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続編

第28話『元号越しそば』

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 予報通り、お昼近くになると雨脚が弱くなってきた。なので、俺達は伯分寺駅の近くにあるショッピングセンターへ行くことに。
 外に出ると、お昼にも関わらずかなり寒い。ここまで肌寒いゴールデンウィークは今年が初めてかもしれない。ただ、こういう気候だと、平成最後の日がより印象深くなりそうだ。
 ちなみに、ショッピングセンターに到着するまで、美優先輩とずっと手を繋いだ。先輩の手から伝わる温もりはとても優しかった。


 ショッピングセンターに到着すると、俺達はさっそく飲食店エリアに向かう。そば屋、パスタ、ファミリーレストラン、喫茶店、イタリアン、フレンチ、ラーメン屋、ファストフード店など様々なジャンルの飲食店がある。
 その中でも、メニューが豊富そうなファミリーレストランでお昼ご飯を食べることに。
 みんな自分の好きなものを注文する。ちなみに、俺は好きな料理の一つであり、明日から始まる令和という時代へのゲン担ぎとして、とんかつ定食を注文。
 とんかつ定食はもちろんのこと、美優先輩と一口交換したラザニアも美味しかった。


 昼食を食べた後はみんなでショッピングセンターの中を廻った。朱莉ちゃん、葵ちゃん、雫姉さん、心愛は特に楽しそうで。うちの地元にはここまで大規模なショッピングセンターはないけど、美優先輩の地元にもないのかな。
 服や下着を見たり、ゲームコーナーで遊んだり、スイーツを食べたり、家族へのお土産を買ったりしてショッピングセンターでの時間をたっぷりと楽しんだ。


 ショッピングセンターを出たときには外はすっかりと暗くなっていた。ただ、休日であり、平成最後の日ということもあってか、お昼頃に比べて多くの人で賑わっていた。
 途中、スーパーで天ぷらやいなり寿司や巻き寿司を買ってから家に帰る。
 家に帰るとすぐに、美優先輩と俺で夕食である元号越しそばを作り始めた。

「由弦君、手伝ってくれてありがとう。さすがに、9人分のおそばを1人で作るのは大変だっただろうから」
「いえいえ。それに、実家で数え切れないほどに作ってきたので、久しぶりに雫姉さんや心愛のために食事を作るのが嬉しくて」
「その気持ち分かるよ。私も朱莉や葵がいると思うと、いつも以上に張り切っちゃうんだよね。もちろん、料理が好きだからっていうのもあるけど」
「ですね。あとは、平成最後の食事を美優先輩と一緒に作りたいっていうのもあって。だから、こうして隣に立つことができて嬉しいです」
「……もう、由弦君ったら。照れちゃうよ」

 そう言いながらも、美優先輩は俺の頬にキスをしてくる。先輩は言葉通りの照れくさそうな表情を浮かべていて。それがとても可愛らしい。エプロン姿なのがまたいい。
 まさか、こんなに可愛い人と恋人として付き合うことになって、平成最後の日の夕食を一緒に作ることになるとは。俺は幸せ者だな。

「今、台所に入ったら熱中症で倒れそうですね、瑠衣先輩」
「そうね、風花ちゃん。リビングにいるのがちょうどいいくらいかも」

 そんな話し声が聞こえたので振り返ると、そこには風花と花柳先輩がニヤニヤしながら俺達のことを見ていた。その後ろには、朱莉ちゃんと心愛の中1コンビがドキドキした様子で見ていて。

「もう、瑠衣ちゃんも風花ちゃんも。あんまりからかわないで。そういう態度を取るなら、おそばの量を半分にするか、海老の天ぷらを抜きにしちゃうよ!」

 美優先輩はいつになく怒った表情を見せ、少し頬を膨らませている。俺に対して怒っているわけじゃないからか、今の彼女も可愛らしく思えた。

「ごめんなさい! 美優先輩! あたし、海老天大好きなんです!」
「あたしもおそばが好きだから、美優にそう言われちゃったら大人しくしないと。それに、あたし達がからかったことで美優や桐生君の手がくるって、2人がヤケドしたり、おそばをたっぷり食べられなかったりするのは嫌だからね」
「そう思うなら、からかうのはもう止めようね。あと、2人が食卓やテーブルを綺麗にしたり、配膳をしたりしてくれるかな?」
「分かりました!」
「風花ちゃん、やりましょう」
「はい!」

 そう言って、風花と花柳先輩はリビングの方に戻り、元号越しそばのためなのかテキパキと動いている。
 まさか、最初から2人に手伝ってもらうことが目的で、美優先輩は怒ったのだろうか。美優先輩は2人のことを見ながら「ふふっ」と笑っているし。

「それにしても、今日は結構寒いからか、こうしていると年越しそばを作っているみたいだよね」
「ですね。帰ってくるとき、暗くなっていたからか更に寒くなっていましたもんね。温かいそばがとても美味しく感じられそうです」
「そうだね」

 お互いの姉妹が家に泊まりに来ていて、こんなにも多くの人が自宅にいるとより年末年始って感じがしてくる。
 ――ピピピッ。
 おっ、そばが茹で上がったな。
 そばのゆで加減がちょうどいいことを確認し、俺達は元号越しそばの盛りつけをする。美味しそうだな。
 美優先輩がスーパーで買ったいなり寿司や巻き寿司をお皿に出している間に、俺はみんなのところに元号越しそばを運ぶ。昨日と同じように、桐生3きょうだいと白鳥3姉妹は食卓で。風花と花柳先輩、霧嶋先生はテレビの前にあるテーブルで食べることに。

「はーい、おいなりさんと巻き寿司です。おいなりさんは1人1貫、巻き寿司は1人2貫までですよ~」
『はーい』

 みんな、美優先輩にいい返事をしているな。特に風花と花柳先輩は。
 美優先輩は食卓とテーブルの方にお寿司を持っていく。実家でもこういう風にしていたのかなって思う。先輩はエプロンを脱いで、俺の隣の席に座った。

「みなさん、これが平成最後の食事になります。なので、年越しそばならぬ元号越しそばを由弦君と一緒に作りました。あとは、次の令和という時代がおめでたい時代になるようにお寿司も用意しました。では、平成最後の食事を楽しみましょう! いただきます!」
『いただきまーす!』

 そして、平成最後の食事が始まった。
 さっそく、美優先輩と一緒に作った元号越しそばを一口食べてみる。

「あぁ、美味しいです。あったかいおそばで正解でしたね」
「そうだね! おそば美味しい。今日が寒かったから、本当に年末年始って感じがするよ」

 美優先輩は楽しげな笑みを浮かべながらそう言う。
 そういえば、実家では毎年大晦日の夜は年越しそばとお寿司を食べていたな。この前の年末年始では、俺の高校受験を控えているからか、お寿司の量がかなり多かったっけ。
 今ごろ、父さんと母さんは実家で2人きりでそばを食べているのかな。俺達がいなくて寂しく……思っているかもしれないけれど、あの2人はラブラブだから2人きりの状況を思いきり楽しんでいそう。

「由弦! 美優先輩! おそばもお寿司もとっても美味しいです! 海老天最高!」
「今日は寒かったからか、温かいものが身に沁みるよね、風花ちゃん。本当に美味しいわ」
「私の分まで作ってもらえるなんて。ありがとう。2人の言うように、元号越しそばもお寿司もとても美味しい」

 風花と花柳先輩、霧嶋先生には好評のようだ。自分の作ったものを美味しいって言ってもらえるのは嬉しい。

「このおそば美味しいね、お姉ちゃん」
「そうね、ここちゃん。ゆーくんと美優ちゃんが、2人で頑張って作ったと思うとより美味しいわ」

 雫姉さん、とても幸せそうにそばをすすっているな。あと、美優先輩と俺が2人で頑張って作ったって姉さんが言うと、何故だか変な感じがする。

「由弦さんが言ったように、温かいそばで正解でしたね。今日がとても寒かったからかもしれませんが」
「まるで大晦日みたいだよね、朱莉お姉ちゃん。寒いし、夜ご飯におそばとお寿司だなんて」
「白鳥家でも、大晦日の夜にはおそばとお寿司を食べるの? 葵ちゃん」
「そうだよ、由弦さん。桐生家の方もそうだったの?」
「うん。大晦日の夜は年越しそばとお寿司を食べることが多いよ。だから、俺も今日は大晦日みたいだなって思ってる。外は結構寒くて、冷たい雨が降っていたからね。それに、こんなに大勢で食べるのって、年末年始やお盆くらいしかないから」
「由弦さんもそう思うんだ。何だか嬉しい」

 えへへっ、と楽しそうに笑いながら、葵ちゃんはいなり寿司を食べる。その姿が本当に可愛らしい。さすがは美優先輩の妹だ。あと、先輩も小学生の頃ってこういう感じだったのかなって思わせてくれる。

「それにしても、この食卓だけ見ていると、ゆーくんと美優ちゃんがもう結婚したように見えるな。2人の姉妹や妹達と一緒に仲良く食事しているから」
「そうですね、雫さん。もしくは、結婚に向けた両家の顔合わせを兼ねたお食事会でしょうか」
「そんな感じもするよね!」

 雫姉さんと朱莉ちゃんがそんな話で盛り上がっている。だからなのか、美優先輩は箸を止め、顔を真っ赤にして俺の方をチラチラと見てくる。

「姉さんが変なことを言ってすみません」
「ううん、そんなことないよ。お姉様と朱莉の話を聞いてドキドキしているけど。ただ、平成の間に由弦君とお付き合いするようになったじゃない。だから、令和が何年あるか分からないけど、できれば令和のうちに由弦君と結婚できるといいなって思ってる。結婚……したいです」

 そう言って、俺のことを見ながらはにかむ美優先輩がとても愛らしくて。2人きりだったら、キス以上のことをしていたかもしれない。そんなことを考えながら、美優先輩の頭を優しく撫でる。

「そうですね。俺も令和のうちに美優先輩と結婚したいと思っています。そのためにも、色々と頑張りましょうね」
「……うん! 約束だよ」

 美優先輩はそう言うと、俺に指切りしてくる。令和がどのくらい続くかは分からないけど、令和の間に美優先輩と夫婦という関係になることができれば幸いだ。
 その後も元号越しそばを食べる。ただ、何故だかさっきよりも熱く感じられるのであった。
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