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本編
第19話『調査結果』
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正門の前にはリムジンが何台か停車していた。どうやら、お嬢様以外にもリムジンで帰るお金持ちの生徒がいるようだ。そんな光景だけでも驚くのに、その横を素通りして帰っていく生徒が大半だというのが更に驚きだ。
「学校お疲れ様です、由衣様、真守さん」
くるみさんは九条家のリムジンの前で俺達のことを待っていた。
「さあ、さっそく帰りましょう」
「そうね」
俺がリムジンの後部座席の扉を開け、お嬢様が車の中に入ろうとしたときだった。
「真守君!」
桜さんの声が聞こえた。
すぐさま周りを見渡すと、校門の方からスーツ姿の桜さんがこちらに向かって歩いてくる。俺と目が合うと、桜さんは笑顔で手を振ってくる。そのせいか、下校途中の生徒から注目を浴びてしまう。
「続々と下校してくる生徒がいるからもしやと思ったけど、ここで会えたね」
「とか言いながら、俺達が校舎から出るのを待っていたんじゃないですか?」
「ははっ、その通りだよ。せっかくここに来たから真守君や九条さんに会いたいと思って」
「なるほど。桜さんが宝月学院に足を運んでいるということは、例のことについて捜査していたんですか?」
「ああ、その通りだよ。……ところで、隣にいるこちらの女の子が九条由衣さんかな? 可愛いお嬢様だね」
「は、初めまして。九条由衣です」
さすがのお嬢様も警察官を目の前にすると緊張してしまうようだ。桜さんに視線を向けようとしていない。
「初めまして、日向桜です。警察官をしていて金原警察署に勤めています。もしかしたら、真守君から話を聞いているかもしれないけど、彼とは以前からの知り合いだよ」
「3年前の事件を担当した刑事さんですよね。真守から聞きました」
「その通り。そして、昨日……彼が名栗に襲われた事件を担当することになった。君の命を狙うCherryについても知っているよ」
「そ、そうですか……」
お嬢様、不安そうな表情になって体を震わせている。昨日のことを思い出してしまったのかな。それとも、桜さんが単に恐いだけか。
「私は真守君が思っているような恐い人じゃないよぉ」
「……あなたの勘は冴えすぎですよ」
やっぱり、恐ろしい人だ。
でも、怯えているお嬢様を見たのは初めてだ。桜さんのことを意図的に見ないようにしているみたいだし、本当に彼女のことを恐いと思っているのか?
「……まあ、Cherryから命を狙われている身だ。真守君がSPとして守ってくれていても怖がってしまうのは仕方ないことだよ。でも、私達警察も九条さんのことをCherryから守ることに尽力するつもりさ」
「あ、ありがとうございます……」
お嬢様は笑みを見せるけれど、それは明らかに作り笑顔であることが分かる。やっぱり、Cherryに命を狙われていることに怯えているのかな。
そんなお嬢様のことを桜さんはずっと笑顔で見ていた。こういうところは、さすがは大人の女性だなぁと思う。
「……あの、日向様」
「何だろう?」
「あなたのことは真守さんから聞いています。調査のことで真守さんに話したいことがあれば、これからお屋敷に来ていただけませんか? いつまでもここにいては、Cherryに警戒されてしまうかもしれません」
確かに、くるみさんの言う通りだ。もしかしたら、Cherryは今も俺達のことをどこかで見ているかもしれない。桜さんは監視カメラのことなどについて調査に来た。そのことについて話すのであればお屋敷の方がいい。
「俺からもお願いします。お嬢様もそれでいいですよね?」
「……私はかまわないわ」
お嬢様のその声は少し震えていた。どうしたんだろう、本当に。桜さんがここに来てからずっとこんな感じだ。
「それではお言葉に甘えて。その服装からして、あなたはメイドの……」
「はい。九条家のメイドの夏八木くるみと申します。今年で19になります。あと、運転免許はちゃんと取っていますので、私の運転するリムジンでご案内しますね」
「どうもありがとう。それにしても……わ、若いな」
引きつった表情になる桜さんの反応を見る限り、くるみさんがもっと自分に近い年齢だと思っていたみたいだ。
「一緒に来ている部下に連絡するよ。ちょっと待ってて」
桜さんはスマートフォンを取り出して電話をする。
「お嬢様、リムジンに入っていてください。俺が監視していますから」
「……うん」
お嬢様がリムジンの中に入ったことを確認し、扉を一度閉めた。
「……お嬢様、桜さんが来てからずっと恐がっていましたね。こんなことって今までもあったんですか? 例えばCherryからの手紙を見つけた日とか」
「不安そうにはしていましたけれど、SPをつければいいだけのことだとすぐに普段通りの様子になっていました。今のように恐がっているのを見たのは私も初めてです」
「そうですか……」
もしかしたら、昨日のことがきっかけにCherryのことを怖がり始めたのかもしれない。昨日は俺がターゲットだったみたいだけど、自分にも身の危険が迫っていることを思い知らされたのだから。
でも、それならお花見パーティーに行くことにあそこまで楽しみにできるだろうか。例え、潤井さんの前でも。
あと、気になるのは桜さんのことを見ようとしなかったことだ。桜さんはお嬢様のことを守ってくれる立場の人間。いつもは強気なお嬢様があんな態度を見せるのは、桜さんか警察に対して何かあるのかもしれない。示談が成立したとはいえ、九条家には数年前の耐震強度偽装があったからかな。
「部下には連絡しておいた」
「それでは、日向様は助手席に乗っていただけますか? 後ろですと真守さんが女性に挟まれてしまってまずいことになってしまうので」
「……ああ、女性恐怖症の症状が出てしまうのか。それじゃ仕方ないな。分かった、夏八木さんの言うとおり、助手席に乗せてもらうことにするよ」
「すみません、桜さん」
「いいんだよ。こればっかりはしょうがないことだ」
桜さんは爽やかな笑みを浮かべ、助手席の扉を開いて中に入った。
俺も中に入り、お嬢様の隣に座る。お嬢様は窓から外を見ていた。こちらの方を向くと桜さんのことが視界に入ってしまうからだろうか。
それから程なくして、リムジンはお屋敷に向かって走り始めた。
「……あの、桜さん」
「何かな? 真守君」
「……これは俺の想像ですが、監視カメラや入校の記帳には特に怪しいことはなかったんじゃないですか? だから、くるみさんの提案に従った。違いますか?」
俺の指摘に対して、桜さんはふっ、と小さくため息を笑いながらついた。
「……その通り。怪しそうな映像でもあれば、すぐに署に戻って、今頃、鑑識からの分析結果を待っているところだよ。そして、君にその旨を連絡しているさ。あと、怪しそうな人間が入校していた記録は一切なかった」
「では、あの写真はスマートフォンなどで送られたと考えて間違いなさそうですね」
「そうだな」
昨日の段階で、有力な情報を得られる可能性は低いと考えていたから、こうなることも想定済みだった。
「あとは部下に任せて、私はこれで上がりなんだけどね」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
「いやいや、真守君に比べれば私なんて。特に有益な情報は得られなかったからね」
「そういえば、都築さんに昨日のことを聞きに行ったんですよね」
「ああ。そのことについては午前中にメールで伝えた通りだ。あの場にいたことは認めたけど、それはたまたま名栗に襲われている君を見かけたからだと誤魔化された」
桜さんは大きなため息をつく。都築さんに理由を適当にごまかされただけではなく、色々とからかわれたみたいだから、ため息をついてしまうのも当然か。
「まさか、一回りも下の女にからかわれるとは思わなかったよ。……警察舐めんじゃねえよ、まったく」
ちっ、と桜さんは舌打ちする。
ミラー越しに桜さんのことを見るけれど、彼女の眼は殺気に満ちていた。どうやら、都築さんにからかわれたことを根に持っているようだ。このことについて触れることはやめておこう。
「しかし、私達に見られたことに気付いた凛様はすぐに逃げていきましたよね。たまたま見かけたとは考えにくいと思います」
「私も夏八木さんと同じように考えている。何か有力な情報を掴んだら、今度は本当のことを言わせてやる。警察を敵に回すと恐ろしいことになるということを教えてやらないと。それが大人としての務めだ。あの小娘、覚悟しておくんだな……」
「違法なことはしないでくださいね。法治国家の下で働く刑事さんがそんなことをしてしまったら何の意味もありませんから」
「……そうだな」
桜さんを簡単に納得させてしまうとは凄いな、くるみさん。それを笑顔のままやってしまうところが凄い。
「しかし、彼女はどうしてあの場にいたのか……」
「俺も訊いたんですけど、都築さんは俺のことが気になるからだと言っていました」
「真守君のことが気になるかぁ。3年前のことが関係しているのかな」
「さぁ、どうなんでしょう。でも、彼女と接触の機会があったのは3年前しかありませんから、その可能性は高そうですね」
だけど、そうなるとどうして3年経った今になって、俺に接触することを試み始めたのか。今までも、そのチャンスはいくらでもあったはずなのに。お嬢様のSPになって、宝月学院に同行し始めたからだろうか。
「そろそろお屋敷に到着しますよ。帰ったら昼食の予定なので、日向様も一緒にどうですか?」
「……それは有り難い。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「午後に何も予定がなければ、お茶でも飲んでゆっくりしていってください」
「……九条さんさえ良ければね。彼女、どうやら私のことを警戒しているようだから」
桜さん、お嬢様の様子を気にしていたんだ。怯えている原因が自分に関係していることも分かってしまうんだな。
当の本人であるお嬢様は窓からの景色を見て、ときどき桜さんの方に視線を向けている。
「大丈夫だよ。数年前の九条建設の問題について言及するつもりはない。今回の件で九条建設が関わっている可能性は低そうだからね」
「……べ、別にあなたには警戒していないですよ。そう見えるのはCherryに対して警戒しているからです。是非、お屋敷でゆっくりしていってください。真守が3年前の事件でお世話になった方ですし」
お嬢様がそう言うと、桜さんはこちらの方に振り返り、
「ありがとう、九条さん。お言葉に甘えさせてもらうよ」
優しい笑顔でお嬢様にそう言う。
しかし、お嬢様は桜さんの方をちらっと見て軽く頷くと、再び窓の外を見てしまうのであった。
「学校お疲れ様です、由衣様、真守さん」
くるみさんは九条家のリムジンの前で俺達のことを待っていた。
「さあ、さっそく帰りましょう」
「そうね」
俺がリムジンの後部座席の扉を開け、お嬢様が車の中に入ろうとしたときだった。
「真守君!」
桜さんの声が聞こえた。
すぐさま周りを見渡すと、校門の方からスーツ姿の桜さんがこちらに向かって歩いてくる。俺と目が合うと、桜さんは笑顔で手を振ってくる。そのせいか、下校途中の生徒から注目を浴びてしまう。
「続々と下校してくる生徒がいるからもしやと思ったけど、ここで会えたね」
「とか言いながら、俺達が校舎から出るのを待っていたんじゃないですか?」
「ははっ、その通りだよ。せっかくここに来たから真守君や九条さんに会いたいと思って」
「なるほど。桜さんが宝月学院に足を運んでいるということは、例のことについて捜査していたんですか?」
「ああ、その通りだよ。……ところで、隣にいるこちらの女の子が九条由衣さんかな? 可愛いお嬢様だね」
「は、初めまして。九条由衣です」
さすがのお嬢様も警察官を目の前にすると緊張してしまうようだ。桜さんに視線を向けようとしていない。
「初めまして、日向桜です。警察官をしていて金原警察署に勤めています。もしかしたら、真守君から話を聞いているかもしれないけど、彼とは以前からの知り合いだよ」
「3年前の事件を担当した刑事さんですよね。真守から聞きました」
「その通り。そして、昨日……彼が名栗に襲われた事件を担当することになった。君の命を狙うCherryについても知っているよ」
「そ、そうですか……」
お嬢様、不安そうな表情になって体を震わせている。昨日のことを思い出してしまったのかな。それとも、桜さんが単に恐いだけか。
「私は真守君が思っているような恐い人じゃないよぉ」
「……あなたの勘は冴えすぎですよ」
やっぱり、恐ろしい人だ。
でも、怯えているお嬢様を見たのは初めてだ。桜さんのことを意図的に見ないようにしているみたいだし、本当に彼女のことを恐いと思っているのか?
「……まあ、Cherryから命を狙われている身だ。真守君がSPとして守ってくれていても怖がってしまうのは仕方ないことだよ。でも、私達警察も九条さんのことをCherryから守ることに尽力するつもりさ」
「あ、ありがとうございます……」
お嬢様は笑みを見せるけれど、それは明らかに作り笑顔であることが分かる。やっぱり、Cherryに命を狙われていることに怯えているのかな。
そんなお嬢様のことを桜さんはずっと笑顔で見ていた。こういうところは、さすがは大人の女性だなぁと思う。
「……あの、日向様」
「何だろう?」
「あなたのことは真守さんから聞いています。調査のことで真守さんに話したいことがあれば、これからお屋敷に来ていただけませんか? いつまでもここにいては、Cherryに警戒されてしまうかもしれません」
確かに、くるみさんの言う通りだ。もしかしたら、Cherryは今も俺達のことをどこかで見ているかもしれない。桜さんは監視カメラのことなどについて調査に来た。そのことについて話すのであればお屋敷の方がいい。
「俺からもお願いします。お嬢様もそれでいいですよね?」
「……私はかまわないわ」
お嬢様のその声は少し震えていた。どうしたんだろう、本当に。桜さんがここに来てからずっとこんな感じだ。
「それではお言葉に甘えて。その服装からして、あなたはメイドの……」
「はい。九条家のメイドの夏八木くるみと申します。今年で19になります。あと、運転免許はちゃんと取っていますので、私の運転するリムジンでご案内しますね」
「どうもありがとう。それにしても……わ、若いな」
引きつった表情になる桜さんの反応を見る限り、くるみさんがもっと自分に近い年齢だと思っていたみたいだ。
「一緒に来ている部下に連絡するよ。ちょっと待ってて」
桜さんはスマートフォンを取り出して電話をする。
「お嬢様、リムジンに入っていてください。俺が監視していますから」
「……うん」
お嬢様がリムジンの中に入ったことを確認し、扉を一度閉めた。
「……お嬢様、桜さんが来てからずっと恐がっていましたね。こんなことって今までもあったんですか? 例えばCherryからの手紙を見つけた日とか」
「不安そうにはしていましたけれど、SPをつければいいだけのことだとすぐに普段通りの様子になっていました。今のように恐がっているのを見たのは私も初めてです」
「そうですか……」
もしかしたら、昨日のことがきっかけにCherryのことを怖がり始めたのかもしれない。昨日は俺がターゲットだったみたいだけど、自分にも身の危険が迫っていることを思い知らされたのだから。
でも、それならお花見パーティーに行くことにあそこまで楽しみにできるだろうか。例え、潤井さんの前でも。
あと、気になるのは桜さんのことを見ようとしなかったことだ。桜さんはお嬢様のことを守ってくれる立場の人間。いつもは強気なお嬢様があんな態度を見せるのは、桜さんか警察に対して何かあるのかもしれない。示談が成立したとはいえ、九条家には数年前の耐震強度偽装があったからかな。
「部下には連絡しておいた」
「それでは、日向様は助手席に乗っていただけますか? 後ろですと真守さんが女性に挟まれてしまってまずいことになってしまうので」
「……ああ、女性恐怖症の症状が出てしまうのか。それじゃ仕方ないな。分かった、夏八木さんの言うとおり、助手席に乗せてもらうことにするよ」
「すみません、桜さん」
「いいんだよ。こればっかりはしょうがないことだ」
桜さんは爽やかな笑みを浮かべ、助手席の扉を開いて中に入った。
俺も中に入り、お嬢様の隣に座る。お嬢様は窓から外を見ていた。こちらの方を向くと桜さんのことが視界に入ってしまうからだろうか。
それから程なくして、リムジンはお屋敷に向かって走り始めた。
「……あの、桜さん」
「何かな? 真守君」
「……これは俺の想像ですが、監視カメラや入校の記帳には特に怪しいことはなかったんじゃないですか? だから、くるみさんの提案に従った。違いますか?」
俺の指摘に対して、桜さんはふっ、と小さくため息を笑いながらついた。
「……その通り。怪しそうな映像でもあれば、すぐに署に戻って、今頃、鑑識からの分析結果を待っているところだよ。そして、君にその旨を連絡しているさ。あと、怪しそうな人間が入校していた記録は一切なかった」
「では、あの写真はスマートフォンなどで送られたと考えて間違いなさそうですね」
「そうだな」
昨日の段階で、有力な情報を得られる可能性は低いと考えていたから、こうなることも想定済みだった。
「あとは部下に任せて、私はこれで上がりなんだけどね」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
「いやいや、真守君に比べれば私なんて。特に有益な情報は得られなかったからね」
「そういえば、都築さんに昨日のことを聞きに行ったんですよね」
「ああ。そのことについては午前中にメールで伝えた通りだ。あの場にいたことは認めたけど、それはたまたま名栗に襲われている君を見かけたからだと誤魔化された」
桜さんは大きなため息をつく。都築さんに理由を適当にごまかされただけではなく、色々とからかわれたみたいだから、ため息をついてしまうのも当然か。
「まさか、一回りも下の女にからかわれるとは思わなかったよ。……警察舐めんじゃねえよ、まったく」
ちっ、と桜さんは舌打ちする。
ミラー越しに桜さんのことを見るけれど、彼女の眼は殺気に満ちていた。どうやら、都築さんにからかわれたことを根に持っているようだ。このことについて触れることはやめておこう。
「しかし、私達に見られたことに気付いた凛様はすぐに逃げていきましたよね。たまたま見かけたとは考えにくいと思います」
「私も夏八木さんと同じように考えている。何か有力な情報を掴んだら、今度は本当のことを言わせてやる。警察を敵に回すと恐ろしいことになるということを教えてやらないと。それが大人としての務めだ。あの小娘、覚悟しておくんだな……」
「違法なことはしないでくださいね。法治国家の下で働く刑事さんがそんなことをしてしまったら何の意味もありませんから」
「……そうだな」
桜さんを簡単に納得させてしまうとは凄いな、くるみさん。それを笑顔のままやってしまうところが凄い。
「しかし、彼女はどうしてあの場にいたのか……」
「俺も訊いたんですけど、都築さんは俺のことが気になるからだと言っていました」
「真守君のことが気になるかぁ。3年前のことが関係しているのかな」
「さぁ、どうなんでしょう。でも、彼女と接触の機会があったのは3年前しかありませんから、その可能性は高そうですね」
だけど、そうなるとどうして3年経った今になって、俺に接触することを試み始めたのか。今までも、そのチャンスはいくらでもあったはずなのに。お嬢様のSPになって、宝月学院に同行し始めたからだろうか。
「そろそろお屋敷に到着しますよ。帰ったら昼食の予定なので、日向様も一緒にどうですか?」
「……それは有り難い。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「午後に何も予定がなければ、お茶でも飲んでゆっくりしていってください」
「……九条さんさえ良ければね。彼女、どうやら私のことを警戒しているようだから」
桜さん、お嬢様の様子を気にしていたんだ。怯えている原因が自分に関係していることも分かってしまうんだな。
当の本人であるお嬢様は窓からの景色を見て、ときどき桜さんの方に視線を向けている。
「大丈夫だよ。数年前の九条建設の問題について言及するつもりはない。今回の件で九条建設が関わっている可能性は低そうだからね」
「……べ、別にあなたには警戒していないですよ。そう見えるのはCherryに対して警戒しているからです。是非、お屋敷でゆっくりしていってください。真守が3年前の事件でお世話になった方ですし」
お嬢様がそう言うと、桜さんはこちらの方に振り返り、
「ありがとう、九条さん。お言葉に甘えさせてもらうよ」
優しい笑顔でお嬢様にそう言う。
しかし、お嬢様は桜さんの方をちらっと見て軽く頷くと、再び窓の外を見てしまうのであった。
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