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続編
第64話『連休の終わり』
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5月6日、月曜日。
目を覚ますと、美優先輩が優しい笑顔で俺のことを覗き込むようにして見ていた。先輩は俺と目が合うとニッコリ笑い、頭を優しく撫でてくれる。
「おはよう、由弦君」
「おはようございます」
「今日も早く起きられて良かった。由弦君の可愛い寝顔を見られたから。ただ、3分くらい前に起きたから、今日も由弦君の顔を胸に埋めようか考えてる最中だったけどね」
「そうだったんですか」
もう少し後に目を覚ませば良かったかな。
それにしても、起きたときに一糸纏わぬ姿の美優先輩がいると、まだ旅行中って感じがする。
「どうしたの、由弦君。嬉しそうに笑って」
「……まだ旅行中かなと思ってしまって」
「ふふっ。旅行中はお互いに服を着ずに寝たもんね。ホテルの部屋だと特別な感じがするけど、この寝室だと由弦君と本当にそういう関係になれたんだなって実感できるの。それがとても幸せで」
「そうですか。……これからも、たまにこういう朝を迎えましょう」
「そうだね」
ただ、美優先輩との夜はとても楽しく、時間があっという間に過ぎていってしまう。だから、翌日に学校のある日は避けた方がいいかもしれない。
「由弦君。今日もおはようのキスをしてくれますか?」
「もちろんですよ」
「ありがとう。……由弦君、大好き」
「俺も大好きです」
俺は美優先輩と抱きしめ合い、キスを交わす。先輩と全身で触れ合うと幸せで温かい気持ちになるな。もちろん、昨日までの3日間の夜のことを思い出し、ドキドキもしてくる。
「んっ……」
美優先輩もドキドキしているのか、先輩の方から舌をゆっくり絡ませてくる。先輩からは強い温もりと、確かな鼓動が伝わってくる。そんな先輩についていくように、俺の体も熱くなって、鼓動が早くなっていく。
ゆっくり唇を離すと、美優先輩の顔には昨日の夜にたくさん見せてくれた艶やかな笑みが浮かんでいた。
「今日も由弦君のおかげで幸せな朝になりました」
「俺も幸せな朝を迎えることができました」
「ふふっ。……まだ平成だった10連休の初日と比べると、更に由弦君との距離が縮まった気がする」
「そうですね。霧嶋先生の家にGを退治したり、映画デートしたり、お互いの姉妹が来たり、旅行に行ったりと色々なことがありましたからね」
「楽しいことがたくさんあったよね! まあ、物理的には距離が縮まったどころか、くっついたときもあったけど」
ふふっ、と美優先輩に楽しそうに笑う。
この10連休で、美優先輩の性的な意味での欲の強さや深さを思い知ったよ。こういった部分は是非、俺と2人きりのときだけに発揮されてほしいものだ。そう思いながら先輩の頭を優しく撫でた。
「ふぅ、洗濯物も終わった」
「お疲れ様です。紅茶を淹れたいと思っていますが、アイスとホットどっちがいいですか?」
「アイスがいいな」
「分かりました。では、ソファーに座ってくつろいでください」
「うん! ありがとう」
俺はキッチンで美優先輩と自分の分のアイスティーを作り、それを持って美優先輩のところへと持っていく。
「お待たせしました、アイスティーです」
「ありがとう、由弦君」
美優先輩の前にアイスティーを置き、俺は彼女の隣に腰を下ろす。
「由弦君、朝食の後片付けとリビングの掃除お疲れ様でした」
「ありがとうございます。美優先輩も洗濯の方、お疲れ様でした」
「ありがとう。じゃあ、アイスティーいただきます」
「いただきます」
美優先輩の方から軽くマグカップを当てて、アイスティーを飲む。掃除をして体が温かくなっているから、冷たい飲み物がとても美味しく感じる。
「美味しい。今日みたいに晴れていると、体を動かすと体が熱くなりやすいし、冷たい飲み物が美味しくなるよね」
「俺も同じことを思いました。中間試験が終わったら、もう夏なんですね」
「そうしたら、プールの授業が始まるね」
「……ですね。旅行中の練習の成果を発揮しないと」
昨日のうちに、メモ帳に風花から教わった泳ぎのポイントを纏めておいた。もし、忘れているようなことがあったら、それで復習することにしよう。
「それにしても、今日で連休が終わるんだね」
「そうですね」
10日間にもおよぶゴールデンウィークも今日で終わる。
もう連休が終わってしまうのかというよりも、連休中は色々なことがあったなぁという想いの方が強い。また、明日が誕生日なので、例年通り、ゴールデンウィークがもうすぐ終わることの憂鬱さは感じていない。
すると、美優先輩は俺にゆっくりと寄り掛かり、うっとりした様子で俺のことを見る。
「明日にならずに、このままずっと由弦君とのんびり過ごせたらいいのに」
「それもいいですね。ただ、明日になれば俺は16歳になります」
「……連休は今日まででいいね」
それがいいよ、と美優先輩は納得した様子になり、アイスティーをもう一口飲む。
「年下の由弦君もいいけれど、同い年になった由弦君とも出会いたい。……あれ? 法的には今日で16歳になるんだっけ?」
「そうですね。ただ、ちゃんと誕生日を迎えたいです。俺は誕生日があるので、ゴールデンウィークの最終日もそんなにガッカリはしませんけど、美優先輩ってどうですか?」
「夏休みだと嫌だなって思うけど、ゴールデンウィークぐらいの長さだとガッカリしないかな。お休みも楽しいけど、学校には友達がいるからね」
「そうですか」
今年もクラスには花柳先輩という親友がいるし、美優先輩が五月病になることはなさそうかな。
「明日は由弦君の誕生日だし、明後日には令和初の料理部の活動があるからね。連休明けが楽しみだよ」
「そうですか。俺も美優先輩達のおかげで、今まで以上に連休明けが楽しみです」
「……そう言ってくれて嬉しい」
美優先輩は可愛らしい笑顔を浮かべて俺にキスしてくる。アイスティーを飲んだからか、彼女の唇から紅茶の香りと砂糖の甘味が感じられて。彼女のことを抱きしめ、朝とは違って今度は俺の方から舌を絡ませた。そのことで、より甘味が強くなった気がした。
ゆっくりと唇を離すと、美優先輩は「えへへっ」と笑って、俺の胸に頭をスリスリしてくる。
「由弦君の胸の中はあったかくて気持ちいいな」
「可愛いですね、美優先輩は」
「ふふっ。……そうだ、由弦君。今日は午後にお買い物に行きたいなって思ってて。明日は由弦君のお誕生日だから、夕食にパーティーをしたくて。旅行中、大浴場でそのことを話して、風花ちゃんと瑠衣ちゃんと4人で一緒にパーティーをしようってことになったの」
「そうなんですか。ありがとうございます。楽しみですね」
旅行中にそんな話をしていたのか。全然知らなかったな。5月という時期もあってか、今年の誕生日はそういったお祝い事はないと思っていたので、嬉しいし有り難いとも思う。
「良かった、由弦君がそう言ってくれて。パーティーのときに出すケーキやお料理の食材を買いたいなって。ケーキは普通のケーキと、チョコレートケーキ、どっちがいい?」
「チョコが好きなので、チョコレートケーキがいいですね」
「うん、分かった!」
俺が中学生くらいになってから、自分の誕生日ではチョコレートケーキを食べることが恒例になった。
そういえば、去年までは俺の誕生日は普段よりも豪華な夕飯を食べて、その後にケーキを食べたけど、今年はどうするんだろう? うちの家族のことだから、テーブルに俺の写真を置いて、豪華な食事やケーキを楽しみそうな気がする。
「あと、由弦君への誕生日プレゼントを買いたくて。連休前にバイト代をもらったし、旅行中にいいものがあったら買おうと思ったんだけど、なかなか見つからなくて」
「そうだったんですか」
「候補はいくつか考えてはいるの。プレゼントは明日のお楽しみにしたいから、ショッピングセンターでは少しだけ別行動になるけどいいかな?」
「もちろんいいですよ。どんなプレゼントか楽しみにしています」
「うんっ!」
美優先輩、とても楽しげな笑みを浮かべている。誕生日パーティーのためにケーキや料理を作ってくれるだけでもとても嬉しい。
俺としては美優先輩と一緒に過ごす時間や、その中での楽しい出来事も16歳になった俺へのプレゼントだと思っている。ただ、美優先輩が明日、どんなものをプレゼントしてくれるのか楽しみにしておこう。
午後になると、予定通り、ショッピングセンターへと買い物に行く。このゴールデンウィーク中は風花達と一緒にいることが多かったので、2人きりでどこかに出かけるのはひさしぶりな気がする。旅行1日目の夜の散歩を除けば、先週のデート以来かな?
ショッピングセンターに到着し、美優先輩は俺への誕生日プレゼントを買うために一時的に別行動を取ることに。俺は……本屋にでも行こうかな。
――プルルッ。
スマートフォンが鳴ったので見てみると、雫姉さんから電話がかかってきていた。
「もしもし」
『もしもし。今、大丈夫?』
「ああ、大丈夫だよ。どうかした?」
『旅行のお土産、ついさっき届いたよ。お菓子やゆるキャラのグッズを買ってくれてありがとね』
「いえいえ」
昨日の朝、ホテルの宅配サービスを利用したけれど、もう静岡の実家に届いたのか。宅配便って凄いんだな。
『旅行は楽しかった?』
「ああ。とても楽しかったよ」
『それなら良かった。夏休みか年末年始に帰ってきたときに、旅行のことをゆっくりと訊かせてね。……ところで、例のプレゼントを使う機会はあった?』
ふふっ、と雫姉さんは笑っている。姉さんの厭らしい笑みが容易に想像できる。まったく、何を訊いてくるかと思えば。ただ、アレをプレゼントしてくれたので、ちゃんと報告しないと。
「旅行中に使わせてもらったよ。ただ、美優先輩が連休前に大量に買っていたけど」
『ふふっ、そうだったんだ。やっぱりね。美優ちゃん、優しくて大人しい雰囲気の子だけど、そっちのことにはかなり積極的な感じがしたから。そっかそっか』
ははっ、当たってやがる。雫姉さんの見る目は凄いな。
『これからも美優ちゃんのことを大切にしなさい。あと、明日もメッセージとかを送ると思うけど、ゆーくん、16歳のお誕生日おめでとう』
「ありがとう、姉さん」
『ふふっ。じゃあ、またね!』
そう言って、雫姉さんの方から通話を切った。
今思えば、雫姉さんがくれた特別なプレゼントがあったおかげもあって、旅行中に美優先輩とのより確かな関係を築くことができた。そう考えると、雫姉さんは凄いプレゼントをくれたのかも。
「どうもありがとう」
電話中に言えば良かったかもしれないけど、雫姉さんにからかわれそうなので言わなくて正解だったか。
その後、俺への誕生日プレゼントを買うことができた美優先輩とショッピングセンターの中をゆっくり廻り、その帰りにスーパーで明日のための食材を買った。
高校生最初のゴールデンウィークは、美優先輩達のおかげで本当に楽しくて忘れられない連休になったな。翌日が誕生日なのもあって、最後まで明るい気分の中で連休が終わっていったのであった。
目を覚ますと、美優先輩が優しい笑顔で俺のことを覗き込むようにして見ていた。先輩は俺と目が合うとニッコリ笑い、頭を優しく撫でてくれる。
「おはよう、由弦君」
「おはようございます」
「今日も早く起きられて良かった。由弦君の可愛い寝顔を見られたから。ただ、3分くらい前に起きたから、今日も由弦君の顔を胸に埋めようか考えてる最中だったけどね」
「そうだったんですか」
もう少し後に目を覚ませば良かったかな。
それにしても、起きたときに一糸纏わぬ姿の美優先輩がいると、まだ旅行中って感じがする。
「どうしたの、由弦君。嬉しそうに笑って」
「……まだ旅行中かなと思ってしまって」
「ふふっ。旅行中はお互いに服を着ずに寝たもんね。ホテルの部屋だと特別な感じがするけど、この寝室だと由弦君と本当にそういう関係になれたんだなって実感できるの。それがとても幸せで」
「そうですか。……これからも、たまにこういう朝を迎えましょう」
「そうだね」
ただ、美優先輩との夜はとても楽しく、時間があっという間に過ぎていってしまう。だから、翌日に学校のある日は避けた方がいいかもしれない。
「由弦君。今日もおはようのキスをしてくれますか?」
「もちろんですよ」
「ありがとう。……由弦君、大好き」
「俺も大好きです」
俺は美優先輩と抱きしめ合い、キスを交わす。先輩と全身で触れ合うと幸せで温かい気持ちになるな。もちろん、昨日までの3日間の夜のことを思い出し、ドキドキもしてくる。
「んっ……」
美優先輩もドキドキしているのか、先輩の方から舌をゆっくり絡ませてくる。先輩からは強い温もりと、確かな鼓動が伝わってくる。そんな先輩についていくように、俺の体も熱くなって、鼓動が早くなっていく。
ゆっくり唇を離すと、美優先輩の顔には昨日の夜にたくさん見せてくれた艶やかな笑みが浮かんでいた。
「今日も由弦君のおかげで幸せな朝になりました」
「俺も幸せな朝を迎えることができました」
「ふふっ。……まだ平成だった10連休の初日と比べると、更に由弦君との距離が縮まった気がする」
「そうですね。霧嶋先生の家にGを退治したり、映画デートしたり、お互いの姉妹が来たり、旅行に行ったりと色々なことがありましたからね」
「楽しいことがたくさんあったよね! まあ、物理的には距離が縮まったどころか、くっついたときもあったけど」
ふふっ、と美優先輩に楽しそうに笑う。
この10連休で、美優先輩の性的な意味での欲の強さや深さを思い知ったよ。こういった部分は是非、俺と2人きりのときだけに発揮されてほしいものだ。そう思いながら先輩の頭を優しく撫でた。
「ふぅ、洗濯物も終わった」
「お疲れ様です。紅茶を淹れたいと思っていますが、アイスとホットどっちがいいですか?」
「アイスがいいな」
「分かりました。では、ソファーに座ってくつろいでください」
「うん! ありがとう」
俺はキッチンで美優先輩と自分の分のアイスティーを作り、それを持って美優先輩のところへと持っていく。
「お待たせしました、アイスティーです」
「ありがとう、由弦君」
美優先輩の前にアイスティーを置き、俺は彼女の隣に腰を下ろす。
「由弦君、朝食の後片付けとリビングの掃除お疲れ様でした」
「ありがとうございます。美優先輩も洗濯の方、お疲れ様でした」
「ありがとう。じゃあ、アイスティーいただきます」
「いただきます」
美優先輩の方から軽くマグカップを当てて、アイスティーを飲む。掃除をして体が温かくなっているから、冷たい飲み物がとても美味しく感じる。
「美味しい。今日みたいに晴れていると、体を動かすと体が熱くなりやすいし、冷たい飲み物が美味しくなるよね」
「俺も同じことを思いました。中間試験が終わったら、もう夏なんですね」
「そうしたら、プールの授業が始まるね」
「……ですね。旅行中の練習の成果を発揮しないと」
昨日のうちに、メモ帳に風花から教わった泳ぎのポイントを纏めておいた。もし、忘れているようなことがあったら、それで復習することにしよう。
「それにしても、今日で連休が終わるんだね」
「そうですね」
10日間にもおよぶゴールデンウィークも今日で終わる。
もう連休が終わってしまうのかというよりも、連休中は色々なことがあったなぁという想いの方が強い。また、明日が誕生日なので、例年通り、ゴールデンウィークがもうすぐ終わることの憂鬱さは感じていない。
すると、美優先輩は俺にゆっくりと寄り掛かり、うっとりした様子で俺のことを見る。
「明日にならずに、このままずっと由弦君とのんびり過ごせたらいいのに」
「それもいいですね。ただ、明日になれば俺は16歳になります」
「……連休は今日まででいいね」
それがいいよ、と美優先輩は納得した様子になり、アイスティーをもう一口飲む。
「年下の由弦君もいいけれど、同い年になった由弦君とも出会いたい。……あれ? 法的には今日で16歳になるんだっけ?」
「そうですね。ただ、ちゃんと誕生日を迎えたいです。俺は誕生日があるので、ゴールデンウィークの最終日もそんなにガッカリはしませんけど、美優先輩ってどうですか?」
「夏休みだと嫌だなって思うけど、ゴールデンウィークぐらいの長さだとガッカリしないかな。お休みも楽しいけど、学校には友達がいるからね」
「そうですか」
今年もクラスには花柳先輩という親友がいるし、美優先輩が五月病になることはなさそうかな。
「明日は由弦君の誕生日だし、明後日には令和初の料理部の活動があるからね。連休明けが楽しみだよ」
「そうですか。俺も美優先輩達のおかげで、今まで以上に連休明けが楽しみです」
「……そう言ってくれて嬉しい」
美優先輩は可愛らしい笑顔を浮かべて俺にキスしてくる。アイスティーを飲んだからか、彼女の唇から紅茶の香りと砂糖の甘味が感じられて。彼女のことを抱きしめ、朝とは違って今度は俺の方から舌を絡ませた。そのことで、より甘味が強くなった気がした。
ゆっくりと唇を離すと、美優先輩は「えへへっ」と笑って、俺の胸に頭をスリスリしてくる。
「由弦君の胸の中はあったかくて気持ちいいな」
「可愛いですね、美優先輩は」
「ふふっ。……そうだ、由弦君。今日は午後にお買い物に行きたいなって思ってて。明日は由弦君のお誕生日だから、夕食にパーティーをしたくて。旅行中、大浴場でそのことを話して、風花ちゃんと瑠衣ちゃんと4人で一緒にパーティーをしようってことになったの」
「そうなんですか。ありがとうございます。楽しみですね」
旅行中にそんな話をしていたのか。全然知らなかったな。5月という時期もあってか、今年の誕生日はそういったお祝い事はないと思っていたので、嬉しいし有り難いとも思う。
「良かった、由弦君がそう言ってくれて。パーティーのときに出すケーキやお料理の食材を買いたいなって。ケーキは普通のケーキと、チョコレートケーキ、どっちがいい?」
「チョコが好きなので、チョコレートケーキがいいですね」
「うん、分かった!」
俺が中学生くらいになってから、自分の誕生日ではチョコレートケーキを食べることが恒例になった。
そういえば、去年までは俺の誕生日は普段よりも豪華な夕飯を食べて、その後にケーキを食べたけど、今年はどうするんだろう? うちの家族のことだから、テーブルに俺の写真を置いて、豪華な食事やケーキを楽しみそうな気がする。
「あと、由弦君への誕生日プレゼントを買いたくて。連休前にバイト代をもらったし、旅行中にいいものがあったら買おうと思ったんだけど、なかなか見つからなくて」
「そうだったんですか」
「候補はいくつか考えてはいるの。プレゼントは明日のお楽しみにしたいから、ショッピングセンターでは少しだけ別行動になるけどいいかな?」
「もちろんいいですよ。どんなプレゼントか楽しみにしています」
「うんっ!」
美優先輩、とても楽しげな笑みを浮かべている。誕生日パーティーのためにケーキや料理を作ってくれるだけでもとても嬉しい。
俺としては美優先輩と一緒に過ごす時間や、その中での楽しい出来事も16歳になった俺へのプレゼントだと思っている。ただ、美優先輩が明日、どんなものをプレゼントしてくれるのか楽しみにしておこう。
午後になると、予定通り、ショッピングセンターへと買い物に行く。このゴールデンウィーク中は風花達と一緒にいることが多かったので、2人きりでどこかに出かけるのはひさしぶりな気がする。旅行1日目の夜の散歩を除けば、先週のデート以来かな?
ショッピングセンターに到着し、美優先輩は俺への誕生日プレゼントを買うために一時的に別行動を取ることに。俺は……本屋にでも行こうかな。
――プルルッ。
スマートフォンが鳴ったので見てみると、雫姉さんから電話がかかってきていた。
「もしもし」
『もしもし。今、大丈夫?』
「ああ、大丈夫だよ。どうかした?」
『旅行のお土産、ついさっき届いたよ。お菓子やゆるキャラのグッズを買ってくれてありがとね』
「いえいえ」
昨日の朝、ホテルの宅配サービスを利用したけれど、もう静岡の実家に届いたのか。宅配便って凄いんだな。
『旅行は楽しかった?』
「ああ。とても楽しかったよ」
『それなら良かった。夏休みか年末年始に帰ってきたときに、旅行のことをゆっくりと訊かせてね。……ところで、例のプレゼントを使う機会はあった?』
ふふっ、と雫姉さんは笑っている。姉さんの厭らしい笑みが容易に想像できる。まったく、何を訊いてくるかと思えば。ただ、アレをプレゼントしてくれたので、ちゃんと報告しないと。
「旅行中に使わせてもらったよ。ただ、美優先輩が連休前に大量に買っていたけど」
『ふふっ、そうだったんだ。やっぱりね。美優ちゃん、優しくて大人しい雰囲気の子だけど、そっちのことにはかなり積極的な感じがしたから。そっかそっか』
ははっ、当たってやがる。雫姉さんの見る目は凄いな。
『これからも美優ちゃんのことを大切にしなさい。あと、明日もメッセージとかを送ると思うけど、ゆーくん、16歳のお誕生日おめでとう』
「ありがとう、姉さん」
『ふふっ。じゃあ、またね!』
そう言って、雫姉さんの方から通話を切った。
今思えば、雫姉さんがくれた特別なプレゼントがあったおかげもあって、旅行中に美優先輩とのより確かな関係を築くことができた。そう考えると、雫姉さんは凄いプレゼントをくれたのかも。
「どうもありがとう」
電話中に言えば良かったかもしれないけど、雫姉さんにからかわれそうなので言わなくて正解だったか。
その後、俺への誕生日プレゼントを買うことができた美優先輩とショッピングセンターの中をゆっくり廻り、その帰りにスーパーで明日のための食材を買った。
高校生最初のゴールデンウィークは、美優先輩達のおかげで本当に楽しくて忘れられない連休になったな。翌日が誕生日なのもあって、最後まで明るい気分の中で連休が終わっていったのであった。
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