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第13話『キャンパス-中編-』
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桜海大学。
桜海市にある国公立大学であり、文学部、法学部、経済学部、経営学部、商学部、家政学部などの文系の学部が揃っている。地方の大学であり文系学部のみでながら、志願者数や入学者数を着実に伸ばしており、学生や教授の論文がいくつもの学会で賞をもらったりするなど、人気も評判も高い大学である。
昨日、ネットで調べてみるとそれぞれの学部のカリキュラム以外にも、キャンパスなどの施設の良さや、就職活動や研究についてもしっかりとサポートされることなども人気の要因なのだそうだ。
今、鈴音さんの案内でキャンパスの中を歩いているけど、結構いい雰囲気だ。去年、人がたくさんいる中で歩いたこともあってか、とても開放的な感じがする。
「去年とはずいぶん雰囲気が違う感じだね、つーちゃん」
「そうだね」
明日香も同じことを考えていたか。授業のある時期は開放しているそうだけど、キャンパスに来ないかと誘ってくれた鈴音さんには感謝だな。
「この棟は主にあたしの所属する文学部関連の教室が集まっていて、文学部の講義はだいたいこの棟にある教室で受けるんだよ。学年が上がってゼミに所属している生徒は、ゼミ室で教授やゼミメンバーと一緒に卒業論文の執筆をしたりするの」
「そうなんですね。じゃあ、もし入学したら、あたしもこの棟に通うんですね」
「うん。学科問わず受講できる講義もあって、もちろんそこには咲希ちゃんが目指している語学科の生徒もいるよ」
「へえ……」
さすがに、桜海大学を第一志望にしているだけあって咲希は積極的に質問しているな。
「素敵なところだ……」
そんなに多くはないけれど、女子学生とすれ違うときがあるのでその度に羽村は興奮している。
「あっ、ここ……今、講義で使っていないね。みんな、ここが講義室だよ」
鈴音さんは僕らを部屋の中に入れてくれた。
その部屋とは階段教室。いかにも大学らしいと言える場所だ。講義には使っていないそうだけど、何人かの学生さんがいるな。去年の説明会のときの部屋かどうかは分からないけれど、あのときよりも広く感じる。
「あっ、鈴音ちゃん! 今日って鈴音ちゃんも講義あるの?」
「ううん、桜海で知り合った高校生の子達に大学を案内してるんだ」
「そうなんだ! みんな、どこでもいいから、桜海大学に興味があったら是非来てね!」
「はーい! 文学部受けるつもりです!」
鈴音さんの知り合いらしき女子学生に、咲希が元気に答えた。それが嬉しかったのか、その女子学生は隣にいる学生とはしゃいでいる様子だ。
「彼女は英文学科でね。学科は違うんだけど、共通の科目を一緒に受けたことがきっかけで知り合ってね。あと、料理サークルで一緒になって友達になったの」
「サークル仲間だったんですか。バイトでは料理やスイーツを作るとすぐに覚えますけど、料理サークルに入っていたからなんですね」
「小さい頃から料理やスイーツを作るのは好きだからね。だから、料理サークルにも入ったし、あの喫茶店でバイトを始めたんだ。まあ、バイトは家からも近いのもあるけれど」
好きなことを活かせるというのはいいことだよな。それを通じて友人ができるというのも幸せなことだと思っている。
「鈴音さん。ここで講義を受けるんですね」
「そうだよ、明日香ちゃん。こういう階段教室はいくつかあってね。主に、学科や学年を問わず受講することができる科目に使われるの。だから、大人数で講義を受けるんだ。このホワイトボードに板書する先生もいれば、パソコンで作った講義資料をこのスライドや、真ん中らへんに設置されているモニターに表示させて講義を進める先生もいるんだ」
「そういえば、去年、つーちゃんと一緒に説明会を受けたときも、モニターに資料が表示されていました!」
「そうだったんだね。ちなみに、こういう階段教室以外にも、高校の教室みたいな部屋もあって。例えば、国文学科の生徒だけ受ける科目や、実力テストの成績でクラス分けされた英語の科目とかに使うかな。あとは、受講人数が思いの外少なかった講義とか」
つまり、受講人数に応じて、受講する教室の大きさも変わってくるのか。それが大学ならではって感じなのかな。
「じゃあ、基本的に講義ごとに移動するってことですね」
「そうなるね、翼君。今みたいに講義がない教室は、生徒が自由に使っていいことになっていて、飲食をしてもかまわないことになっているの。たまに鍵が閉まっているときもあるけどね」
それは高校と同じような感じか。さっき鈴音さんに声をかけた学生さんもリラックスしていたもんな。
「じゃあ、他のところも回ってみよっか」
その後も、鈴音さんの案内でキャンパス巡りを行なう。図書館や体育館、家政学部の授業や料理サークルでも利用するという調理室、就活などで利用するキャリアセンター、サークルや部活の活動室が集まっている部室棟など。去年のオープンキャンパスでは行けなかったところをたくさん連れて行ってもらった。
様々な施設が揃っているのは凄いけど、敷地が広いので結構な距離を歩いていると思う。いい運動になっている気がする。
「色々と案内してきたけど、どうかな?」
「素敵なところだと思います! 今まで以上にこの大学でキャンパスライフを送りたい気持ちが強まりました! 翼達と進学できればより嬉しいな……って」
「咲希ちゃんがそう言ってくれると嬉しいよ。翼君達は?」
「ゆっくりとキャンパスの中を見せてもらえたので、去年のオープンキャンパスよりも好感度がアップした感じですね。今日はありがとうございます」
これも、在学生である鈴音さんが案内してくれたからこそだと思うから。
「私もつーちゃんと一緒です。部活で絵を描いているので芸術系に進むかまだ迷っているんですけど、文系の方に進むなら桜海大学にしようかなって」
「おっ、案内した甲斐があった。羽村君は?」
「これまでは東京の方ばかり考えていましたけど、法学部や経済学部もあるここも選択肢に入れてもいいかもしれない……という感じです。もらったパンフレットをさっと見たのですが、様々なところでしっかりとしているようですし」
「ふふっ、そっか。少しでも選択肢に浮かぶ可能性があるだけでも嬉しいよ」
進路の話になると決まって東京の大学と言っていた羽村がそう言うなんて。
確かに、パンフレットを見ると、勉強はもちろん学生生活のサポートもしっかりしているみたいだ。あと、女子大生達が仲良くしている場面を何度も目撃したことも影響しているんじゃないだろうか。
――ぐううっ。
誰かのお腹が盛大に鳴る。
周りを見ると、羽村がお腹に手を当てながら笑っていた。
「いやぁ、さすがに大学のキャンパスは広い。そんなところをたくさん歩いたからか、お腹が減ってしまったな。アニメや漫画のイベントならここで栄養補助食品を食べるのだが。今日は持っていないのだよ」
そういえば、アニメや漫画のイベントに行くと長蛇の列に並ぶことも多くて、羽村はお腹が空くと栄養補助食品を食べていたっけ。
「もう1時近くだね。じゃあ、これから食堂に行こうか。もちろん、一般の方が利用しても大丈夫なところだから」
「やった! 実はあたしもお腹ペコペコで。一瞬、羽村君じゃなくてあたしのお腹が鳴ったかと思いましたから」
「ふふっ、いっぱい歩いたもんね、咲希ちゃん。じゃあ、食堂に行こう!」
僕らは鈴音さんについていく形で食堂へと向かう。
午後1時という時間なのか、それともお昼休みの時間なのか食堂にはそれなりに人がいて賑わっていた。ただ、僕ら5人が座れる場所もあるので一安心。
「キャンパスが広いからいくつもあるけど、ここが一番大きい食堂なんだ。あたしも友達と一緒にここで食べているの。学校の食堂ということもあってか、ボリュームもあるけどリーズナブルな値段で食べられるんだ」
それは学生さんにとって嬉しいな。見てみると、大柄の男子学生が大盛りのご飯をモリモリと食べている。美味しそうに食べているその姿を見るとこっちまで食欲が湧いてくる。
「この食堂はビュッフェ方式なの。ただ、丼ものやカレー、定食、麺類を食べたいときはそれぞれのコーナーに並んで、食堂の方に食べたいものを言うの」
「そうなんですね」
確かに、自由におかずやサラダを取っている学生さんがいるな。奥には麺類だろうか。長めの列ができている。どうやら種類はかなり豊富そうだ。これなら、毎日ここの食堂で食べても飽きなさそう。
「ねえ、つーちゃん。あれって松雪先生じゃない?」
「……あっ」
明日香が指さした先にワイシャツ姿の松雪先生がいた。さすがに周りの学生さんよりも大人な雰囲気があるな。
「里奈先生!」
咲希が大きめの声で松雪先生の名前を言うと、先生は驚いた様子でキョロキョロとしていた。ただ、それもほんの少しの間のことで、僕らのことを見つけるとクスクスと笑いながらこちらにやってきた。
「まさか、ここであなた達と会うなんてね。咲希ちゃんに言うのは初めてかな。私、ここの文学部国文学科のOGなんだ」
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「去年とはずいぶん雰囲気が違う感じだね、つーちゃん」
「そうだね」
明日香も同じことを考えていたか。授業のある時期は開放しているそうだけど、キャンパスに来ないかと誘ってくれた鈴音さんには感謝だな。
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「そうなんですね。じゃあ、もし入学したら、あたしもこの棟に通うんですね」
「うん。学科問わず受講できる講義もあって、もちろんそこには咲希ちゃんが目指している語学科の生徒もいるよ」
「へえ……」
さすがに、桜海大学を第一志望にしているだけあって咲希は積極的に質問しているな。
「素敵なところだ……」
そんなに多くはないけれど、女子学生とすれ違うときがあるのでその度に羽村は興奮している。
「あっ、ここ……今、講義で使っていないね。みんな、ここが講義室だよ」
鈴音さんは僕らを部屋の中に入れてくれた。
その部屋とは階段教室。いかにも大学らしいと言える場所だ。講義には使っていないそうだけど、何人かの学生さんがいるな。去年の説明会のときの部屋かどうかは分からないけれど、あのときよりも広く感じる。
「あっ、鈴音ちゃん! 今日って鈴音ちゃんも講義あるの?」
「ううん、桜海で知り合った高校生の子達に大学を案内してるんだ」
「そうなんだ! みんな、どこでもいいから、桜海大学に興味があったら是非来てね!」
「はーい! 文学部受けるつもりです!」
鈴音さんの知り合いらしき女子学生に、咲希が元気に答えた。それが嬉しかったのか、その女子学生は隣にいる学生とはしゃいでいる様子だ。
「彼女は英文学科でね。学科は違うんだけど、共通の科目を一緒に受けたことがきっかけで知り合ってね。あと、料理サークルで一緒になって友達になったの」
「サークル仲間だったんですか。バイトでは料理やスイーツを作るとすぐに覚えますけど、料理サークルに入っていたからなんですね」
「小さい頃から料理やスイーツを作るのは好きだからね。だから、料理サークルにも入ったし、あの喫茶店でバイトを始めたんだ。まあ、バイトは家からも近いのもあるけれど」
好きなことを活かせるというのはいいことだよな。それを通じて友人ができるというのも幸せなことだと思っている。
「鈴音さん。ここで講義を受けるんですね」
「そうだよ、明日香ちゃん。こういう階段教室はいくつかあってね。主に、学科や学年を問わず受講することができる科目に使われるの。だから、大人数で講義を受けるんだ。このホワイトボードに板書する先生もいれば、パソコンで作った講義資料をこのスライドや、真ん中らへんに設置されているモニターに表示させて講義を進める先生もいるんだ」
「そういえば、去年、つーちゃんと一緒に説明会を受けたときも、モニターに資料が表示されていました!」
「そうだったんだね。ちなみに、こういう階段教室以外にも、高校の教室みたいな部屋もあって。例えば、国文学科の生徒だけ受ける科目や、実力テストの成績でクラス分けされた英語の科目とかに使うかな。あとは、受講人数が思いの外少なかった講義とか」
つまり、受講人数に応じて、受講する教室の大きさも変わってくるのか。それが大学ならではって感じなのかな。
「じゃあ、基本的に講義ごとに移動するってことですね」
「そうなるね、翼君。今みたいに講義がない教室は、生徒が自由に使っていいことになっていて、飲食をしてもかまわないことになっているの。たまに鍵が閉まっているときもあるけどね」
それは高校と同じような感じか。さっき鈴音さんに声をかけた学生さんもリラックスしていたもんな。
「じゃあ、他のところも回ってみよっか」
その後も、鈴音さんの案内でキャンパス巡りを行なう。図書館や体育館、家政学部の授業や料理サークルでも利用するという調理室、就活などで利用するキャリアセンター、サークルや部活の活動室が集まっている部室棟など。去年のオープンキャンパスでは行けなかったところをたくさん連れて行ってもらった。
様々な施設が揃っているのは凄いけど、敷地が広いので結構な距離を歩いていると思う。いい運動になっている気がする。
「色々と案内してきたけど、どうかな?」
「素敵なところだと思います! 今まで以上にこの大学でキャンパスライフを送りたい気持ちが強まりました! 翼達と進学できればより嬉しいな……って」
「咲希ちゃんがそう言ってくれると嬉しいよ。翼君達は?」
「ゆっくりとキャンパスの中を見せてもらえたので、去年のオープンキャンパスよりも好感度がアップした感じですね。今日はありがとうございます」
これも、在学生である鈴音さんが案内してくれたからこそだと思うから。
「私もつーちゃんと一緒です。部活で絵を描いているので芸術系に進むかまだ迷っているんですけど、文系の方に進むなら桜海大学にしようかなって」
「おっ、案内した甲斐があった。羽村君は?」
「これまでは東京の方ばかり考えていましたけど、法学部や経済学部もあるここも選択肢に入れてもいいかもしれない……という感じです。もらったパンフレットをさっと見たのですが、様々なところでしっかりとしているようですし」
「ふふっ、そっか。少しでも選択肢に浮かぶ可能性があるだけでも嬉しいよ」
進路の話になると決まって東京の大学と言っていた羽村がそう言うなんて。
確かに、パンフレットを見ると、勉強はもちろん学生生活のサポートもしっかりしているみたいだ。あと、女子大生達が仲良くしている場面を何度も目撃したことも影響しているんじゃないだろうか。
――ぐううっ。
誰かのお腹が盛大に鳴る。
周りを見ると、羽村がお腹に手を当てながら笑っていた。
「いやぁ、さすがに大学のキャンパスは広い。そんなところをたくさん歩いたからか、お腹が減ってしまったな。アニメや漫画のイベントならここで栄養補助食品を食べるのだが。今日は持っていないのだよ」
そういえば、アニメや漫画のイベントに行くと長蛇の列に並ぶことも多くて、羽村はお腹が空くと栄養補助食品を食べていたっけ。
「もう1時近くだね。じゃあ、これから食堂に行こうか。もちろん、一般の方が利用しても大丈夫なところだから」
「やった! 実はあたしもお腹ペコペコで。一瞬、羽村君じゃなくてあたしのお腹が鳴ったかと思いましたから」
「ふふっ、いっぱい歩いたもんね、咲希ちゃん。じゃあ、食堂に行こう!」
僕らは鈴音さんについていく形で食堂へと向かう。
午後1時という時間なのか、それともお昼休みの時間なのか食堂にはそれなりに人がいて賑わっていた。ただ、僕ら5人が座れる場所もあるので一安心。
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「この食堂はビュッフェ方式なの。ただ、丼ものやカレー、定食、麺類を食べたいときはそれぞれのコーナーに並んで、食堂の方に食べたいものを言うの」
「そうなんですね」
確かに、自由におかずやサラダを取っている学生さんがいるな。奥には麺類だろうか。長めの列ができている。どうやら種類はかなり豊富そうだ。これなら、毎日ここの食堂で食べても飽きなさそう。
「ねえ、つーちゃん。あれって松雪先生じゃない?」
「……あっ」
明日香が指さした先にワイシャツ姿の松雪先生がいた。さすがに周りの学生さんよりも大人な雰囲気があるな。
「里奈先生!」
咲希が大きめの声で松雪先生の名前を言うと、先生は驚いた様子でキョロキョロとしていた。ただ、それもほんの少しの間のことで、僕らのことを見つけるとクスクスと笑いながらこちらにやってきた。
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