桜庭かなめ

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特別編-Green Days-

第4話『Φ』

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 ベッドの上で横にさせていると、沙奈会長は20分ほどで元気を取り戻した。

「玲人君、一緒にお風呂に入ろう!」
「いいですけど、すぐに入っちゃって大丈夫ですかね」
「大丈夫だよ。それに、いざとなったらシャワーで冷たい水をかければいいんだし」
「そ、そういうものなんですかね。僕も気に掛けますけど、沙奈会長も無理はしないでくださいね」
「……うん、分かったよ。髪と体を隅から隅まで洗いますね、ご主人様」

 楽しそうに笑いながらそう言う沙奈会長を見て、彼女の体調を心配する必要はないのかなと思った。
 僕は沙奈会長と一緒にお風呂に入ることに。うちの浴室よりも広くて、湯船もゆったりとしている感じがする。

「さあ、玲人君。さっそく髪から洗おうか」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「うん。玲人君が気持ち良くなれるように精一杯、愛情を込めて洗うからね……」
「普通に洗ってくれれば十分ですからね」

 鏡に映る沙奈会長のうっとりとした姿を見ると不安な気持ちになるな。そんな心境の中、僕は彼女に髪と体を洗ってもらうことに。
 沙奈会長が普段使っているシャンプーやボディーソープだからか、何だか親しみのある甘い匂いが浴室内に広がっていく。そのおかげか、ほっこりとした気分になれて、沙奈会長の洗い方が上手なのでとても気持ちがいい。
 特に何か変なことをされることもなく、沙奈会長に髪と体を洗ってもらった。僕は湯船に浸かって会長が髪と体を洗う姿を眺めることに。

「玲人君と一緒にうちのお風呂に入るときが来るなんてね。あなたに一目惚れをした直後に抱いた夢がまた1つ叶っちゃった」
「それは良かったですね」
「うん。まだまだ玲人君と叶えたい夢があるから頑張らないと。そういえば、玲人君。思いの外、今の私のことをちゃんと見てくれるんだね。慣れてきた?」
「まあ、沙奈会長とは色々なことをしていますからね。多少は慣れました。でも、とても綺麗ですし、結構ドキドキしているんですよ。沙奈会長の色々な姿を見たくて。それに、このシャンプーやボディーソープの甘い匂い。沙奈会長に包まれている感じがして幸せな気分ですよ」
「そ、そっか。玲人君が本音をたくさん言ってくれて嬉しいよ。私もドキドキするけど、玲人君の色々な姿を見たい。あとで楽しみにしていてね」
「ええ」

 沙奈会長に浸りすぎて、ご家族に迷惑を掛けないように気を付けないと。
 それから程なくして、沙奈会長は髪と体を洗い終わり、僕と一緒に湯船に浸かることに。

「あぁ、気持ちいい」
「気持ちいいですね。2人で入るとちょうどいい感じがします」
「そうだね。玲人君と一緒なら、もうちょっと狭くてもいいって思うけど。そういえば、さっきからずっと肩まで浸かっているけど大丈夫? のぼせない?」
「ええ、大丈夫ですよ。湯船に浸かるのは大好きですから」
「そうなんだ。そういえば、旅行に行ったときも温泉や部屋のお風呂にたくさん入っていたもんね。気持ち良さそうにしていたし」

 熱帯夜になるほどの日じゃなければ、結構長めに湯船に浸かることが多い。普段、僕が最後にお風呂に入るというのもあるけども。

「ねえ、玲人君」
「何ですか?」
「もし、私達が離ればなれになったらどうする?」
「突然、何を寂しいことを訊くんですか。まさか、沙奈会長もどこかに転校や留学の予定があったりするんですか?」
「ううん、そんな話は一つもないよ。ただ、咲希先輩が転校するって話を聞いたときに、玲人君と私のどっちかが、月野市から離れることになったらどうなるのかなと思って」
「ああ、そういうことでしたか」

 温かい湯船に浸かっているのに、一瞬寒気がしてしまったよ。もしもの話であることが分かってほっと胸を撫で下ろす。
 僕か沙奈会長のどちらかが転校するようになったら、か。

「さっき言ったように寂しくなりますね。好きな人と離れてしまうんですから。僕はこの春に月野市に引っ越してきましたけど、事件の影響があったのでそこまで寂しい想いはしませんでした。琴葉も意識不明のままでしたから。むしろ、琴葉のお見舞いに行きやすくなって良かったくらいです」
「なるほどね」
「琴葉にとっては、僕が月野市に引っ越していたことが分かって寂しい想いを抱いたことでしょう。今も、ふと寂しくなるときがあるかもしれない。ただ、琴葉とはいつでも連絡が取り合えて、ゴールデンウィークのように長い休みには会える。もし、僕らが離れてしまったときも、そんな感じに過ごしていければいいのかなと思います」
「うん、そうだね」
「2年後には沙奈会長は卒業ですからね。学年が違うので仕方ないですけど、その1年間は休日とかに会いましょうね。そのとき、僕は受験勉強で大変かもしれませんが」
「……そうだった。私達は学年が違うから、いずれは同じ学校生活を送ることができなくなっちゃうんだ……」

 すると、沙奈会長は急に悲しげな表情を見せる。まさか、今までそういうことを全然考えていなかったのか。ただ、沙奈会長ってどんな状況になろうとも、僕と会う時間を定期的に作りそうな気がするよ。

「私、一度留年しないといけないね……」
「ダメですって! 生徒会長としても、しっかりと勉強して、進級や進学をしてください」
「じゃあ、玲人君が飛び級すれば……」
「うちの高校にはそんな制度はないんじゃないでしょうか」
「ううっ……」

 沙奈会長、凄く悔しそう。こればかりは仕方のないことだ。

「……これは学年が違うカップルが通らなきゃいけない道だよね。じゃあ、大学は共学のところに行くから、別の学部や学科でもいいから同じ大学に来てくれると嬉しいな。もちろん、玲人君の行きたい大学があればそれを応援するから」
「ありがとうございます。なるべく、沙奈会長と一緒に過ごせるように考えますね。ただ、順番的には沙奈会長が先ですよ。あと、頑張ったけれど浪人になってしまったのなら仕方ないですが、僕と一緒に4年間キャンパスライフを過ごしたいから、わざと浪人になるってことだけは止めてくださいね」
「そんなことないって。まあ。それもありかなと思ったけれど……」

 あははっ、と沙奈会長は苦笑い。やっぱり浪人のことを考えていたのか。彼女の頭の良さを維持できれば、どこか大学には合格できるんじゃないかと思う。

「ただ、玲人君が寂しいって言ってくれるなんてね。本当に嬉しいよ。2年後、私が卒業しても積極的に玲人君に会いに行くからね!」
「……楽しみにしていますよ」
「うん!」

 すると、沙奈会長はいつもの可愛らしい笑みを浮かべて、僕のことをそっと抱きしめる。その流れてキスを交わす。

「会ったときにはこうして口づけをして、たまには……その先も、ね?」
「そうですね」
「……そろそろお風呂から上がろうか。それで、部屋に戻ったらさ……」
「はいはい。離れるとかそういう話をしたら、沙奈会長と色々なことをしたくなってきましたよ」
「ふふっ、玲人君も意外と変態だよね」
「どうでしょうね。ただ、会長ほどではないのは確かだと思います」
「確かに、玲人君は毎晩、私のことでそこまで妄想はしてなさそうだもんね。ちなみに、私はたくさんしてる。だから、玲人君と離れるのが本当に嫌だなぁって。玲人君、かっこよくて素敵な人だから、私が卒業した後とかに取られそうで。万が一、そうなったときは色々とやらなきゃいけないことがあるな……」
「そんな事態にはなりませんから安心してください」
「分かった。約束だからね」
「ええ」

 僕は沙奈会長のことを抱きしめ、キスをする。
 当たり前だけど、沙奈会長は僕よりも先に卒業して、別々の学校生活を送らなければいけない。沙奈会長を不安にさせないようにしないと。
 それから程なくして、僕と沙奈会長はお風呂から出る。
 沙奈会長の部屋に戻ると、僕らはベッドに直行して深く愛情を確かめ合うことに。お風呂に入っているときよりも体が熱くなったような気がした。

「今日も気持ち良かった」
「それなら良かったです」
「でも、真奈の部屋が隣だから、声を抑えるのに必死だったよ。それなのに、玲人君……私の両手をぎゅっと掴んだり、弱いところをくすぐったりしちゃってさ。玲人君のドS」
「会長があまりにも可愛かったので、つい」

 これまで沙奈会長から色々とされたことへの仕返しというのもちょっとある。ただ、99%は沙奈会長が可愛かったから。ちなみに、普段ほどじゃないけれど、沙奈会長はたまに大きな声が出てしまっていた。

「玲人君に色々とされるのは嫌じゃないからいいけれどね。明日は樹里先輩のお家に行くからそろそろ寝ようか」
「そうですね。Blu-rayは観ましたけど、アリシアの衣装がどんな感じになっているのか気になりますね。あとは有村さんがどういう方なのかも」
「素敵な女性だよ。だから、ちゃんと私が監視していないと」
「そこはちゃんと信頼してくれてもいい気がしますけどね。ただ、沙奈会長が側にいれば大丈夫だと思います」
「ふふっ、そうだね。じゃあ、おやすみなさい、玲人君」
「はい、おやすみなさい」

 おやすみのキスをして、僕は初めて沙奈会長のベッドで一緒に眠ることに。
 今までで一番、沙奈会長の甘い匂いや温もりを感じているかもしれない。彼女の可愛らしい寝顔を見ながらそんなことを思ったのであった。
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