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続編
第47話『山高く師怯える春』
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午前9時。
朝食を食べ終わり、食休みをした俺達は観光をしにホテルを出発する。
最初に行くところは花柳先輩が希望していた御立山。ロープウェイ乗り場まではホテルから車で30分ほどらしい。
ちなみに、今は霧嶋先生が運転しており、助手席は大宮先生。後部座席の席順は気分転換にと、昨日とは違って1列目に美優先輩と俺、2列目に風花と花柳先輩が座っている。
「前後で入れ替わっただけなのに、雰囲気が結構違うね」
「ですね。後ろにも人がいるからでしょうか」
ただ、後ろに座っているのが風花と花柳先輩だから不安だな。いたずらされそうな気がして。思わず何度も振り返ってしまう。
「由弦、大丈夫だって。何にもしないから」
「……その言葉を信じてるよ」
さすがに車の中で何かしてくることはないか。小学生くらいまでならまだしも、2人は高校生だもんな。
美優先輩と手を重ねると、先輩は俺にそっと寄り掛かってくる。先輩と目が合うと、先輩は「えへへっ」と笑う。こんなに可愛い恋人と一緒にこれから観光できるなんて。俺は幸せ者だ。
「瑠衣先輩。今日は晴れて良かったですね。山頂から綺麗な景色を見られそうですし」
「そうね。あと、行き帰りのロープウェイも楽しみで。旅行のときくらいしか乗らないし、360度どの方向を見ても景色が少しずつ変わっていくのが好きで」
「そうなんですか。確かに、旅行のときしか乗らないと特別な感じがしていいですよね」
俺もロープウェイに乗ったことはあるけど、花柳先輩と同じく旅行のときにしか乗ったことがないな。
そういえば、心愛は絶叫系が得意なのに何故か高いところが苦手だから、ずっと俺か雫姉さんにしがみついていたな。
「美優先輩って高いところは大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。絶叫系で高いところから落ちるアトラクションは苦手だけれど。あと、展望台とかの高い建物って、たまに床が透明なスペースがあるじゃない。ああいうところは苦手かな」
「なるほど」
普通に高いところへ行く分には問題ないって感じか。
「由弦君はどう?」
「俺も大丈夫ですね。落下する絶叫系は昨日話したように強いです。風花や花柳先輩は高いところはどうですか?」
「あたしは大好きだよ!」
「あたしも好きだね。高いところに行くと、広い景色を見ることができることが多いから。それもあって、御立山に行きたいって言ってみたの」
「そうなんですか。俺も広い景色が見られる場所は好きです」
高いところが苦手だったら、御立山に行きたいなんて言わないか。しかも、麓からロープウェイで山頂まで登っていくし。
「霧嶋先生や大宮先生はどうですか?」
「白鳥さんと同じね。高いところは平気だけど、落下するアトラクションは苦手という感じかしら」
「あたしは高いところも絶叫系も大丈夫だよ。ただ、ロープウェイは苦手かな。小さい頃、家族で旅行に行ったときに乗ったことがあって。途中、電線のトラブルでしばらくの間、宙づりになったことがあったの。風が結構強めでロープウェイも揺れていたから。ただ、それも20年近く前の話だから、今だったら大丈夫かもしれない」
大宮先生は微笑みながらそう言う。
大宮先生でも怖いものってあるんだな。ちょっと意外だ。学校でも、この旅行でも笑顔でいることが多くて、落ち着いているから。
ただ、長い時間宙づりで、しかも揺れている状態が続いたらロープウェイが怖いと思ってしまうのは仕方ないか。想像しただけで、少し体が震えてしまう。
「もし、今日ロープウェイに乗ったときに怖いと思ったら、私にしがみついてくださいね、成実さん」
「あらっ、一佳ちゃんったら頼もしい!」
「ふふっ」
大宮先生に頼もしいと言われて嬉しいのか、霧嶋先生はいい笑顔を浮かべている。どんなことでも先輩に頼もしいって言われるのって嬉しくなるか。
そんな話題で話が盛り上がったこともあってか、あっという間に御立山のロープウェイ乗り場に到着した。人気のある場所だからか、午前9時半過ぎの今の段階で駐車場には乗用車や観光バスが何台も駐車している。
「あぁ、こういうところだったな。あの大きなロープウェイで数百メートル以上も登って頂上に行くんだよ」
一度来たことがある美優先輩は懐かしそうにそう言って、今、頂上へと動き始めた赤いロープウェイを指さしている。
「立派そうなロープウェイですね。乗るのが楽しみですね、瑠衣先輩」
「ええ。今日は晴れているし、ロープウェイや頂上からの景色が楽しみだわ。乗り場はあっちみたいね」
御立山に行きたいと希望を出しただけあってか、花柳先輩が先導を切っている。先輩らしい頼もしさも感じられるな。
ロープウェイの受け付けでチケットを買い、俺達はロープウェイの乗降口へと向かう。
案内板に時刻表が貼られており、それによると次は午前9時45分に発車する。頂上まではおよそ15分かかるとのこと。
「あのときの記憶が鮮明に蘇ってきた。一佳ちゃん、頂上に着くまでずっと手を繋いでいてね。離さないでね!」
「分かっていますよ。成実さんったら、可愛いですね」
霧嶋先生と大宮先生は手をぎゅっと握り合っている。大宮先生の顔色があまり良くない中、霧嶋先生は優しい笑みを浮かべている。何だか、いつもと立場が逆転しているような。霧嶋先生がとてもイケメンに見える。
また、そんな先生方の様子を見たのか、美優先輩は一旦手を離して、指まで絡ませる恋人繋ぎをしてきた。
待ち始めてから数分ほど経って、頂上から降りてきたロープウェイが到着する。こうして見てみると結構大きいな。
頂上から乗ってきたお客さんが全員降りた後、俺達はロープウェイに乗る。中はとても広くてゆったりしているな。あと、電車みたいにつり革や椅子まであるのか。
俺、美優先輩、風花、花柳先輩は景色がよく見える窓側に立つ。ロープウェイが進む中でどんな景色を見ることができるのか楽しみだ。
また、大宮先生は椅子に座り、そんな先生と手を繋ぎながら霧嶋先生はつり革を握っている。
『本日は御立山ロープウェイにご乗車いただきありがとうございます。それでは、山頂に向かって発車します。ロープウェイでの旅をお楽しみください!』
そんなアナウンスが聞こえてすぐ、ロープウェイが山頂に向かって発車する。その瞬間に少し揺れたからか、大宮先生は「きゃっ」と可愛らしい声を漏らしていた。
ロープウェイが動き出して少し経つと、乗り場の駐車場はもちろんのこと、段々と麓にある御立市の街並みが見えてきた。
「うわあっ、綺麗……」
「いいですね、瑠衣先輩。自然もいっぱいですし、こういう景色を見るとまさに旅行に来たって感じがしますね!」
「ええ! さっそくここに来て良かったって思い始めてるよ!」
花柳先輩と風花はとても興奮した様子でロープウェイからの景色を堪能している。花柳先輩はスマホやデジカメで写真撮影をしている。
「いい景色ですね、美優先輩」
「そうだね。家族で前に来たときは夏休みだったけど、あのときとあまり景色は変わらないな。だから、懐かしい気持ちになるよ。あのときは朱莉と一緒にこうして手を繋いで景色を楽しんだな。葵はとても小さかったから、お母さんに抱かれてた」
「そうだったんですね」
「まさか、高校生になって恋人や友達、学校の先生方と一緒に来るとは思わなかったな。しかも、その恋人と同棲しているなんて」
ふふっ、と美優先輩は嬉しそうに笑う。そんな先輩の姿はもちろんのこと、ロープウェイから見える景色を俺もスマホやデジカメで撮影していく。
「成実さん。この広い景色を見ると、気分が落ち着くかもしれません。ほら、街の向こうには青くて綺麗な海が見えますよ」
「……本当だ」
それまで笑顔が少なかった大宮先生も、ロープウェイからの景色を見ていつもの柔らかい笑顔を見せるように。たまに霧嶋先生と笑い合っているから、もはやカップルにしか見えない。
頂上に近づくとより景色が広くなっていき、霧嶋先生の言うように麓の街並みの先には青くて綺麗な海を見ることができる。これも、よく晴れているからこそ見ることのできる景色なんだよな。そう思うと運がいいなって思う。
「本当にいい景色ですね。今日、美優先輩達とここに来ることができて良かったです。忘れることのない景色の一つになりそうです。また一緒にここに来たときは、懐かしいって思えそうです」
「そう思ってくれて良かった。私も素敵な思い出が一つできたよ。……また一緒に来ようね、由弦君」
周りに風花達がいるからなのか、美優先輩は俺の頬にキスしてきた。今のキスもあり、ここから見える景色で一番いいのは隣にいる先輩だと思うのであった。
朝食を食べ終わり、食休みをした俺達は観光をしにホテルを出発する。
最初に行くところは花柳先輩が希望していた御立山。ロープウェイ乗り場まではホテルから車で30分ほどらしい。
ちなみに、今は霧嶋先生が運転しており、助手席は大宮先生。後部座席の席順は気分転換にと、昨日とは違って1列目に美優先輩と俺、2列目に風花と花柳先輩が座っている。
「前後で入れ替わっただけなのに、雰囲気が結構違うね」
「ですね。後ろにも人がいるからでしょうか」
ただ、後ろに座っているのが風花と花柳先輩だから不安だな。いたずらされそうな気がして。思わず何度も振り返ってしまう。
「由弦、大丈夫だって。何にもしないから」
「……その言葉を信じてるよ」
さすがに車の中で何かしてくることはないか。小学生くらいまでならまだしも、2人は高校生だもんな。
美優先輩と手を重ねると、先輩は俺にそっと寄り掛かってくる。先輩と目が合うと、先輩は「えへへっ」と笑う。こんなに可愛い恋人と一緒にこれから観光できるなんて。俺は幸せ者だ。
「瑠衣先輩。今日は晴れて良かったですね。山頂から綺麗な景色を見られそうですし」
「そうね。あと、行き帰りのロープウェイも楽しみで。旅行のときくらいしか乗らないし、360度どの方向を見ても景色が少しずつ変わっていくのが好きで」
「そうなんですか。確かに、旅行のときしか乗らないと特別な感じがしていいですよね」
俺もロープウェイに乗ったことはあるけど、花柳先輩と同じく旅行のときにしか乗ったことがないな。
そういえば、心愛は絶叫系が得意なのに何故か高いところが苦手だから、ずっと俺か雫姉さんにしがみついていたな。
「美優先輩って高いところは大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。絶叫系で高いところから落ちるアトラクションは苦手だけれど。あと、展望台とかの高い建物って、たまに床が透明なスペースがあるじゃない。ああいうところは苦手かな」
「なるほど」
普通に高いところへ行く分には問題ないって感じか。
「由弦君はどう?」
「俺も大丈夫ですね。落下する絶叫系は昨日話したように強いです。風花や花柳先輩は高いところはどうですか?」
「あたしは大好きだよ!」
「あたしも好きだね。高いところに行くと、広い景色を見ることができることが多いから。それもあって、御立山に行きたいって言ってみたの」
「そうなんですか。俺も広い景色が見られる場所は好きです」
高いところが苦手だったら、御立山に行きたいなんて言わないか。しかも、麓からロープウェイで山頂まで登っていくし。
「霧嶋先生や大宮先生はどうですか?」
「白鳥さんと同じね。高いところは平気だけど、落下するアトラクションは苦手という感じかしら」
「あたしは高いところも絶叫系も大丈夫だよ。ただ、ロープウェイは苦手かな。小さい頃、家族で旅行に行ったときに乗ったことがあって。途中、電線のトラブルでしばらくの間、宙づりになったことがあったの。風が結構強めでロープウェイも揺れていたから。ただ、それも20年近く前の話だから、今だったら大丈夫かもしれない」
大宮先生は微笑みながらそう言う。
大宮先生でも怖いものってあるんだな。ちょっと意外だ。学校でも、この旅行でも笑顔でいることが多くて、落ち着いているから。
ただ、長い時間宙づりで、しかも揺れている状態が続いたらロープウェイが怖いと思ってしまうのは仕方ないか。想像しただけで、少し体が震えてしまう。
「もし、今日ロープウェイに乗ったときに怖いと思ったら、私にしがみついてくださいね、成実さん」
「あらっ、一佳ちゃんったら頼もしい!」
「ふふっ」
大宮先生に頼もしいと言われて嬉しいのか、霧嶋先生はいい笑顔を浮かべている。どんなことでも先輩に頼もしいって言われるのって嬉しくなるか。
そんな話題で話が盛り上がったこともあってか、あっという間に御立山のロープウェイ乗り場に到着した。人気のある場所だからか、午前9時半過ぎの今の段階で駐車場には乗用車や観光バスが何台も駐車している。
「あぁ、こういうところだったな。あの大きなロープウェイで数百メートル以上も登って頂上に行くんだよ」
一度来たことがある美優先輩は懐かしそうにそう言って、今、頂上へと動き始めた赤いロープウェイを指さしている。
「立派そうなロープウェイですね。乗るのが楽しみですね、瑠衣先輩」
「ええ。今日は晴れているし、ロープウェイや頂上からの景色が楽しみだわ。乗り場はあっちみたいね」
御立山に行きたいと希望を出しただけあってか、花柳先輩が先導を切っている。先輩らしい頼もしさも感じられるな。
ロープウェイの受け付けでチケットを買い、俺達はロープウェイの乗降口へと向かう。
案内板に時刻表が貼られており、それによると次は午前9時45分に発車する。頂上まではおよそ15分かかるとのこと。
「あのときの記憶が鮮明に蘇ってきた。一佳ちゃん、頂上に着くまでずっと手を繋いでいてね。離さないでね!」
「分かっていますよ。成実さんったら、可愛いですね」
霧嶋先生と大宮先生は手をぎゅっと握り合っている。大宮先生の顔色があまり良くない中、霧嶋先生は優しい笑みを浮かべている。何だか、いつもと立場が逆転しているような。霧嶋先生がとてもイケメンに見える。
また、そんな先生方の様子を見たのか、美優先輩は一旦手を離して、指まで絡ませる恋人繋ぎをしてきた。
待ち始めてから数分ほど経って、頂上から降りてきたロープウェイが到着する。こうして見てみると結構大きいな。
頂上から乗ってきたお客さんが全員降りた後、俺達はロープウェイに乗る。中はとても広くてゆったりしているな。あと、電車みたいにつり革や椅子まであるのか。
俺、美優先輩、風花、花柳先輩は景色がよく見える窓側に立つ。ロープウェイが進む中でどんな景色を見ることができるのか楽しみだ。
また、大宮先生は椅子に座り、そんな先生と手を繋ぎながら霧嶋先生はつり革を握っている。
『本日は御立山ロープウェイにご乗車いただきありがとうございます。それでは、山頂に向かって発車します。ロープウェイでの旅をお楽しみください!』
そんなアナウンスが聞こえてすぐ、ロープウェイが山頂に向かって発車する。その瞬間に少し揺れたからか、大宮先生は「きゃっ」と可愛らしい声を漏らしていた。
ロープウェイが動き出して少し経つと、乗り場の駐車場はもちろんのこと、段々と麓にある御立市の街並みが見えてきた。
「うわあっ、綺麗……」
「いいですね、瑠衣先輩。自然もいっぱいですし、こういう景色を見るとまさに旅行に来たって感じがしますね!」
「ええ! さっそくここに来て良かったって思い始めてるよ!」
花柳先輩と風花はとても興奮した様子でロープウェイからの景色を堪能している。花柳先輩はスマホやデジカメで写真撮影をしている。
「いい景色ですね、美優先輩」
「そうだね。家族で前に来たときは夏休みだったけど、あのときとあまり景色は変わらないな。だから、懐かしい気持ちになるよ。あのときは朱莉と一緒にこうして手を繋いで景色を楽しんだな。葵はとても小さかったから、お母さんに抱かれてた」
「そうだったんですね」
「まさか、高校生になって恋人や友達、学校の先生方と一緒に来るとは思わなかったな。しかも、その恋人と同棲しているなんて」
ふふっ、と美優先輩は嬉しそうに笑う。そんな先輩の姿はもちろんのこと、ロープウェイから見える景色を俺もスマホやデジカメで撮影していく。
「成実さん。この広い景色を見ると、気分が落ち着くかもしれません。ほら、街の向こうには青くて綺麗な海が見えますよ」
「……本当だ」
それまで笑顔が少なかった大宮先生も、ロープウェイからの景色を見ていつもの柔らかい笑顔を見せるように。たまに霧嶋先生と笑い合っているから、もはやカップルにしか見えない。
頂上に近づくとより景色が広くなっていき、霧嶋先生の言うように麓の街並みの先には青くて綺麗な海を見ることができる。これも、よく晴れているからこそ見ることのできる景色なんだよな。そう思うと運がいいなって思う。
「本当にいい景色ですね。今日、美優先輩達とここに来ることができて良かったです。忘れることのない景色の一つになりそうです。また一緒にここに来たときは、懐かしいって思えそうです」
「そう思ってくれて良かった。私も素敵な思い出が一つできたよ。……また一緒に来ようね、由弦君」
周りに風花達がいるからなのか、美優先輩は俺の頬にキスしてきた。今のキスもあり、ここから見える景色で一番いいのは隣にいる先輩だと思うのであった。
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