137 / 190
特別編5
第2話『アイス』
しおりを挟む
「ふふっ、いい下着を買えました」
無事に下着を3着購入し、俺達は下着売り場を出る。俺が選んだり、サイズが合う下着が買えたりしたのもあってか、氷織はかなり嬉しそうだ。氷織の笑顔を見ていると、彼氏として下着を選んで良かったなって思う。
「下着を選んでくださってありがとうございます、明斗さん」
「いえいえ。俺も楽しかったよ。色々な下着を試着した氷織を見られたし。こちらこそありがとう」
しばらくの間は、スマホに入っている下着姿の氷織の写真を見たら、今日のことを思い出しそうだ。会計を担当した女性店員が、ニヤニヤしながら何度も俺を見ていたことを含めて。一緒に選ぶところや試着室前での様子を見ていたのかもしれないな。
「私も楽しかったです。これからも、下着は明斗さんに選んでもらいましょうかね」
「選んでほしいときには遠慮なく言ってくれ」
「ふふっ、分かりました。そのときはよろしくお願いしますね」
「ああ」
俺が選ぶことで氷織が喜んでくれるのなら、喜んで。
「今日買った下着は今度のお泊まり女子会の日に付けましょう」
「そっか。確か、今週末にお泊まり女子会をするんだっけ」
「ええ。沙綾さんと恭子さんと美羽さんが家に泊まりに来ます。みんなで夜ご飯を食べたり、お菓子を食べながら『秋目知人帳』のアニメを観たりする予定です」
「そうか。楽しい女子会になるといいね」
「はいっ!」
ニコッと笑いながら氷織はそう言った。本当に楽しみにしているのだと分かる。
お泊まり女子会ってことは、きっと火村さんは氷織と一緒にお風呂に入るんだろうな。葉月さんがお泊まりしたときに、氷織と妹の七海ちゃんとお風呂に入ったことを以前聞いて羨ましがっていたから。氷織のベッドで一緒に寝るかもしれないな。女の子同士だし止めるつもりはない。火村さんは相変わらず氷織LOVEだけど、氷織が嫌がることはしないだろう。
あと、当日は女子会なので、こちらからメッセージや電話をするのは控えておくか。普段から、夜にメッセージや電話をする。夏休みに入ってからは、バイトなどがあって氷織と会わなかった日は、夜に長めに電話することもあるけども。
――ぐううっ。
ちょっと大きめにお腹が鳴ってしまった。お昼ご飯はそうめんだったからかな。食べたのも2時間以上前だし。氷織の家まで自転車を漕いだり、氷織の家から東友まで歩いたりしたからなぁ。
「お腹空きましたか?」
「ちょっとな。お昼ご飯を食べたのも2時間以上前だから」
「そうですか。私もちょっとお腹空きましたし、せっかく東友に来ましたから一階にあるフードコートでアイスを食べませんか?」
「おっ、アイスいいね。今日は暑いし、あのアイス屋さんは美味しいのがいっぱいあるし」
「ですね。では、行きましょうか!」
アイスを食べるのが楽しみなのか、氷織は楽しげな様子で俺の手を引いてくる。東友に来てから、氷織に手を引かれることが多いな。
下りのエスカレーターに乗って、俺達はフードコートのある1階まで降りる。
1階に降りてフードコートに行くと、結構多くの人で賑わっている。俺達のようなカップルもいれば、学生らしき若い世代のグループ、親子連れなど世代や年齢問わず様々。これまで、氷織と一緒に放課後デートなどでアイスを食べに何度か来たことがあるけど、ここまで人が多いのは初めてだ。夏休みだからだろうか。
フードコートには目的のアイス屋さんはもちろん、ラーメン、うどん、ファストフード、コーヒーと紅茶メインのドリンクショップなど様々な飲食店が入っている。だから、色々な飲食物の匂いが香ってきて。そのことでお腹がより空いてきた。
どのお店にも列ができているけど、アイス屋さんは特に長い列になっている。俺達と同じようなことを考えている人が多いのかな。そんなことを思いながら、俺達はアイス屋さんの列の最後尾に並んだ。1列なので氷織を先にして。
「この長さなら、10分ほどで私達の番になりそうですね」
「そうだな。今日は晴れて暑いから、アイスを食べたい人が多いんだろうな」
「そうですね。ここには美味しいアイスがいっぱいありますから」
「ああ。今日はどのアイスにしようかなぁ……」
「迷っちゃいますよね」
ふふっ、と氷織は楽しそうに笑う。
氷織と一緒だし、こうして何のアイスを買おうか考えるのも楽しいから、長い列に並んでいても全然苦にならない。
前に来たときは……確か抹茶アイスを食べたな。抹茶も美味しかったけど、今回は別のアイスにしよう。甘いチョコ系もいいし、さっぱりとしたものが多いフルーツ系もいいな。ベーシックなバニラをベースにしたアイスも捨てがたい。いい意味で迷う。
「私はオレンジアイスにしようと思います。前回はチョコチップだったので、今回はさっぱりしたものを食べたくて」
「そうか。オレンジいいな。俺は前回苦味もある抹茶だったから……甘いチョコ系にしようかな」
「チョコ系のアイスは色々な種類がありますよ。今日は暑いですから、スーッとするチョコミントがオススメですね」
「チョコミントか。爽快な気分になれるよな。よし、俺はチョコミントにしよう。オススメを言ってくれてありがとう」
「いえいえ」
チョコミントは好きだけど、ここのアイス屋さんのチョコミントはまだ食べたことがなかったな。楽しみだ。
それからも氷織と話しながら列での時間を過ごした。それもあって、あっという間に俺達の番に。さっき話していた通り、俺はチョコミントで氷織はオレンジのアイスをカップで購入した。
フードコートにはテーブル席とカウンター席がたくさん用意されている。今は人が多いので多くの席が埋まっているけど、俺達は運良く2人用のテーブル席を確保することができた。
俺と氷織は向かい合う形で椅子に座る。氷織がスマホでオレンジアイスを撮っているので、俺も真似してチョコミントアイスをスマホで撮影した。
「では、食べましょうか」
「ああ。いただきます」
「いただきますっ」
プラスチックのスプーンでチョコミントアイスを一口分掬って、口の中に入れる。
口に入れた瞬間、ミントの爽やかな香りが口の中に広がっていき、スーッとする。ただ、チョコやアイスの甘味もしっかりしており、ミントの香りとのバランスがいい。
「チョコミント美味しいな」
「美味しいですよね。オススメして良かったです。オレンジアイスも美味しいですっ」
そう言うと、氷織はオレンジアイスをもう一口。美味しいと言うだけあって、氷織は「う~んっ!」と可愛らしい声を漏らしながら、幸せそうな笑みを浮かべている。物凄く可愛いな。そんな氷織を見ながらチョコミントをもう一口食べると……さっきよりも美味しく感じられた。
「小さい頃からここのオレンジアイスは何度も食べていますが、明斗さんと一緒ですから今日が一番美味しいですね」
「ははっ、嬉しいな。俺もチョコミントは他のお店だったり、市販のものを食べたりするけど、ここのアイス屋さんが一番美味しく感じるよ」
「そう言ってくれて嬉しいです。明斗さん、今日も一口交換しませんか?」
「ああ、しよう」
俺が快諾すると、氷織はニコッと笑う。
ここのアイス屋さんでアイスを食べたときには、氷織と一口交換するのがお決まりとなっている。互いに違う味のアイスを買うのでお得感があるし、氷織と一口交換すると幸せな気分になれるから。
氷織はスプーンでオレンジアイスを一口分掬い、俺の口元まで持ってきてくれる。
「はい、明斗さん。あ~ん」
「あーん」
俺は氷織にオレンジアイスを食べさせてもらう。
オレンジの爽やかな香りとともに、オレンジらしい甘酸っぱさが口の中に広がっていく。チョコミントを食べた後だから、結構さっぱりとした印象だ。
「うん、甘酸っぱくて美味しいね」
「美味しいですよね。甘さと酸っぱさのバランスが良くて、フルーツ系のアイスではかなり好きです」
「そうなんだ。甘さと酸っぱさのバランスがいい……分かるかも」
レモンアイスだと酸味の強いものが多いし、メロンアイスやグレープアイスは甘味の強いものが多い。甘味と酸味の両方を最も楽しめるのはオレンジアイスかもしれない。あとはストロベリーアイスくらいだろうか。
「あと、さっぱりしているのもいいね」
「ですねっ」
俺が同意したからか、氷織はニッコリとした笑顔を見せる。可愛いな。
俺は自分のチョコミントアイスをスプーンで一口分掬い、氷織の口元まで持っていく。
「はい、氷織。あーん」
「あ~ん」
氷織にチョコミントアイスを一口食べさせる。口に入れたときの氷織の顔はとても可愛くて。一口交換するときの楽しみだ。
さっき、オレンジアイスを食べたときと同じく、氷織は笑顔で「う~んっ!」と可愛らしい声を上げる。
「美味しいです! チョコの甘味はもちろん、このスーッとするミントの爽やかな風味がいいですね」
「そうだな。ここのチョコミントは甘味とミントのバランスがちょうど良くて美味しいよ。他のお店や市販のものの中には、ミントの強いものがあるからな」
「ありますよね。こことは別のお店なのですが、小学生の頃、お母さんに一口もらったチョコミントアイスがかなりミント強めで。ミントが辛くて、かなりスースーして。しばらくの間はチョコミントはもちろん、ミント系のお菓子が食べられない時期がありました」
「トラウマになっちゃったんだ」
「ええ」
そのときのことを思い出しているのか、氷織は苦笑い。
そういえば、俺の姉貴も……昔、親が持っているミント強めのミントガムを勝手に食べて、辛いって号泣していたな。それから一時期はミント味のものを避けていたっけ。
あと、友達の中には「歯磨き粉の味がする」と言って、チョコミントが食えない奴もいたなぁ。
「ただ、ここのチョコミントを食べて、それが美味しかったので、またチョコミントを食べられるようになりました」
「そうだったんだ」
「はい。ただ、明斗さんに食べさせてもらった今のチョコミントが一番美味しいです」
「……そうか。嬉しいな。俺も氷織に食べさせてもらったオレンジアイスは凄く美味しかったよ」
だから、きっとこれからも、氷織と一緒にアイスを食べるときには一口交換をするだろう。別のものを買ったときはもちろん、同じものを買ったとしても。
俺は再びチョコミントを一口食べる。氷織が口を付けた直後だからか、これまでよりもさらに美味しく感じられた。
それから少しの間、氷織と一緒にアイスを食べるのを楽しんだ。そのおかげもあって、暑い中氷織の家に帰っても疲れを感じることはなく、氷織と一緒に夏休みの課題を集中して取り組めたのであった。
無事に下着を3着購入し、俺達は下着売り場を出る。俺が選んだり、サイズが合う下着が買えたりしたのもあってか、氷織はかなり嬉しそうだ。氷織の笑顔を見ていると、彼氏として下着を選んで良かったなって思う。
「下着を選んでくださってありがとうございます、明斗さん」
「いえいえ。俺も楽しかったよ。色々な下着を試着した氷織を見られたし。こちらこそありがとう」
しばらくの間は、スマホに入っている下着姿の氷織の写真を見たら、今日のことを思い出しそうだ。会計を担当した女性店員が、ニヤニヤしながら何度も俺を見ていたことを含めて。一緒に選ぶところや試着室前での様子を見ていたのかもしれないな。
「私も楽しかったです。これからも、下着は明斗さんに選んでもらいましょうかね」
「選んでほしいときには遠慮なく言ってくれ」
「ふふっ、分かりました。そのときはよろしくお願いしますね」
「ああ」
俺が選ぶことで氷織が喜んでくれるのなら、喜んで。
「今日買った下着は今度のお泊まり女子会の日に付けましょう」
「そっか。確か、今週末にお泊まり女子会をするんだっけ」
「ええ。沙綾さんと恭子さんと美羽さんが家に泊まりに来ます。みんなで夜ご飯を食べたり、お菓子を食べながら『秋目知人帳』のアニメを観たりする予定です」
「そうか。楽しい女子会になるといいね」
「はいっ!」
ニコッと笑いながら氷織はそう言った。本当に楽しみにしているのだと分かる。
お泊まり女子会ってことは、きっと火村さんは氷織と一緒にお風呂に入るんだろうな。葉月さんがお泊まりしたときに、氷織と妹の七海ちゃんとお風呂に入ったことを以前聞いて羨ましがっていたから。氷織のベッドで一緒に寝るかもしれないな。女の子同士だし止めるつもりはない。火村さんは相変わらず氷織LOVEだけど、氷織が嫌がることはしないだろう。
あと、当日は女子会なので、こちらからメッセージや電話をするのは控えておくか。普段から、夜にメッセージや電話をする。夏休みに入ってからは、バイトなどがあって氷織と会わなかった日は、夜に長めに電話することもあるけども。
――ぐううっ。
ちょっと大きめにお腹が鳴ってしまった。お昼ご飯はそうめんだったからかな。食べたのも2時間以上前だし。氷織の家まで自転車を漕いだり、氷織の家から東友まで歩いたりしたからなぁ。
「お腹空きましたか?」
「ちょっとな。お昼ご飯を食べたのも2時間以上前だから」
「そうですか。私もちょっとお腹空きましたし、せっかく東友に来ましたから一階にあるフードコートでアイスを食べませんか?」
「おっ、アイスいいね。今日は暑いし、あのアイス屋さんは美味しいのがいっぱいあるし」
「ですね。では、行きましょうか!」
アイスを食べるのが楽しみなのか、氷織は楽しげな様子で俺の手を引いてくる。東友に来てから、氷織に手を引かれることが多いな。
下りのエスカレーターに乗って、俺達はフードコートのある1階まで降りる。
1階に降りてフードコートに行くと、結構多くの人で賑わっている。俺達のようなカップルもいれば、学生らしき若い世代のグループ、親子連れなど世代や年齢問わず様々。これまで、氷織と一緒に放課後デートなどでアイスを食べに何度か来たことがあるけど、ここまで人が多いのは初めてだ。夏休みだからだろうか。
フードコートには目的のアイス屋さんはもちろん、ラーメン、うどん、ファストフード、コーヒーと紅茶メインのドリンクショップなど様々な飲食店が入っている。だから、色々な飲食物の匂いが香ってきて。そのことでお腹がより空いてきた。
どのお店にも列ができているけど、アイス屋さんは特に長い列になっている。俺達と同じようなことを考えている人が多いのかな。そんなことを思いながら、俺達はアイス屋さんの列の最後尾に並んだ。1列なので氷織を先にして。
「この長さなら、10分ほどで私達の番になりそうですね」
「そうだな。今日は晴れて暑いから、アイスを食べたい人が多いんだろうな」
「そうですね。ここには美味しいアイスがいっぱいありますから」
「ああ。今日はどのアイスにしようかなぁ……」
「迷っちゃいますよね」
ふふっ、と氷織は楽しそうに笑う。
氷織と一緒だし、こうして何のアイスを買おうか考えるのも楽しいから、長い列に並んでいても全然苦にならない。
前に来たときは……確か抹茶アイスを食べたな。抹茶も美味しかったけど、今回は別のアイスにしよう。甘いチョコ系もいいし、さっぱりとしたものが多いフルーツ系もいいな。ベーシックなバニラをベースにしたアイスも捨てがたい。いい意味で迷う。
「私はオレンジアイスにしようと思います。前回はチョコチップだったので、今回はさっぱりしたものを食べたくて」
「そうか。オレンジいいな。俺は前回苦味もある抹茶だったから……甘いチョコ系にしようかな」
「チョコ系のアイスは色々な種類がありますよ。今日は暑いですから、スーッとするチョコミントがオススメですね」
「チョコミントか。爽快な気分になれるよな。よし、俺はチョコミントにしよう。オススメを言ってくれてありがとう」
「いえいえ」
チョコミントは好きだけど、ここのアイス屋さんのチョコミントはまだ食べたことがなかったな。楽しみだ。
それからも氷織と話しながら列での時間を過ごした。それもあって、あっという間に俺達の番に。さっき話していた通り、俺はチョコミントで氷織はオレンジのアイスをカップで購入した。
フードコートにはテーブル席とカウンター席がたくさん用意されている。今は人が多いので多くの席が埋まっているけど、俺達は運良く2人用のテーブル席を確保することができた。
俺と氷織は向かい合う形で椅子に座る。氷織がスマホでオレンジアイスを撮っているので、俺も真似してチョコミントアイスをスマホで撮影した。
「では、食べましょうか」
「ああ。いただきます」
「いただきますっ」
プラスチックのスプーンでチョコミントアイスを一口分掬って、口の中に入れる。
口に入れた瞬間、ミントの爽やかな香りが口の中に広がっていき、スーッとする。ただ、チョコやアイスの甘味もしっかりしており、ミントの香りとのバランスがいい。
「チョコミント美味しいな」
「美味しいですよね。オススメして良かったです。オレンジアイスも美味しいですっ」
そう言うと、氷織はオレンジアイスをもう一口。美味しいと言うだけあって、氷織は「う~んっ!」と可愛らしい声を漏らしながら、幸せそうな笑みを浮かべている。物凄く可愛いな。そんな氷織を見ながらチョコミントをもう一口食べると……さっきよりも美味しく感じられた。
「小さい頃からここのオレンジアイスは何度も食べていますが、明斗さんと一緒ですから今日が一番美味しいですね」
「ははっ、嬉しいな。俺もチョコミントは他のお店だったり、市販のものを食べたりするけど、ここのアイス屋さんが一番美味しく感じるよ」
「そう言ってくれて嬉しいです。明斗さん、今日も一口交換しませんか?」
「ああ、しよう」
俺が快諾すると、氷織はニコッと笑う。
ここのアイス屋さんでアイスを食べたときには、氷織と一口交換するのがお決まりとなっている。互いに違う味のアイスを買うのでお得感があるし、氷織と一口交換すると幸せな気分になれるから。
氷織はスプーンでオレンジアイスを一口分掬い、俺の口元まで持ってきてくれる。
「はい、明斗さん。あ~ん」
「あーん」
俺は氷織にオレンジアイスを食べさせてもらう。
オレンジの爽やかな香りとともに、オレンジらしい甘酸っぱさが口の中に広がっていく。チョコミントを食べた後だから、結構さっぱりとした印象だ。
「うん、甘酸っぱくて美味しいね」
「美味しいですよね。甘さと酸っぱさのバランスが良くて、フルーツ系のアイスではかなり好きです」
「そうなんだ。甘さと酸っぱさのバランスがいい……分かるかも」
レモンアイスだと酸味の強いものが多いし、メロンアイスやグレープアイスは甘味の強いものが多い。甘味と酸味の両方を最も楽しめるのはオレンジアイスかもしれない。あとはストロベリーアイスくらいだろうか。
「あと、さっぱりしているのもいいね」
「ですねっ」
俺が同意したからか、氷織はニッコリとした笑顔を見せる。可愛いな。
俺は自分のチョコミントアイスをスプーンで一口分掬い、氷織の口元まで持っていく。
「はい、氷織。あーん」
「あ~ん」
氷織にチョコミントアイスを一口食べさせる。口に入れたときの氷織の顔はとても可愛くて。一口交換するときの楽しみだ。
さっき、オレンジアイスを食べたときと同じく、氷織は笑顔で「う~んっ!」と可愛らしい声を上げる。
「美味しいです! チョコの甘味はもちろん、このスーッとするミントの爽やかな風味がいいですね」
「そうだな。ここのチョコミントは甘味とミントのバランスがちょうど良くて美味しいよ。他のお店や市販のものの中には、ミントの強いものがあるからな」
「ありますよね。こことは別のお店なのですが、小学生の頃、お母さんに一口もらったチョコミントアイスがかなりミント強めで。ミントが辛くて、かなりスースーして。しばらくの間はチョコミントはもちろん、ミント系のお菓子が食べられない時期がありました」
「トラウマになっちゃったんだ」
「ええ」
そのときのことを思い出しているのか、氷織は苦笑い。
そういえば、俺の姉貴も……昔、親が持っているミント強めのミントガムを勝手に食べて、辛いって号泣していたな。それから一時期はミント味のものを避けていたっけ。
あと、友達の中には「歯磨き粉の味がする」と言って、チョコミントが食えない奴もいたなぁ。
「ただ、ここのチョコミントを食べて、それが美味しかったので、またチョコミントを食べられるようになりました」
「そうだったんだ」
「はい。ただ、明斗さんに食べさせてもらった今のチョコミントが一番美味しいです」
「……そうか。嬉しいな。俺も氷織に食べさせてもらったオレンジアイスは凄く美味しかったよ」
だから、きっとこれからも、氷織と一緒にアイスを食べるときには一口交換をするだろう。別のものを買ったときはもちろん、同じものを買ったとしても。
俺は再びチョコミントを一口食べる。氷織が口を付けた直後だからか、これまでよりもさらに美味しく感じられた。
それから少しの間、氷織と一緒にアイスを食べるのを楽しんだ。そのおかげもあって、暑い中氷織の家に帰っても疲れを感じることはなく、氷織と一緒に夏休みの課題を集中して取り組めたのであった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。
藍川みいな
恋愛
タイトル変更しました。
「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」
十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。
父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。
食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。
父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。
その時、あなた達は後悔することになる。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
男爵令嬢に転生したら実は悪役令嬢でした! 伯爵家の養女になったヒロインよりも悲惨な目にあっているのに断罪なんてお断りです
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
「お前との婚約を破棄する」
クラウディアはイケメンの男から婚約破棄されてしまった……
クラウディアはその瞬間ハッとして目を覚ました。
ええええ! 何なのこの夢は? 正夢?
でも、クラウディアは属国のしがない男爵令嬢なのよ。婚約破棄ってそれ以前にあんな凛々しいイケメンが婚約者なわけないじゃない! それ以前に、クラウディアは継母とその妹によって男爵家の中では虐められていて、メイドのような雑用をさせられていたのだ。こんな婚約者がいるわけない。 しかし、そのクラウディアの前に宗主国の帝国から貴族の子弟が通う学園に通うようにと指示が来てクラウディアの運命は大きく変わっていくのだ。果たして白馬の皇子様との断罪を阻止できるのか?
ぜひともお楽しみ下さい。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
[完結]麗しい婚約者様、私を捨ててくださってありがとう!
青空一夏
恋愛
ギャロウェイ伯爵家の長女、アリッサは、厳格な両親のもとで育ち、幼い頃から立派な貴族夫人になるための英才教育を受けてきました。彼女に求められたのは、家業を支え、利益を最大化するための冷静な判断力と戦略を立てる能力です。家格と爵位が釣り合う跡継ぎとの政略結婚がアリッサの運命とされ、婚約者にはダイヤモンド鉱山を所有するウィルコックス伯爵家のサミーが選ばれました。貿易網を国内外に広げるギャロウェイ家とサミーの家は、利害が一致した理想的な結びつきだったのです。
しかし、アリッサが誕生日を祝われている王都で最も格式高いレストランで、学園時代の友人セリーナが現れたことで、彼女の人生は一変します。予約制のレストランに無断で入り込み、巧みにサミーの心を奪ったセリーナ。その後、アリッサは突然の婚約解消を告げられてしまいます。
家族からは容姿よりも能力だけを評価され、自信を持てなかったアリッサ。サミーの裏切りに心を痛めながらも、真実の愛を探し始めます。しかし、その道のりは平坦ではなく、新たな障害が次々と立ちはだかります。果たしてアリッサは、真実の愛を見つけ、幸福を手にすることができるのでしょうか――。
清楚で美しい容姿の裏に秘めたコンプレックス、そして家と運命に縛られた令嬢が自らの未来を切り開く姿を描いた、心に残る恋愛ファンタジー。ハッピーエンドを迎えるまでの波乱万丈の物語です。
可愛い子ウサギの精霊も出演。残酷すぎないざまぁ(多分)で、楽しい作品となっています。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる