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第32話『フリーフォール』
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「おかえりなさーい!」
ジェットコースターのマシンが乗り場に戻ったとき、先ほどの係員のお兄さんがそう言ってくれた。マシンはかなりのスピードだったし、コースにはかなり怖いポイントがいくつもあった。だから、お兄さんの声を聞くと「終わったんだ~」と安心できる。
「凄く楽しかったねっ!」
「おう! 最高だったな、美羽! テンション上がってきたぜっ!」
満足な感想を言い、和男と清水さんはマシンから降りる。2人の絶叫マシンの大好きさがよーく分かったよ。背後からも、火村さんと葉月さんの「楽しかった」という話し声が聞こえる。
俺は席から立ち上がり、マシンから降りる。すると、急に立ちくらみが。その瞬間に背後から誰かに支えられる。
「大丈夫ですか、明斗さん」
氷織のそんな声が聞こえた。ゆっくりと振り返ると、すぐ目の前には心配そうに俺を見つめる氷織の姿が。きっと、氷織が支えてくれたのだろう。火村さん達からも「大丈夫?」と声を掛けられる。
「高速で動くマシンに乗っていたからな。その反動でフラフラしているんだと思う。気持ち悪くはないから大丈夫だよ」
「それなら良かったです」
氷織はほっとした様子に。火村さんも同じく。
「氷織、支えてくれてありがとう」
「いえいえ」
「氷織は大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ。みなさんは大丈夫ですか?」
氷織がそう問いかけると、和男達はみんな「大丈夫!」と返事する。みんな強いなぁ。それとも俺が弱すぎるのか。
氷織と手を繋ぎ、火村さんに背中を支えてもらいながら、ジェットコースター乗り場を後にする。何だか年寄りになった気分だ。
乗り場の出口から地上に降りると、立ちくらみがほとんどなくなっていた。
「もう大丈夫だよ。ありがとう、氷織、火村さん」
「良かったわ。たいしたことなくて」
「恭子さんの言う通りですね。……それにしても、凄い行列ですね。私達が並んだときよりもたくさん並んでいそうです」
「そうだね」
ジェットコースターの長い待機列ができている。『60分待ちでーす!』という男性の声が聞こえてくる。俺達は40分ほど待ってジェットコースターに乗ったから、氷織の言ったことは正しいな。
「さすがは人気アトラクションだ」
「ええ。スリルがあってとても楽しかったです。明斗さんはどうでしたか?」
「……怖かったよ。だけど、あの速いジェットコースターを乗ったから、次も絶叫マシンに乗ってもいいって思えるよ」
「アドレナリンが出ているのかもしれませんね!」
そう言う氷織の表情はかなり明るい。声も弾んでいるし。氷織もジェットコースターに乗ってアドレナリンが分泌されているのかも。
「紙透君の言うこと分かるッス。あのジェットコースターを楽しめたので、次も絶叫系で大丈夫ッスね」
「マシンから降りるときに倉木も言っていたけど、気持ちが上がってきたわね。あたしの場合は氷織の髪からシャンプーの甘い匂いが香ってきたのもあるけど……」
頬を赤くして、嬉しそうな様子で語る火村さん。彼女の場合、氷織の髪の匂いの方が気分が上がるメインの理由な気がするけど。
「みんな、絶叫マシンで気分上がってきたか! じゃあ、次も王道の絶叫マシンに行こうぜ! あそこにある一気に落ちるやつ!」
和男はワクワクした様子で、フリーフォールの方を指さす。その瞬間に清水さんが「いいね~!」と賛同の声を上げる。
「フリーフォールか」
「王道の絶叫マシンの一つッスね。あたしは行ってみたいッス」
「あたしも!」
「あたしも行きたいわ!」
「私も行きたいです。明斗さんはどうですか?」
「俺も一度乗ってみたいかな。体調はもう大丈夫だよ」
「アキも元気になって良かったぜ! じゃあ、次はフリーフォールへ行こう!」
『おー!』
和男の言葉に清水さんと火村さん、葉月さんは元気よく返事をする。氷織は「ふふっ」と楽しそうに笑っている。
和男の先導により、俺達は6人でフリーフォールの方に向かって歩き始める。
俺達が来たときと比べて、お客さんの数が多くなっているな。そして、お客さんの多くがこちらを見ている。氷織はもちろんのこと、火村さんも美人だし、葉月さんと清水さんはかなり可愛い。氷織は俺、清水さんは和男と手を繋いでいるけど、美少女が4人歩いていれば見てしまうか。
ジェットコースター乗り場から歩いて2、3分。俺達はフリーフォール乗り場に到着し、待機列の最後尾に並ぶ。係員のお姉さんによると、20分ほどで乗れるらしい。
「ジェットコースターよりも早く乗れそうですね」
「そうだね。上まで登って一気に落ちるだけだから、ジェットコースターよりも乗っている時間が短いのかな」
「きっとそうでしょうね。今、マシンが上がっていますけど、一度に乗れる人数は結構多そうですし」
そう言うと、氷織はフリーフォールの方を指さす。彼女の言う通り、フリーフォールの座席には多くの人が座っている。今は二方向分しか見えていないけど、きっと四方向全てに座席があるのだろう。
そのまま見ていると、マシンは頂上に辿り着いた。そして、少し経った後……急降下。
『きゃあああっ!』
と叫び声が聞こえてきた。さすがは絶叫マシン。
「フリーフォールの方が怖いって感じる人もいそうだな。氷織はどうだ?」
「私はフリーフォールの方が怖いですね。時間は短いですが、猛スピードで落下ですから。もちろん楽しいですけど」
「さすがは絶叫好き」
「ジェットコースターのときと同じように、乗っている間も手を繋ぎますね」
「ありがとう。心強いよ」
今まで絶叫系マシンを好きだと思ったことはないけど、氷織のおかげで好きになれそうだ。
並び始めてから20分ほど。いよいよ俺達の順番がやってきた。
俺の予想通り、フリーフォールは四方向に座席が設置されている。一方向それぞれ6席ずつある。
係員のお姉さんの計らいもあり、俺達6人は同じ列に座れることになった。これにはみんな喜んだ。清水さん、和男、俺、氷織、火村さん、葉月さんの並びで座る。
安全バーが下ろされた直後、氷織が約束通りに俺の右手を掴んできた。ジェットコースターのときと同じく恋人繋ぎで。氷織は俺に向かって優しく微笑む。そんな彼女を見ると、これからもずっとこうして氷織の隣にいたいと今一度思う。結婚してくれ。
「アキ。不安になったら、俺の手とかシャツを掴んでいいからな!」
「ありがとう」
俺がお礼を言うと、和男は右手でサムズアップ。マシンが上がっている間に何かあっても、和男がいればみんな生きて地上へ帰れそうな気がする。
「氷織。ふ、太ももに手を置いてもいい? その……落下するときにワンピースがふわっとなって、下着が見えちゃうかもしれないから。押さえていてあげるわ。並んでいるときにフリーフォールを見たら、スカートがふんわりとなった女性が見えたから」
「なるほどです。まあ、何があるか分かりませんし、お願いします」
「ええ! あっ、沙綾のスカートも押さえてあげるわ」
「ついでな感じの言い方ッスねぇ~。でも、ご厚意に甘えるッス」
火村さんは左手を氷織、右手を葉月さんの太ももに乗せる。氷織に触れられているからか、凄く嬉しそうだ。
「服越しでも氷織の温もりが伝わってくるわ。沙綾もなかなかいい感じ」
「ふふっ、恭子さんの温もりも伝わってきますよ」
「悪くない感覚ッス」
「2人にそう言ってもらえて嬉しいわ!」
火村さん幸せそう。氷織と葉月さんがいれば彼女はどのアトラクションでも満喫できるんじゃないだろうか。
それからすぐに『ピー』と音が鳴り、マシンの近くにいた係員のお姉さんが「フリーフォールスタートでーす!」と元気よく言った。
そして、マシンはゆっくり上がっていく。
「始まりましたね」
「ああ。あと、地上にいるときには何とも思わなかったけど、脚が宙ぶらりんの状態って不安になったり、緊張したりするんだな」
「分かります。私もちょっと緊張します。普段、脚がブラブラすることって全然ないですもんね。フリーフォールの方が怖いと感じるのは、これが理由の一つかもしれないです」
「なるほどね」
氷織と緊張を共感し合えたことは嬉しいけど、今の話で不安や緊張が増大した。人間、物理的にも地に足を付けて生きるべきだよな。
気分を変えようと正面を向くと、ドームタウン周辺の景色が一望できる。摩天楼ってこういう感じのところを言うのかな。マシンが高く上がっているので、結構広い景色が楽しめる。
「さすがは都心だ。高層ビルとか商業施設、タワーマンションがたくさん見える」
「そうですね。笠ヶ谷では見られない光景です。晴天なのでとても綺麗です」
「こういう景色を見ると、俺達は都会に来たんだって実感できるな!」
「そう言うと、あたし達が田舎の人に感じるよ、和男君」
和男と清水さんの言葉に、俺達みんな声に出して笑う。そのことで、緊張や不安が少しほぐれた。
萩窪や笠ヶ谷では、高層ビルやマンション、商業施設が立ち並んでいるのは駅周辺くらい。和男が「都会に来た!」って言うのも納得できる。
やがて、マシンは一番上まで到達し、一時停止する。
「ああ……この待たされる感じ。緊張感が増すな」
「そうですね」
「美羽と去年来たときは何度か乗ったけど、停止している時間はバラバラだったな」
「そうだったね。だから、何度乗っても飽きないよね」
清水さんの言うのも一つの理由だと思うし、時間をバラバラにすることで「今回はいつ落ちるんだろう?」という緊張感にも繋がる。上手い演出だ。
「実際は短いかもしれないッスけど、こうしている時間がとても長く感じるッス」
「沙綾の言うこと分かるわ。いつ落ちるのかしら? あと、あたしが2人のスカートを押さえているから安心しなさい!」
「ありがとうございます。明斗さんも手を繋いでいますから安心してくださいね」
「あり――がああっ!」
お礼を言う時間くらいくれてもいいじゃないか! 空気読めよフリーフォール!
「うわあああっ!」
顔に風が! 脚が宙ぶらりんになっているのもあって、フワッと浮いた感覚に。
チラッと氷織を見ると、ジェットコースターのときと同じように「きゃああっ!」と楽しそうに叫んでいる。
右からは氷織達3人の可愛らしい叫びのユニゾン。左からは和男と清水さんによる叫びのハーモニーが聞こえる中、俺も叫びまくるのであった。もちろん、氷織の手をしっかりと繋いだままで。
ジェットコースターのマシンが乗り場に戻ったとき、先ほどの係員のお兄さんがそう言ってくれた。マシンはかなりのスピードだったし、コースにはかなり怖いポイントがいくつもあった。だから、お兄さんの声を聞くと「終わったんだ~」と安心できる。
「凄く楽しかったねっ!」
「おう! 最高だったな、美羽! テンション上がってきたぜっ!」
満足な感想を言い、和男と清水さんはマシンから降りる。2人の絶叫マシンの大好きさがよーく分かったよ。背後からも、火村さんと葉月さんの「楽しかった」という話し声が聞こえる。
俺は席から立ち上がり、マシンから降りる。すると、急に立ちくらみが。その瞬間に背後から誰かに支えられる。
「大丈夫ですか、明斗さん」
氷織のそんな声が聞こえた。ゆっくりと振り返ると、すぐ目の前には心配そうに俺を見つめる氷織の姿が。きっと、氷織が支えてくれたのだろう。火村さん達からも「大丈夫?」と声を掛けられる。
「高速で動くマシンに乗っていたからな。その反動でフラフラしているんだと思う。気持ち悪くはないから大丈夫だよ」
「それなら良かったです」
氷織はほっとした様子に。火村さんも同じく。
「氷織、支えてくれてありがとう」
「いえいえ」
「氷織は大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ。みなさんは大丈夫ですか?」
氷織がそう問いかけると、和男達はみんな「大丈夫!」と返事する。みんな強いなぁ。それとも俺が弱すぎるのか。
氷織と手を繋ぎ、火村さんに背中を支えてもらいながら、ジェットコースター乗り場を後にする。何だか年寄りになった気分だ。
乗り場の出口から地上に降りると、立ちくらみがほとんどなくなっていた。
「もう大丈夫だよ。ありがとう、氷織、火村さん」
「良かったわ。たいしたことなくて」
「恭子さんの言う通りですね。……それにしても、凄い行列ですね。私達が並んだときよりもたくさん並んでいそうです」
「そうだね」
ジェットコースターの長い待機列ができている。『60分待ちでーす!』という男性の声が聞こえてくる。俺達は40分ほど待ってジェットコースターに乗ったから、氷織の言ったことは正しいな。
「さすがは人気アトラクションだ」
「ええ。スリルがあってとても楽しかったです。明斗さんはどうでしたか?」
「……怖かったよ。だけど、あの速いジェットコースターを乗ったから、次も絶叫マシンに乗ってもいいって思えるよ」
「アドレナリンが出ているのかもしれませんね!」
そう言う氷織の表情はかなり明るい。声も弾んでいるし。氷織もジェットコースターに乗ってアドレナリンが分泌されているのかも。
「紙透君の言うこと分かるッス。あのジェットコースターを楽しめたので、次も絶叫系で大丈夫ッスね」
「マシンから降りるときに倉木も言っていたけど、気持ちが上がってきたわね。あたしの場合は氷織の髪からシャンプーの甘い匂いが香ってきたのもあるけど……」
頬を赤くして、嬉しそうな様子で語る火村さん。彼女の場合、氷織の髪の匂いの方が気分が上がるメインの理由な気がするけど。
「みんな、絶叫マシンで気分上がってきたか! じゃあ、次も王道の絶叫マシンに行こうぜ! あそこにある一気に落ちるやつ!」
和男はワクワクした様子で、フリーフォールの方を指さす。その瞬間に清水さんが「いいね~!」と賛同の声を上げる。
「フリーフォールか」
「王道の絶叫マシンの一つッスね。あたしは行ってみたいッス」
「あたしも!」
「あたしも行きたいわ!」
「私も行きたいです。明斗さんはどうですか?」
「俺も一度乗ってみたいかな。体調はもう大丈夫だよ」
「アキも元気になって良かったぜ! じゃあ、次はフリーフォールへ行こう!」
『おー!』
和男の言葉に清水さんと火村さん、葉月さんは元気よく返事をする。氷織は「ふふっ」と楽しそうに笑っている。
和男の先導により、俺達は6人でフリーフォールの方に向かって歩き始める。
俺達が来たときと比べて、お客さんの数が多くなっているな。そして、お客さんの多くがこちらを見ている。氷織はもちろんのこと、火村さんも美人だし、葉月さんと清水さんはかなり可愛い。氷織は俺、清水さんは和男と手を繋いでいるけど、美少女が4人歩いていれば見てしまうか。
ジェットコースター乗り場から歩いて2、3分。俺達はフリーフォール乗り場に到着し、待機列の最後尾に並ぶ。係員のお姉さんによると、20分ほどで乗れるらしい。
「ジェットコースターよりも早く乗れそうですね」
「そうだね。上まで登って一気に落ちるだけだから、ジェットコースターよりも乗っている時間が短いのかな」
「きっとそうでしょうね。今、マシンが上がっていますけど、一度に乗れる人数は結構多そうですし」
そう言うと、氷織はフリーフォールの方を指さす。彼女の言う通り、フリーフォールの座席には多くの人が座っている。今は二方向分しか見えていないけど、きっと四方向全てに座席があるのだろう。
そのまま見ていると、マシンは頂上に辿り着いた。そして、少し経った後……急降下。
『きゃあああっ!』
と叫び声が聞こえてきた。さすがは絶叫マシン。
「フリーフォールの方が怖いって感じる人もいそうだな。氷織はどうだ?」
「私はフリーフォールの方が怖いですね。時間は短いですが、猛スピードで落下ですから。もちろん楽しいですけど」
「さすがは絶叫好き」
「ジェットコースターのときと同じように、乗っている間も手を繋ぎますね」
「ありがとう。心強いよ」
今まで絶叫系マシンを好きだと思ったことはないけど、氷織のおかげで好きになれそうだ。
並び始めてから20分ほど。いよいよ俺達の順番がやってきた。
俺の予想通り、フリーフォールは四方向に座席が設置されている。一方向それぞれ6席ずつある。
係員のお姉さんの計らいもあり、俺達6人は同じ列に座れることになった。これにはみんな喜んだ。清水さん、和男、俺、氷織、火村さん、葉月さんの並びで座る。
安全バーが下ろされた直後、氷織が約束通りに俺の右手を掴んできた。ジェットコースターのときと同じく恋人繋ぎで。氷織は俺に向かって優しく微笑む。そんな彼女を見ると、これからもずっとこうして氷織の隣にいたいと今一度思う。結婚してくれ。
「アキ。不安になったら、俺の手とかシャツを掴んでいいからな!」
「ありがとう」
俺がお礼を言うと、和男は右手でサムズアップ。マシンが上がっている間に何かあっても、和男がいればみんな生きて地上へ帰れそうな気がする。
「氷織。ふ、太ももに手を置いてもいい? その……落下するときにワンピースがふわっとなって、下着が見えちゃうかもしれないから。押さえていてあげるわ。並んでいるときにフリーフォールを見たら、スカートがふんわりとなった女性が見えたから」
「なるほどです。まあ、何があるか分かりませんし、お願いします」
「ええ! あっ、沙綾のスカートも押さえてあげるわ」
「ついでな感じの言い方ッスねぇ~。でも、ご厚意に甘えるッス」
火村さんは左手を氷織、右手を葉月さんの太ももに乗せる。氷織に触れられているからか、凄く嬉しそうだ。
「服越しでも氷織の温もりが伝わってくるわ。沙綾もなかなかいい感じ」
「ふふっ、恭子さんの温もりも伝わってきますよ」
「悪くない感覚ッス」
「2人にそう言ってもらえて嬉しいわ!」
火村さん幸せそう。氷織と葉月さんがいれば彼女はどのアトラクションでも満喫できるんじゃないだろうか。
それからすぐに『ピー』と音が鳴り、マシンの近くにいた係員のお姉さんが「フリーフォールスタートでーす!」と元気よく言った。
そして、マシンはゆっくり上がっていく。
「始まりましたね」
「ああ。あと、地上にいるときには何とも思わなかったけど、脚が宙ぶらりんの状態って不安になったり、緊張したりするんだな」
「分かります。私もちょっと緊張します。普段、脚がブラブラすることって全然ないですもんね。フリーフォールの方が怖いと感じるのは、これが理由の一つかもしれないです」
「なるほどね」
氷織と緊張を共感し合えたことは嬉しいけど、今の話で不安や緊張が増大した。人間、物理的にも地に足を付けて生きるべきだよな。
気分を変えようと正面を向くと、ドームタウン周辺の景色が一望できる。摩天楼ってこういう感じのところを言うのかな。マシンが高く上がっているので、結構広い景色が楽しめる。
「さすがは都心だ。高層ビルとか商業施設、タワーマンションがたくさん見える」
「そうですね。笠ヶ谷では見られない光景です。晴天なのでとても綺麗です」
「こういう景色を見ると、俺達は都会に来たんだって実感できるな!」
「そう言うと、あたし達が田舎の人に感じるよ、和男君」
和男と清水さんの言葉に、俺達みんな声に出して笑う。そのことで、緊張や不安が少しほぐれた。
萩窪や笠ヶ谷では、高層ビルやマンション、商業施設が立ち並んでいるのは駅周辺くらい。和男が「都会に来た!」って言うのも納得できる。
やがて、マシンは一番上まで到達し、一時停止する。
「ああ……この待たされる感じ。緊張感が増すな」
「そうですね」
「美羽と去年来たときは何度か乗ったけど、停止している時間はバラバラだったな」
「そうだったね。だから、何度乗っても飽きないよね」
清水さんの言うのも一つの理由だと思うし、時間をバラバラにすることで「今回はいつ落ちるんだろう?」という緊張感にも繋がる。上手い演出だ。
「実際は短いかもしれないッスけど、こうしている時間がとても長く感じるッス」
「沙綾の言うこと分かるわ。いつ落ちるのかしら? あと、あたしが2人のスカートを押さえているから安心しなさい!」
「ありがとうございます。明斗さんも手を繋いでいますから安心してくださいね」
「あり――がああっ!」
お礼を言う時間くらいくれてもいいじゃないか! 空気読めよフリーフォール!
「うわあああっ!」
顔に風が! 脚が宙ぶらりんになっているのもあって、フワッと浮いた感覚に。
チラッと氷織を見ると、ジェットコースターのときと同じように「きゃああっ!」と楽しそうに叫んでいる。
右からは氷織達3人の可愛らしい叫びのユニゾン。左からは和男と清水さんによる叫びのハーモニーが聞こえる中、俺も叫びまくるのであった。もちろん、氷織の手をしっかりと繋いだままで。
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