーサイドコースターの前には長蛇の待機列ができている。さすがは人気ナンバーワンのアトラクションだ。
「どのアトラクションに行こうか、絢ちゃん」
そのようにして声を掛けてみるも、絢ちゃんはなかなか口を開いてくれない。全てが終わったので、気分転換にどこかのアトラクションに行きたいけれど。
「……その前に、少しここで休んでもいいかな」
「うん、いいよ」
ようやく出た言葉はそんな一言だった。
やっぱり、さっきのことがあってか絢ちゃんに元気がない。最終的に絢ちゃんは悪くないって分かったけど、卯月さんが自殺未遂をしたことに変わりはない。そのことに今も心に深く傷ついているのだろう。
絢ちゃんに元気づけられる言葉を掛けたいけどなかなか見つからない。
互いに無言のまま、1時間も経ってしまったときだった。
――プルルッ。
と、私のスマホの着信音が鳴る。これは電話の方だ。
「ちょっとごめんね」
私はベンチから離れてスマホの画面を見る。すると、発信者が『香川奈央』となっている。何かあったのかと思いすぐに通話状態にする。
「奈央ちゃん、どうかしたの?」
『いや、ちょっと……2人が今どうしているか気になって』
「ジェットコースター近くのベンチで1時間ぐらいずっと座ってる。絢ちゃんやっぱり元気がなくて、どんな言葉を掛ければいいのか分からなくて……」
『そっか。やっぱり……』
「やっぱり?」
『うん。原田さんが深く落ち込んでいるかもしれないと思って、電話を掛けたの』
どうやら、奈央ちゃんには今の絢ちゃんの状態になる心当たりがあるようだ。それ故に非常に落ち着いた口調で話している。
『原田さん、教会では怯えていたけど……決して泣かなかったよね』
「そうだね」
『きっと、遥香ちゃんを守りたい一心で。遥香ちゃんの前だけでは絶対に弱いところは見せないんだって強く思っていたんだよ。だから、絶対に泣きはしなかった』
「強い子だって思ったよ」
泣くどころか、杏ちゃんを笑顔で励ましていた。並大抵の精神力では絶対にできることじゃないと思う。
『でも、遥香ちゃんを探している原田さんを隼人が引き留めたとき、彼女は隼人にすがって泣いてた。自分のせいで遥香ちゃんが誘拐されたんだって』
「そうだったんだ……」
絢ちゃんの泣いている姿を見たから、奈央ちゃんは心配して電話をかけてきたんだ。
『だから……本音を聞いてあげて。片桐さんのことを通して原田さんのことをどう思ったかは関係なく、原田さんの気持ちを聞いてくれないかな。遥香ちゃんは何も言わなくてもいいから』
「分かった」
やっぱり、奈央ちゃんは大人だな。私が1時間も声を掛けられなくて悩んでいたことを一瞬で答えを導き出してしまうんだから。
『私には……遥香ちゃんと原田さん、凄く素敵な2人だと思うよ』
「えっ?」
『遥香ちゃんは原田さんに何があっても彼女の優しさを信じ通した。そして、原田さんは遥香ちゃんを守ろうと一生懸命になった。きっと、これ以上にない……最高のカップルなんじゃないかな』
「カップルって……まだ私、告白してないんだけど」
『ご、ごめん。そうだったね。でも、そんな2人を見て……私もそんな関係になりたいなって思ったよ。フリーフォールの後に意識を失った遥香ちゃんのお兄さんと』
お兄ちゃん、無理して乗らなくてもいいのに。昔から絶叫系が苦手だったじゃん。
「きっと、お兄ちゃんと奈央ちゃんならなれるんじゃないかな」
『……もの凄く時間がかかりそうだけどね。でも、それでもいいんだ。あいつが楽しそうなら私も幸せだし。一緒にならもっとね。好きになるってそういうことじゃないかって思ってる』
「凄く素敵だと思うよ、それ」
『まあ、他の女子と楽しそうだとちょっと妬いちゃうけどね』
「私と同じだ。もう、何度も経験してる」
『……こんな話が盛り上がるなんて、お互いに恋をしている女子だね』
「そうだね」
『あっ、隼人が意識を取り戻しそうだから電話切るね。原田さんのこと……元気にしてあげて。それができるのは遥香ちゃんしかいないから』
「もちろんだよ。じゃあね」
『うん、またね』
通話を切り、私は絢ちゃんの座っているベンチに戻る。
絢ちゃんは依然として俯いたままだった。
私が絢ちゃんを元気にしないと。そのためには彼女の話をしっかりと聞きたい。彼女の本音をきちんと受け止めたい。だから、私は、
「絢ちゃん、あそこに行かない?」
ある場所に行くことを決めた。
そう、潮浜シャンサインランドの名物の1つと言われている大観覧車。
最高点の高さが150メートルと国内最大規模で、乗車時間も30分と他の遊園地の観覧車よりも断トツに長い。また、観覧車から見える遊園地全体の景色と海の景色が綺麗と評判とのこと。
「絢ちゃんの行きたいアトラクションは2つ行ったでしょ? でも、私の行きたいところは……まだ1つだけなんだよね」
「……そういえば、そうだったね」
「フリーフォールの時に見た海の景色がもう一度見たいの。それに……観覧車の中だったら2人きりでゆっくり話せると思うよ。30分も乗っているわけだし」
私にできることは絢ちゃんに話しやすい環境を作ることだけだ。やっぱり、本音を話すときには2人で落ち着いて話せる場所の方がいいと思い観覧車に行こうと決めた。
絢ちゃんは少しの間黙っていたけど、
「……行こうか」
そっと微笑みながら言った。その微笑みは必死に作っているように見える。奈央ちゃんの言う通り、強い自分を見せようとしているからなのかな。
私は絢ちゃんの手を引いて、観覧車に向かうのであった。
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